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「冒険の書六十一:恐怖の幼女、降り来たる」

 ~~~ゴブリンのゴブ太視点~~~



 

 ゴブリンのゴブ太は、魔戦将軍ラーズの本陣にいた。

 本陣付きといっても、親衛隊ではない。

 役割は主にラーズの小間使いと、『人狩り(マンハント)』。


 ラーズは竜人間ドラゴニュートのくせに他種族の、しかも幼女を愛でる特殊性癖を持っている。

 その嗜好を満足させるべく戦場を駆け回り、幼女の生け捕りをする係を『人狩り』と呼ぶのだ。


 ラーズは好きなもののためには金を惜しまない性格だったので、美しいのを捕らえてきた者には莫大な恩賞をくれた。

 他のゴブリンたちは上手く立ち回って儲けまくっていたが、ゴブ太は生まれつきドジなので、獲物を横取りされてばかり。

 それでもなんとか見繕みつくろっては献上するのだが……。


 ――ゴブ太おまえ、こんなブスを俺さまが好むと思うのか? 手足が二本ずつあればいいってもんじゃねえんだぞ?


 ゲンコツを落とされ、怒られてばかり。


「くそっ……今日こそは恩賞を手に入れてやるゴブ!」


 大都市パラサーティアの攻略戦があるということで、今日のゴブ太は気合いが入っていた。


「パラサーティアは大都市だから、たぶん幼女がいっぱいいるゴブ!」


 これまでの経験から、ラーズの好みは把握していた。


「色が白くて手足が小さくて、瞳が宝石みたいに光ってて、服がぶかぶかで……。あとあと、精神的に大人びてる奴が一番イイとか言ってたゴブねえ……」


 ラーズの好みを指折り数える。

 

「けっこうレアな気がするけど、そんなのを献上すればきっと、目もくらむようなお宝を貰えるはずだゴブ」


 ふっと顔を上げると、不思議な物が目に入った。


 空を『誘惑する悪魔(サキュバス)』が飛んでいる。

 いや、それ自体は不思議な光景ではない。

 ゴブ太の故郷はサキュバスの里に隣接していたため、飛んでる姿はよく見かけた。


「……なんでまた、幼女を二匹も連れてるんだゴブ? ラーズ様、『人狩り』を増やしたのかゴブ?」


 サキュバスは二匹の幼女を連れていた。

 一方は人族の幼女で、こっちは多少トウが立っ(・ ・ ・ ・ ・)ている( ・ ・ ・)が、もう片方のエルフ族の幼女がとんでもない掘り出し物だった。


「あ、あれだゴブ! ちょうどあ(・ ・ ・ ・ ・)んな感じの( ・ ・ ・ ・ ・)が、ラーズ様の好みど真ん中だゴブ!」


 ゴブ太は興奮した。

 このエルフの幼女は明らかに今までのと違う。

 魂を震わせる怪しげな魔力を秘めてでもいるかのようで、ゴブリンであるゴブ太の心臓すらも激しく脈打った。


 それは他のゴブリンたちも一緒だったようで……。

 

「これは掘り出し物だゴブ! これをお届けすればラーズ様が褒めてくれるゴブ!」


「サキュバスなんかの手柄にさせるわけにいかないゴブ! 横取りするゴブー!」


「覚悟するんだゴブウゥゥゥゥウー!」


 十匹に及ぶゴブリンが、一斉に襲い掛かる。


「し、しまった……出遅れたゴブ!」


 ゴブ太は焦ったが、すでに遅い。

 サキュバスと人族、そしてエルフ族の幼女は一瞬でゴブリンたちに取り囲まれてしまった。

 その姿が見えないほどの密集っぷりで、これはもうゴブ太の出る幕はない。


「お、終わったゴブぅ……」


 ゴブ太がガックリを肩を落とした――その瞬間だった。


 ――ドゴッ!


 重い打撃音と共に、ゴブリンが一匹飛んだ。

 宙高く舞い上がり、地面に体が打ち付けられた時には見るも無残な死体に成り果てていた。


「……ゴブ?」


 ゴブ太が驚く間にも、打撃音は続いた。

 ドゴン、ドゴン、ドゴン……。

 音のたびにゴブリンは一匹ずつぶっ飛び、気が付いた時には狩猟係十匹すべてが死んでいた。


「な、な、な……何が起こったんだゴブ?」


 ゴブ太の驚きをよそに、エルフの幼女は笑った。

 ニイと唇を引くと、ゴブリンですらとりこにするような、艶然えんぜんたる笑みを見せた。


「……ふん。ゴブリンどもの暴走は計算外だったが、ここまで来(・ ・ ・ ・ ・)れば十分( ・ ・ ・ ・)。あとは大将首をるだけだ」


 つぶやいたかと思うと――その姿がかき消えた。

 直後、魔戦将軍ラーズの本陣内に、無数の悲鳴がこだました。


「な、なにが起こってるんだゴブうぅ……?」

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