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「冒険の書六十五:VSラーズ!②」

 ルルカの結界を十重二十重とえはたえに囲むラーズの親衛隊のせいで視界が通らず、いま戦争がどんな状況になっているのかがわからない。

 歴戦の猛者であるパラグイン辺境伯へんきょうはくの指揮する軍がそうそう簡単に敗れるとも思えんが、ほんのちょっとのほころびで崩れるがことがあるのもまた戦争だ。


「いざとなればリリーナを連れて逃げるよう、ベルトラには言ってあるが……」


 もしパラサーティアが陥落すれば、今後の『闇の軍団(ダーク・レギオン)』との戦いに重大な支障をきたすだろう。

 最悪、一気に王都まで攻め込まれることもあるかもしれない。


 だがリリーナが生きていれば、多少なりとも士気は保てるし時間も稼げる。

 過酷な戦場を生き残った『悲劇の第三王女』は兵士たちが忠誠を誓うのに都合のいい旗印はたじるしになるだろうし、道々の街や村で義勇兵を募ることもできるはずだ。

 

「もちろんそうならないためにも、ワシがここでサクッと決められればいいのだが……」


 ワシとラーズの戦いは、ハッキリとワシの形勢不利になっていた。


 問題なのは、やはりレベル差と体格差。

 竜種特有の『目の位置』や、炎のブレスなどの特殊スキル、未だ全貌の不明な魔法の三叉矛トライデントなどの不確定要素もある。


 が、一番問題なのは三叉矛による戦闘技術。

 特に出入りの速い『突き』だ。  


「そらそら! いくぜお嬢ちゃん!」


 ――ビュ……ビュビュン!


 頭、胴、足。

 ラーズの突きは正確かつ鋭く、躱すので精いっぱい。

 手でさばければ話は違うのだが、それには『魔法の三叉矛』の不気味な迫力が邪魔をする。

 ここまでの戦いでは見せていないが、なにかとっておきの手段――攻撃時にのみ使える特殊効果のようなもの――があるかもしれない。


「手で捌いたところに特殊効果でも合わせられたりしたら、それだけで戦闘が終わってしまうしな。うむむむ……」


「どうしたどうしたお嬢ちゃん、さっきまでの威勢はどうした?」

 

 苦しむワシの顔を見るのが楽しいのだろう、ラーズは調子に乗って突きまくってくる。


「くっ……やらせておけば!」


 攻められっぱなしはいかんと考えたワシが無理やり飛び込み突きを放つが、三叉矛の柄で容易たやすく受けられた。


「ならこっちはどうだ!」


 続けて蹴りを膝に見舞うも、あっさり回避される。


「はい残念でしたー♪ そんなわかりやすい攻撃、当たらねえよ。ま、当たったとしてもこの鱗で弾いちまうがなっ」

 

 竜人間ドラゴニュートの鱗は鋼鉄の硬さを誇る。

 つまりは当てるにしても、『肉を切らせて骨を断つ』ぐらいの覚悟を持って踏み込まねばダメージを与えられないというわけだ。


「ちっ……いったん退がるかっ」


「お、距離をとっちゃう? 距離をとっちゃう? そんなことしたらどうなるかわかってるー?」


 後ろへ跳んで距離をとったワシに、炎のブレスが飛んでくる。

 もちろん今回はこの追撃が予想できていたので、普通に横に跳んで躱すことができたが……。


「こいつはなんとも厄介な相手よの」


 ワシは思わずボヤいた。


「時間をかければ技術の差で倒すことはできるだろうが、今はその時間がないときてる」


 戦争の行く末も不安だが、もっと不安なのはルルカの張った結界だ。

 ラーズの親衛隊はどんどんと数を増しており、その分圧力も増している。

 このままではいつかルルカが倒れ、結界を破られるだろう。

 そうなったらおしまいだ。


「……なあーおい、お嬢ちゃん。今、なんて言った?」


 突然、ラーズが三叉矛をる手を止めた。

 何に対して怒っているのだろうか。

 妙に気魄のこもった目で、ワシをにらみつけてくる。


「時間があれば、俺様を倒せるとか言ってなかった? さすがに聞き間違えだよなあ~?」


「いや、たしかに言ったぞ。時間さえあれば、ワシはおまえを倒せる」


「おいおい、悔し紛れにしても言い過ぎじゃねえか? こんだけ圧倒的に攻められておいて、時間があれば勝てるだあ~?」


「事実だ。リーチの差はともかく、おまえよりもワシの方が技術が高い。体力配分に関しても、まあ最初ハナからワシのことを舐めているのだろうが、おまえはまったくコントロールが効いていない。時間をかければかけるほどワシの方が有利になる、つまりは勝てるという理屈だ」


「は・あ・あ・あ・あぁ~?」


 ワシの言葉が戦士としてのプライドを傷つけたようで、ラーズは目を血走らせて怒っている。

 

「あーあーあー、そういえば昔もこんな奴らがいたなあ~。懐かしき忌まわしき、人魔決戦の時だ。俺様に勝てねえのがよほど悔しかったんだろうな、おまえみたいな拳士たちが言ってたわ。『我らの方が技術が高い。たとえ負けても我らが流派が負けたわけではない』とか、『ガルムさえここにいれば』とか、眠たいことをよお~。だがけっきょく、全員死んだんだわ。俺様がこの手で殺してやった。そのガルムも剣術バカのグリムザールと相討ちで死んだんだが……なんて言ったっけなあ~、あいつらの流派。ドラゴ……なんとか? パッとしねえ流派の、パッとしねえ拳士どもだったぜ」


「……ドラゴ砕術さいじゅつ


「ああ?」


「……ドラゴ砕術というのだ。その流派は」


「はあ~? なんだっておまえそんなことを知って……?」


 ドラゴ砕術はワシの師匠であるドラゴ・アルファが創始した拳術だ。

 金や名誉に無頓着むとんちゃくな方だったこともあり、門下生のほとんどは貧民街の子どもや戦災孤児だった。

 ボロ布を着たみすぼらしい食い詰め者たちは、しかし師匠の教えのおかげで立派な戦士となり、対魔族とのいくさの中で多くの武勲ぶくんを挙げた。


 自らの拳で金を稼くことができるようになり、食うのに困らなくなり、中には家族を持った者もいる。

 皆は師匠に感謝し、いずれなんらかの形で恩を返そうと、それぞれが胸に誓っていた。

 それはもちろんワシも同様で、人魔決戦が終わったら皆と落ち合う予定を立てていたのだが……。

 

「しかしそうか……皆、死んだのか」


 あの広大な戦場で、よりにもよってこいつに当たって。

 失意の中で、命を落としたのか。


「……おまえが(・ ・ ・ ・)殺したのか(・ ・ ・ ・ ・)

 

 プチン、と。

 何かが切れる音がした。

 急速に体温が上昇し、目の前が真っ赤になった。


「覚えておけ、ラーズ。ドワーフという種族は、仲間への愚弄を決して許さんものなのだ」


「はあ~? ドワーフぅ~? おまえ何を言って……」


「おい! ルルカ!」


「なあーにぃ!? ディアナちゃん!?」


 結界を維持し続けているルルカに、大声で呼びかけた。


「あと三分だ! 三分耐えろ! そしたらワシが――」


 ワシはキッと、ラーズをにらみつけた。


「――こいつを、殺してやる」

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