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第5話

 道具屋を後にし、ドアの前で先程まで話していた少年の事を思い返していた。


 なかなか面白そうな奴じゃないか……。


 HdOの経験者でもあり、ウルフとも渡り合える程の実力となると、攻略組に参加していてもおかしくない。だが、本人の性格も相まってか惜しい人材だ。


 もっとも、取引相手としてはある意味理想でもある。どのゲームでも攻略を急ぐ連中は、せっかちで性格の悪い奴が多いからな。


 とは言え、いずれはあいつも攻略組に加わるだろう。或いは、そうなるように誘導するのも面白いかもしれない。


 目を閉じながら笑みを漏らしていると、メッセージの受信を知らせる音が鳴った。片目を開け、視界に表示されている通知を確認する。

 

「きたか」


 階段を降りながらメニューを呼び出し、メッセージのタブを開く。すると、そこには『メキマイト』の名前と短い一言が表示されていた。


『今どこだ?そろそろ終わりそうだぞ、早く来い』


 素早く返信を済ませ、街の門を潜ると、人気のない夜道を急ぎ足で駆け抜けた。




「カル、こっちだ」


 脇道にそれ、茂みをかき分けながら進むと聞きなれた声が響いた。顔を上げると、斧を背負ったスキンヘッドの男――メキマイトが小さく手招きをしているのを見つけた。彼とは以前からの知り合いで、共にアルカディアの抽選券を勝ち取った友人だ。

 

「遅いぞ、何してた?」


「わりぃ、ちと野暮用でな。で、どうなってる?」


 隣に腰を下ろし、茂みの向こうへと視線を走らせる。草原の中に、人工物で作られた円形の床が広がっている。そこには巨大な白い羽を持つボスモンスター――『ルッピーリング』が舞い上がり、周囲には取り巻きの群れと、それらと戦う複数のプレイヤー達が見える。


「現状残っているのは2組だ。銀髪の男の方が3パーティで、金髪の方が2パーティってとこだな」


「次の大技は?」


「そろそろ来るはずだ。銀髪の方は全体のバランスが取れているから耐えられるだろうが、金髪の方は一人だけいた司祭がやられちまった。こっちは時間の問題だろうな」


 しばらく様子を見ていると、ルッピーリングは上空の戦闘エリアスレスレまで羽ばたき、大きく体を膨らませた。視線を下に移すと、盾を持った剣士が頭上へと盾を掲げている。

 

「これに耐えられれば、ようやくクリアか」


 アルカディア第1層のエリアボスであるルッピーリングの大技は、その巨体を活かした『落下攻撃』だ。攻略組の情報によると、落下攻撃はボスのHPゲージが変化するタイミングで繰り出されるらしい。このゲームのHPゲージは全快時の緑から黄色、そして赤へと変化していく。メキマイトに呼び出された時点で黄色の攻撃が終わっているとすれば、この攻撃は赤になった事を意味する。


 つまり、この一撃を耐えきれば、実質勝利という事になるだろう。


「レアドロップはあると思うか?」


「昔のゲームを元にしてるんだったら、当然あるだろ」


「だよなぁ。となると、次からは参加した方が良さそうだな」


 メキマイトは腕を組みながら頭上を仰いでいる。


 レアドロップの情報は、商売人にとって非常に貴重だ。ドロップそのものが強力な武器や役立つアイテムであることも多いが、その情報を誰よりも早く手に入れるという事自体がアドバンテージになる。しかし、手に入れたプレイヤーが必ずしも教えてくれるとは限らない。その場合は自分達で手に入れるか、信頼できる知り合いに倒してもらうしかないだろう。


 戦闘メインで進めるつもりのない俺らよりも、あいつに頑張ってもらった方が都合が良さそうだな。


「何ニヤニヤしてんだ、気持ちわりぃ」


 メキマイトに突っ込まれ、自分がいつの間にかニヤけていた事に気が付いた。


「あぁ、いや。強ぇ装備とか出るんなら、使ってみてほしい奴がいてな」


「なんだ、お前の目にかなう奴でもいたのか?」


「まあな。面白そうだったんでツバを付けておいた」


「昔からお前はそうだよな。まぁ、取引相手を見つけるのは大事なことだが、本分を忘れちゃいけねぇ。そら、大技が来るぞ」


 そうだ。俺達商売人にとっての本分は、如何にして有益な情報を手に入れるかだ。誰がボスを倒したかではない、ボスが何をドロップしたかが重要なのだ。そして、ボスが倒された後はいち早く次の層へ辿り着き、クエストやモンスターの情報を手に入れる。それこそが俺達流のゲームの楽しみ方だ。


 メキマイトに言われ、戦闘中の集団の方へと視線を向ける。すると、巨大化したルッピーリングが下にいたプレイヤーの元へと急降下した。巨大な体から生み出される衝撃波は激しく地面を揺らし、こちらの方まで振動が伝わってくるほどだ。そして土煙が空間を覆い、視界を遮る。


 

 次第に煙が薄れ、縮んだルッピーリングの姿が浮かび上がる。そして、足元には生き残った僅かなプレイヤー達の姿があった。何度もこの大技で壊滅している光景を見てきたが、彼らもレベリングや対策を練ってきたのだろう。


「終わったな。行くぞ」


 メキマイトの肩を叩き、茂みから身を乗り出す。すると、同じように草陰からプレイヤー達が姿を現した。どうやら皆考える事は同じらしい。


 生き残ったプレイヤーの中に、銀髪の姿があった。彼は一歩前へと出ると、右手に持つ黒光りした剣を掲げ、ルッピーリングの身体へと振り下ろした。その瞬間、モンスターの体から大量の粒子が飛び散り、同時にエリアを覆っていたカーテンの幕がゆっくりと消滅していった。


 一瞬の静寂が訪れ、生き残ったプレイヤー達の歓声が沸き上がった。その声に混じり、機械の音声がアルカディア全体へと流れる。

 

『おめでとうございます。たった今、第1層のボスが討伐されました。一時間後に、次の街へのゲートが解放されます』


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