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「冒険の書三十八:炊き出し」

 馬車の修理や積み荷の選別、負傷者の治療にもある程度の目途めどがついたところで、炊き出しが行われた。

 真っ赤な夕陽が地平線の向こうに沈みゆく中、皆に食事が配られた。


 上質な小麦や燻製肉、チーズや新鮮な野菜類など(袋の破損や商品自体の折損などで売り物にならなくったもの)を材料にしたおかげか、いつもよりも遥かに美味い料理だった。

 燻製肉と野菜の煮込み、チーズを生地に練り込んで焼いた小麦粉焼き、ニャーナが射落とした渡り鳥の串焼きなど、旅先ではなかなかお目にかかれないご馳走に、皆は歓声を上げた。


「いやあ~、美味い美味い。こいつは疲れも吹っ飛ぶわい」


「うんうん。美味しいね、ディアナちゃん。ホント、頑張ってよかったあ~」


美味うまっ、美味っ、美味っ。こんなのいくらでも食えるぞ、あるだけ持って来てくれっ」


 ワシ、ルルカ、チェルチの三人は車座くるまざになって料理を堪能していた。

 そこにリリーナたち『黄金のセキレイ』が加わり、ワシら側として共に戦った乗員たちが加わり、ゴラン・ギランたち側の乗員たちも加わって、大きな一個の輪になった。


「にしてもすごかったなあ~お嬢ちゃんたち。特にエルフのディアナちゃんだっけ?」 


「とんでもない力よねえ。あのオークやオルグを素手でぶっ飛ばして、ボスオルグもワンパンで。ホントに魔法みたいだったわよねえ」


「ともかく助かったよ、あんたがいてくれなかったら、正直俺らどうなっていたことか……」


 皆が盛んに褒めてくれる。

 お菓子などをくれ、肩を叩いて感謝を述べてくれる。


 甘いものは好きではないが(なのですべてルルカやチェルチに流れるが)、感謝されることそれ自体は嫌ではない。

 頑張った結果が正しく報われるというのは、正直気持ちいい。

 

 ま、だからといって調子に乗るわけではないのだがな。

 何せワシっては武人だし。

 人の評価を得るために修行しているわけではないし。


「むふー」


「あはは、ディアナちゃんってばすんごく嬉しそう」


 ルルカの謎発言はともかく、実にいい気分だった。

 あとは酒でも飲んでぐっすり眠ることができれば最高だが……。


「……なあ、お嬢ちゃんよお」


 そんなワシに、話しかけてくる者がいた。


「あんたに謝りたいことがあるんだ」


 意外なことに、それはゴランだった。

 隣にはギランもいて、一緒になって頭を下げてきた。


「悪かったな。あんたをバカにして。サイズが小せえからとあなどって」


 ヴォルグとの戦闘で両腕をへし折られたことがいい方向に働いたのだろうか、ゴランの顔はき物が落ちたようにサッパリしている。


「あんた、とんでもなく強いんだな。あんな化け物をワンパンとか、伝説の拳士みてえだ。本当にすげえよ。尊敬する」


 ルルカの『大治癒メジャーヒール』のおかげで完治した手で頭をかくと、ゴランは照れたような表情になった。


「さっきギランとも話し合ってさ。俺たち、フリーの冒険者に戻ることにしたんだ。マネージさんのとこは確かに待遇いいけど、自分自身を鍛えられる環境ではないし。あんたを見てたらもっと上を目指したくなったっていうか……」


「上を目指す、か。それは実によいことだ」


 うむうむとワシがうなずいていると。


「だけどさ、すぐではないんだ。俺たちけっこう悪どいこともしてきたから、そっちの落とし前もつけておきてえなと思ってて……」


「ほう」


 ゴラン・ギランの双子がマネージの手先となって様々な悪事を働いていたという話は、リリーナから聞いている。

 弱者をしいたげ、奪い取ってきた悪人だと。


 もちろん、それ自体は最低な行為だ。

 人間のクズと言っていい。

 だが……。


「許されねえかもしれねえけど、謝って回ってさ。できるだけの埋め合わせをして……。懲役ちょうえきとか受けるかもしんねえけど、それがすべて済んだらフリーの冒険者稼業に戻って。んでさ、もしいつか、あんたに恥ずかしくないぐらい強くなれたら、手合わせしてもらえねえか?」


「うむ、よかろう。待っておるぞ」


 ワシは即答した。


 誰だった間違うことはある。

 道を踏み外すことだって、あって当然。

 こいつらのしでかした行為は許されるものではないかもしれないが、謝罪し、反省ている者に追い打ちをかけてはならない。

 それはきっと、世の中を善き方向に導かない。


「だが、ワシの前に立てるようになるには、それなりの修行が必要だぞ? それこそオルグの一匹や二匹、朝飯前に倒せるようにならなければ……」


「ま、やってみるさ。あんたみたいに片手で首をねじ切ったりとかは出来ねえかもしれねえけど」


「まったくだ。あんなのあり得ねえわ」


 ゴランがおかしそうに笑い、ギランもそれに同調し。

 ふたりの変わり様に驚いていた皆も、いつの間にかほっこりと笑っていた。


 八方丸く収まった、まさに大団円。

 そう思った、しかしその時だった。


「だれか……おねがい……」


 七、八歳ぐらいの見知らぬ小娘が、ワシらのもとにやって来た。

 

 しかも尋常じんじょうな様子ではない。

 膝を擦り剥き、手を擦り剥き、服も顔もドロドロにしている。

 

「なんだ? いったいどうし……」


「おねがい」


 力の限界といった感じで、小娘はその場に崩れ落ちた。


「あたしの村を……みんなをたすけて……」

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