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第7話

 魔法使いのティナとパーティを組んだ俺は、彼女のレベルを上げるために狩りへと出ることになった。ティナがクエストを受けるために必要な条件を満たしていない事も理由だが、これはお互いの戦い方を覚えるいい機会でもある。特に、俺は魔法についての知識がほとんどない。初期段階で取得出来る魔法と効果には一通り目を通したが、実際どのように発動し、どのタイミングで飛んでいくかを把握しておかなければ、実戦ではうまく立ち回れないだろう。


「へぇ、本当に口で唱えなくても発動するんだ」

 

 ティナが木製の杖を握りしめ、目の前のルッピに向けると、足元に鮮やかな魔法陣が浮かび上がった。更に中心から緑色の光が広がっていき、魔法陣の模様を埋め尽くした瞬間、風魔法の『ライトニングボルト』が轟音と共に放たれる。直撃したルッピは大きな破裂音と共に粒子となって消滅した。

 

「……なるほど、色は属性を表していて、光が発動までの時間を表しているって感じか。……ところで、ティナはどうして風魔法を?」

 

「みんな火属性魔法を打ってたから、同じじゃつまらないかなと思って……取っちゃった」


「はは……らしいと言えば、らしいや」


 魔法使いが取得出来る5つの属性のうち、多くのプレイヤーが最初に火属性を選ぶ理由は単純だ。それは、この階層に生息するモンスターの多くが地属性だからだ。始まって間もない状態では、魔法使いの多くがソロでレベリングをする事になるだろう。そうなった場合、有利な属性を選ぶのは至極道理だ。だが、彼女の場合は特に知識もなくフィールドに飛び出し、たまたま最初に遭遇したモンスターが水属性のルッピだったとか、そんなところだろう。


「やっぱり火属性も取ったほうがいいかな?」


「……いや、大丈夫だと思う。それに、レベルが低いうちから色々なスキルを取っていくのは良くないんだ」


 スキルにはそれぞれスキルレベルが設定されていて、最大でレベル1のものから10のものまで存在している。スキルレベルが大きくなるほど攻撃の倍率や追加効果が強化され、魔法であれば範囲や弾数が増えるなどの恩恵が得られる。とはいえ、現状のレベル帯であれこれスキルを取ってしまってはただの器用貧乏になってしまう。その事を説明すると、ティナは関心したように頷く。


「じゃあ、まずはライトニングボルトを3まで取るね」


「うん、それでいいと思う。足りない分は俺がカバーするし」


「やっぱりわたしの目に狂いはなかった。ラスタに声をかけて正解だったな~」


「まぁ、俺も人からの受け売りだけどね……昔やってたMMOで詳しい人がいて、色々教えてくれたんだ」


 アルカディアのレベルキャップは『階層+5』と非常に低く設定されていて、この階層での最大レベルはたったの6だ。その場合、取れるスキルの数もせいぜい2、3個程度が限界だろう。恐らくこれは、パーティを前提とした中~大規模なレイドバトルを想定しての設定になっている。ようは、足りない分は人数でカバーして遊んでくれということだ。


 人数が少なければ少ないほど、個々に求められるフィジカル要素が大きくなっていく。今はまだしも、今後もソロで上を目指していくプレイヤーは余程の自信家か、自分の可能性を追い求めた探求心の持ち主か、あるいは単なる無謀者のどれかだろう。かくいう俺も、どちらかというとそっち(ソロ)の方が好みではあるのだが。


「よし、それじゃあ次はアクティブモンスターで実戦してみよう」


 魔法についての知識と戦い方を一通り確認した俺達は、ウルフが生息する荒野地帯へと向かった。



 

 

「それじゃあ、まずは俺がタゲを取って誘い込むから、ティナは魔法をお願い」

 

「うん、任せて」


 荒野地帯に到着すると、ニ体のウルフを発見した。俺は後方のティナに合図を送った後、新たに新調した片手剣の『ブレイド』をゆっくりと引き抜いた。ブレイドは鍔がない分軽くなっていて、動きの速い相手には有利に働くはずだ。威力も勿論、初期装備のソードよりも上になっている。


 足元の小石を拾い上げると、近くにいるウルフへと投げつけた。すると、小石が地面に当たる音に反応し、一体のウルフがこちらへと接近してくる。


 本来なら一人でも十分に倒せる相手だが、今回はティナにパーティでの役割と自信を付けてもらうのが目的だ。俺はウルフの攻撃を剣の平で受け止め、ティナに指示を出した。


「いま!」


 振り向くと、ティナが杖を構えて魔法の詠唱を始めていた。しかし、どういう訳か彼女は途中で身体を動かしてしまい、同時に魔法陣が消滅する。詠唱中に動くとスキルの発動がキャンセルされる事は教えたはずだが、どういう事だ?


