「冒険の書四:まずはジョブチェンジ」
翌朝、最寄りの街『ベルキア』へ向け出発することにしたワシらだ。
当然だが道中では無数の魔物との遭遇が予想されるため、ルルカは「ううっ……この森を帰るのかあ~……」などと言って最初から怯えている。
ワシの背に隠れ、ぶるぶると膝を震わせている。
ま、これまでに遭遇した事件(パーティー追放+魔物に遭遇して散り散り+変態エルダートレントに体をまさぐられる)を考えれば無理もあるまい。
心に傷も負っているだろうから、ここはワシが道を切り開いてやろう。
「大丈夫だ。すべてワシに任せておけ」
「でぃ、ディアナちゃんが全部倒すから安心だってこと?」
「うむ、その通り。……と言いたいところだが、この体にも限界はある」
「げんかい?」
「そうだ。せっかく手に入れた……目覚めた……潜在能力……だが、どうもパワーが強すぎるようなのだ」
魔力の総量こそ凄まじいが、肉体自体はエルフの幼女のものだ。
骨は細く肉も少なく、『魔力』を『気』に転用することで瞬間的に能力を向上させることはできるものの、やりすぎれば肉体の方が先に壊れてしまう。
「例えるならば『馬の心臓を搭載したネズミ』のようなものだな。出力に対して肉体が追いつかんのだ。ということでワシは、ジョブを変えることにした」
「ジョブを変える? 魔術師、辞めちゃうの?」
「そうだ」
「ジョブ変えたらレベル戻っちゃうよ? 一からやり直しだよ?」
もったいない、という感じでルルカ。
「知ってる。だが変える」
短く答えると、ワシは地面に膝をついた。
両手を胸に当てると、目を閉じて祝詞を唱える。
「『職と階の神グラディオンよ、ワシに数多の試練を乗り越える力を授けたまえ』」
世界中の人々に職を与え、その頑張りに応じた褒美をレベルやスキルという形で与えてくれる『労働神グラディオン』は、即座にワシの祈りに応えた。
周囲の空気が薄くなり、気温が下がったかと思うと、ワシの全身を緑色の光が包み込んだ。
光はやがて、カードの中に染み入るように消えていき――
「うむ、しっかりと変わっておるな」
ギルドカードを確認すると、表記が『ジョブ:魔術師 レベル:九』から『ジョブ:格闘僧 レベル:一』へと変わっている。
「わわ、格闘僧になってる。ディアナちゃん、格闘僧になったんだ?」
ワシの手元をのぞき込んだルルカは、口に手を当て「わあ」と驚きの声を上げた。
「うむ、魔術師のままレベルを上げると知力や魔力が上がりやすくなり、『魔気変換』が容易になる。特化型のステータスを構築する上でも、魔術師の方が長い目で見ると有利というのは確かだが……」
ちなみに『魔気変換』は今作ったワシの造語で、『魔力』を『気』に変換する一連の動作を呼ぶ。
「さっきも言ったようにな、出力に肉体が追いつかんのよ。無理をしすぎると骨や筋肉がイッちまう」
「い、イッちまうというのは……?」
「パアーンッと弾ける」
「ひえぇぇぇぇ……っ?」
怖い想像をしたのだろう、ルルカは頭を抱え悲鳴を上げた。
その想像は、おそらく当たっている。
先ほどの『馬の心臓を搭載したネズミ』の例えの通りだ。
筋断裂や骨断裂は当たり前、内臓系も無事では済まず、最悪、死ぬ可能性すらある。
そこでワシが選んだのが『格闘僧』だ。
前世と同じジョブなので体に馴染むというのもあるが、ジョブそのものによる恩恵がデカい。
レベルアップごとに筋力・体力が向上し、『魔気変換』が肉体に及ぼすダメージを弱めてくれる。
ジョブを変えることでレベルが一に戻ってしまうという弱点はあるが、それを補って余りあるほどの恩恵が得られる。
「さて、準備は整った。『魔気変換』の限界を確かめつつ、道中の魔物を殲滅していくとしようか」
拳をポキポキ鳴らすと、ワシはニヤリと口角を上げた。
労働神がジョブやレベルを管理しているという世界観です!
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