「冒険の書七:ルルカのひとりごと①」
~~~ルルカ視点~~~
わたしの名前はルルカ・ルーシード。十四歳の女の子。
赤ん坊の頃に捨てられたので、親の顔は知らない。
ハイドラ王国南方にあるセントムーン地方の修道院で育ったの。
今でもそうだけど、あまり出来のいいコではなかったんだ。
同い年の子供より小さくて、勉強も運動も苦手で要領も悪くてさ。
おまけにあがり症で、神聖術を唱えようとすると噛む癖まである。
結果としてついたあだ名が『ダメっ子ルルカ』。
同じ修道院の子供たちにイジメられるのが辛くて冒険者になってからも、それは変わらなかった。
ダメッ子仲間のディアナちゃんとコンビで『落ちこぼれーズ』と呼ばれるのもしかたないというか……いや、それはさすがにディアナちゃんに失礼かな。
彼女は変わった。
一夜にして蛹が羽化し、蝶になるように。
ディアナ・ステラ。
八歳ぐらいの、エルフの女の子。
『魔の森』の奥で『紅牙団』に捨てられ、オルグに追われて離れ離れになって以降、彼女は変わった。
運動、野営、虫、人付き合い。
苦手なものばかりの彼女が、それらを全部克服した。
理由は、オルグに追われている最中に頭を打って記憶を失ったからだという。
そんなことある? って思ったけど、実際あったのだ。
その変貌ぶりがね、またすさまじいんだよ。
性格はもちろんなんだけど、動きがすごいの。
小さな拳を振るって、足を振り上げて、自分より遥かに巨大な魔物をバッタバッタと倒していくの。
しかもさ、これがまた楽しそうなんだあ~。
「さあー来い! さあー来い! 片っ端からかかって来い魔物ども!」とか言って、縦横無尽に暴れ回ってさ。
ものすご~~~~~く嬉しそうな笑顔をするの。
それでいて、可愛いんだよ。
戦っても最強だけど、見た目も最強なんだよ。
顔立ちは子供っぽくてあどけないんだけど、目も耳も鼻も頬も唇もすんっっっごい綺麗でっ、トータルして見てもめちゃめちゃバランスが整ってるのっ。
今でも月の妖精ぐらい可愛いんだけど、将来は女神か天使かってレベルの美人さんになることが確定してるのっ。
ローブが明らかに大きすぎてぶかぶかなのもイイ~んだよっ。小さな指先が裾からちょんと覗いてたりするとこなんかさ、本当にもうね……ハア……(語彙喪失)。
しかもね、優しいんだぁ~……。
強くて可愛くて、性格までイイんだよぉ~……(陶酔)。
「ルルカ、胸を張れ。おまえには才能がある」
とか言って、ダメなわたしをやる気にさせてくれてさあ~。
「うむ、よくやったぞ。怖いのに逃げずに頑張ったな、偉いぞ」
とか言って、そのつどそのつど褒めてくれるの。
もちろんわたしのことだから、相変わらず失敗はするよ?
ちょっと聖気の使い方を覚えたぐらいじゃ全然無理な魔物もいるし、体力がないから戦いが長引くとす~ぐバテちゃうし。
でもそんな時はね? ディアナちゃんがこう……ズズイって前に出てくれてさ。
言うわけよ。
「ルルカ、ここはワシに任せて下がっておれ。大丈夫だ、おまえを絶対傷つけさせはせん」
とか言ってとか言ってとか言って~。
物語の中のイケメン王子さまみたいなことを素でするのっ。
もお~ね、わたしはメロメロですよっ。はいっ。
しかもさしかもさ!
ディアナちゃんってばかな~りの綺麗好きなんだよ!
小川や泉を見つけるたびに水浴びしようとするの!
「衛生管理は重要だ。毒に雑菌、魔物の放つ瘴気。それらによって引き起こされる病は多くあり、また多くの戦士の命を奪ってきた。おまえもできるかぎり清潔を心がけるのだぞ、ルルカ」
とか言ってさ、理屈はわかるんだけど!
でもさあ、それってお互い裸になるってことじゃない⁉
服を脱いだディアナちゃんの白くてすべすべな肌がピー(自主規制)なわけじゃない⁉
そのせいかわかんないんだけどさ! 最近わたし、雑念みたいなのが湧くようになっちゃったの!
わたしにそういった性的嗜好はなかったはずなんだけども!
強すぎて可愛すぎてイケメンすぎるディアナちゃんと触れ合ううちにおかしな気分になっちゃうことがよくあって……!
「どうしたルルカ、何をブツブツ言っておる?」
「ひゃん!?」
突如後ろから声をかけられたわたしは、びっくりして跳び上がった。
「どどどどどどうしたのかなディアナちゃん!? ちちちちちちなみにわたしなんか言ってた⁉ 心の声がダダ洩れてた!?」
「いや、よくは聞こえなかったが……」
「そおぉおぅ~うなのおぉっ!? それは良かったなあああぁ~っ⁉ いやホントに危なかったなあああぁ~っ⁉」
「……さきほどから顔色が赤くなったり青くなったり大変だが、どこか調子が悪いのか?」
「いえいえいえいえまったく問題ないけどおぉぉー!? 安心したおかげでたぶんこれからどんどん良くなっていくと思うけどおぉぉー!?」
「……ひょっとして、熱があるのか? 水浴びしたせいで体が冷えたか? 焚き火でもして温まるか?」
あああああああわたしの身を案じてくれる超優しいぃぃぃぃぃー!
背後に光がキラキラしてて目が潰れるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!
イケメンムーブで浄化されそうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!
って誰が浄化されるか!
わたしは穢れを知らぬ僧侶ですうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!
「ハア……ハア……! 大丈夫! まったく冷えてないし今まさに絶好調になったとこ!」
ディアナちゃんのイケメンムーブで気が狂いそうになったわたしは、無理やり大声を上げて正気を取り戻した。
と、そこへちょうどよく魔物が現れた。
カマキリ人間が一匹。
以前のわたしならビビって逃げ出してたとこだけど……。
「あ! 魔物だ! 退治しないと!」
「おお、ずいぶんとやる気だなルルカ」
「そりゃあもちろんだよ! だってわたし僧侶だし! 魔物を倒してみんなの生活に安寧をもたらすのが仕事だし! あとあと! 世界最強になるディアナちゃんの隣に立つにはこれぐらいできないとだしね!」
「おお、よい心意気だ。背筋に鋼の芯が入ったな」
「ううっ……誤魔化し半分で言った手前、そう素直に褒められると心がチクチク痛むけど……と、とにかく行っくぞーっ! 『理力の鎧』! 『理力の鎧』! 『理力の鎧』! 『聖なる一撃』!」
神聖術で防御を固めたわたしは、聖気の光輝く戦杖を構えてビッグマンティスに突進していく。
「うおおおおぉー! 魔物よ輪廻の輪に還れえぇぇぇー!」
この先もずっとディアナちゃんの隣にいるために。
あとついでに、褒めてもらって頭を撫でてもらって、夜はピッタリくっついて寝て。
幸せな日々が一日でも長く続くように、わたしは頑張り続けた――そして、一か月後……。
ルルカの脳内はこんなです!
いい意味でも悪い意味でも欲望に忠実な娘です!
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