 何があったのか尋ねようとした瞬間、こちらが言うよりも早く彼女は大声を上げた。

 

「ラスタ!前!」


 鬼気迫るその声に急いで前方を振り向いた。すると、離れた場所からもう一体のウルフがこちらに向かって疾走してきている。まさか、こいつら『リンクモンスター』※か?だとすると、今まで引っかけていなかったのは偶然だったのか。

 (※同じ種類のモンスターが一定範囲内で交戦していると反応して襲い掛かってくるシステム)


「……くっ」


 交戦中のウルフを払いのけ、左側へ転がり込んで二体目の攻撃を躱した。しかし、結果的にウルフを自分の後ろに通す形になってしまい、このままではティナがターゲットにされてしまう。


「左側に走ってこっちへ!」


 急いで指示を出し、彼女の動きに合わせて右回りで迎えに行くと、再びウルフから庇う形で剣を構えた。


「……1発はこのまま打っていい。それから、敵が二体以上いる時は必ず斜線に俺を入れるように立ち回って!」


「わかった!」


 標的を見失ったウルフにライトニングボルトが放たれると、ウルフの身体は短く弾き飛んだ。そのまま何度か魔法を打ち込み、ようやく一体の消滅を確認。地属性モンスターのウルフは弱点が火のため、風属性のライトニングボルトでは十分なダメージを与えられない。それでも、スキルレベルを上げた分ダメージは上がっている。


 残りの一体がこちらを視認し、まっすぐと駆けてくる。すぐ後ろにはティナがいるため、ここではその場で攻撃を受け止める。そして剣の平を上に掲げ、黄色い輝きを放つ刀身をウルフの頭部へと叩きつけた。対象を一定確率でスタンにさせる片手剣スキルの『バッシュ』だ。バッシュについているスタン効果でウルフは短く気絶状態になると、すかさずスラッシュを打ち込んだ。更に、後方から魔法の追撃が放たれ、残る一体も倒すことに成功した。


「うん、タイミングはいい感じ。ほんとに初めてなのかってくらい正確だよ」


「そ、そうかな」


 ティナは少し照れくさそうに笑みを浮かべているが、危険を察知して詠唱を止める判断や追撃のタイミングは経験者から見れば十分すぎるほどだ。近接職の場合はこれらに回避や攻撃の位置や方向までも加わるためそう簡単にはいくまいが、彼女が剣士ではなく魔法使いを選んだところも非常にマッチしている。戦闘系のコンテンツはあまり触れていないと言っていたが、これだけの実力があれば、後少し練度を上げるだけで十分に突破出来そうだ。街に戻るまでにレベルも上がりそうだし、もうクエストに挑んでみてもいいかもしれない。


 東側に目をやると、広がる荒野の先に一際大きな洞窟が見えた。あそこがクエストで訪れる事になる『盗賊のアジト』だ。洞窟の方を見ながら攻略の段取りを考えていると、ちょうど中から複数のプレイヤーが出てくるところが見えた。彼らもこちらの方に気付いたらしく、浮足立った様子でまっすぐと近づいてくる。その足取りや表情からして、どうやら無事にクエストをクリアしたようだ。


 見た目からして、剣士が3人と魔法使いが1人、司祭は……いないようだ。1層で司祭が必要になる場面はせいぜいエリアボス戦くらいだから、いなくてもそこまで驚きはしない。


「やあ。君たちも、クエストをやりに来たのかい?」


 先頭のややガタイのいい男がこちらに声をかけてきた。様子から見ても、彼がリーダーであることは明らかだった。


「……そんなとこです」


 男の問いに答えると、「そうか」と小さく呟きながら、ティナの方をまじまじと見ている。視線に気づいたティナが警戒するように目を細めるが、男は気に留める様子もなく、再びこちらに振り向きなおした。


「ひとつ、アドバイスをやろう」


「アドバイス?」


「あぁ、彼女は魔法使いだろう?洞窟内では、魔法は使うタイミングに気を付けた方がいい。でないと……」


「ちょ、ちょっとローレンス!やめて!」

 

 男が話を続けようとした時、後ろにいた小柄な少女が慌てて止めに入ってきた。金髪のショートヘアに、華奢で小柄な体型だ。ティナと同じ魔法使いのローブをしているところを見るに、彼女も魔法使いなのだろう。 


「なんだ、ティンゼル。大事なことだろう?」


「そんなのわざわざ言わなくても、戻ってから掲示板に書けばいいことでしょ!」


 耳まで真っ赤にしている彼女の素振りから見るに、何か恥ずかしい行動を起こしたであろうことは容易に想像出来た。しかし、ここで無理にでも答えを聞くほどこちらも野暮ではない。


「あの……無理に言わなくていいですよ。もう少ししたら俺達も街に戻りますし……掲示板に書いといてもらえれば、後で見ますから」


 やんわりと間に入り断りを入れると、ローレンスは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「む……そうか。悪かったな少年」


 彼らはそのまま街へと戻っていった。途中でティンゼルが何度か振り返る素振りを見せていたが、特に変わった動きもなく、視界から消えていった。 すると、隣に立っていたティナが問いかけてくる。


「一緒に戻った方が良かったんじゃない?」


「え?……いや、なんか大勢は苦手っていうか……はは」


「そんな事だろうと思った」


 彼女は少し呆れたような、それでいて笑みを浮かべながら言った。その後は彼らに追いつかないよう、狩りをしながらゆっくりと街へ戻った。


 掲示板には、『洞窟内で魔法を使う際は、音や振動が反響して敵に気付かれやすいので注意』という書き込みがあった。投稿者名はイニシャルで『L』と表記されているが、恐らくローレンスだろう。


 ふと、最初に見た黒剣クエストの投稿者名を確認してみると、イニシャルが『K』と記されていた。一瞬、頭にある人物の顔が浮かんだが――まさか、ね。

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