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「冒険の書三十二:襲撃の中で」

 さて、マネージの子飼(こが)いの冒険者たるゴラン・ギランが三分の二を、ワシらとリリーナたち『黄金のセキレイ』が三分の一を護ることとなった、馬車隊対魔族の防衛戦。

 ワシらの護る方面を襲ってきたのはふたつの群れだ。


 先陣を切るのはオークの群れ。

 オークは腰蓑こしみのをつけた灰色の巨人だ。

 豚の顔をした醜い種族だが、人族など平手一発で粉々にしてしまうほどの怪力の持ち主でもある。

 距離をとって時間を稼ぐぐらいなら馬車隊の乗員でもできるかなというレベル。

 

 オークの後方をゆっくりと進行してくるのはオルグの群れ。

 オルグはオークの上位種だ。

 肌の色はくすんだ緑色。オークより大きく再生能力や魔法への耐性もあり、ベテランクラス中~上位の『黄金のセキレイ』でなんとか相手になるぐらいの強敵だ。

 つまり、オークはともかくオルグに関しては馬車隊の乗員では相手にならないということだ。


「オークが三十匹……オルグが十匹? ずいぶん多いな」


 騎士団が定期巡回している街道周辺に湧くにしては数が多い。

 いったいどうして……などと理由を詮索せんさくしたくはなるが……。


「気にしている暇はないか。オルグの到達前にオークを全滅させちまおう。その上で、改めてワシらと『黄金のセキレイ』でオルグにかかればいい。ということでいくぞルルカ、まずはおまえからだ。馬車の前面に結界を張れ」


「うん、わかったよディアナちゃん! 『聖なる円環(ホーリー・サークル)』!」


 ルルカの唱えた神聖術が、馬車で作った壁の前に巨大な光の結界を張った。

 ルルカの圧倒的な聖気によって固められたそれは硬く神々(こうごう)しく、邪悪な存在であるオークの侵入を許さない。

 殴っても割れず、ヒビすらも入らない。


「え……なんですのこの大きな結界は? しかもゴブリン程度の小型の魔族ならともかく、オークが通れないほどの硬さとかあり得ますの?」


 結界のまさかの威力に、リリーナはお口をあんぐり開けて驚いた。


「ワシらのパーティじゃよくあることよ! そらオークども、『指弾しだん』を喰らえい!」


 ワシは手近な小石を拾い上げると、次々に指先で弾いた。

 弾かれた小石は物凄い速度で飛ぶと、オークどもの肉を貫いた。

 痛みに鈍感なオークどもだが、肉を貫かれるほどの衝撃とあってはたまらない。

 そこかしこで悲鳴を上げ、中には逃げ出す個体もいる。


「え……指で弾いた小石がオークの肉を貫通する? そんなことあり得ますの?」


「ワシらのパーティじゃよくあることよ! そらチェルチ、おまえも頑張れ!」


「そ、そうは言うけどよお……あの壁はちょっとぉ~……」


「あ、そうか。おまえってば……」


 ルルカの張った『聖なる円環』は邪悪な者(・ ・ ・ ・)を通さない。

 つまりは悪魔貴族であるチェルチも通さないのだ。


「あら、いったいどうしましたの?」


 ワシとチェルチのやり取りに疑問を持ったのだろう、リリーナが小首を傾げる。


「チェルチさんのご様子が……結界を怖がっているように見えますが……?」


 いかん。

 このままではいかん。

『聖なる円環』に拒絶される存在が。

 悪魔貴族がパーティ内にいるというのは、いくらなんでもマズすぎる。


「ゴホン、エホンオッホ~ン!」


 その場を誤魔化すために盛大な咳ばらいをしたワシは、チェルチの首ねっこを引っ掴むなり引き寄せた。

 耳元に口を寄せると、押し殺した声でこう告げた。


「結界は空までは覆っていない。だからチェルチ、おまえは空から射撃しろ」


「え、飛んでいいのか?」


「勘違いするな、『飛行フライトの魔法で飛んでいる』風に見せるのだ」


「あー、そうか。実際には羽根で飛んでるんだけど、羽根は消してるから見た目は魔法で飛んでる風に見えると」


 ワシの作戦を理解したのだろう。

 チェルチはポンと手を打つと、モゴモゴ呪文(内容はずいぶん適当だったが)を唱え始めた。


 するとすぐに、チェルチの体が重力に逆らい上昇を始めた。


「まさか……『飛行』ですのっ? あんな高度な魔法をチェルチさんがっ?」


 リリーナが驚く間にもチェルチはするすると垂直上昇を続け、オークの攻撃が絶対届かない位置から『魔弾よ敵を撃て(マジックミサイル)』を連発し始めた。


「『飛行』唱えながら同時に攻撃魔法を放つだなんて……空恐そらおそろしいほどの魔力量ですわね」


 実際には羽根で飛んでいるのだが……ま、バレなければよかろう。


「というわけだリリーナ。ワシらのことは心配するな。おまえたちはおまえたちの戦いを続けろ」


「わ、わかりましたわ。最初は正直不安だったのですが、この強さならば安心ですわね。わたくしどもも心おきなく戦場に迎えます」


 なんだかんだでワシらを心配して傍にいてくれたリリーナだが、これだけの実力があれば問題ないと判断したのだろう。ララナ・ニャーナのふたりを引き連れ走っていく。


 行き先は、もちろん最前線。

 狙いは、ルルカの結界を前にして手こずるオークども。


「さあー行きますわよおふたりとも!」


「お、おおー」


「行くにゃー!」


 気合いを入れると、それぞれがそれぞれの得意技を繰り出していく。


「『回転剣舞ソードダンス!』」


 リリーナは身軽な体と細剣を利用した目にも止まらぬ連続攻撃を。


「『爆裂火球ファイヤー・ボール!』」


 ララナは見ているこちらが首をすくめるほどの威力の火球を。


「『天の五月雨(さみだれ)』!」


 ニャーナは多数の矢を天から振り落ちる五月雨のように連射。


 三人の技の威力はさすがで、多くのオークがその場に崩れ落ちた。

 連携も上手で、前衛を担当するリリーナがルルカの結界を出入りするような動きを見せると、オークたちもつられ、結果的に動きが乱れた。

 動きの乱れた魔族など、三人の敵ではない。オークどもは瞬く間にほふられていく。


 オークの群れをあらかた対処したところへ、ノッシノッシとばかりにやって来たのはオルグだ。

 

「『聖なる円環(ホーリー・サークル)』!」 


 ここぞとばかりに気合いを入れたルルカが『聖なる円環』を二枚張りにして対抗するが、オルグは数が多く、圧力も強くて長くは保ちそうにない。

 オルグの拳が振り下ろされるたび結界にヒビが入り、それはますます広がっていく。


「うう……こうなったら三枚張りに……!?」


「もうよい、ルルカ」


 脂汗あぶらあせを流し、膝を震わせながら無茶しようとするルルカを止めると、ワシは「おいっちにーさんしっ」とばかりに屈伸運動を始めた。

 準備万端整えると、低く構えた。


「あとはワシに、任せておけ――」


 リリーナたち『黄金のセキレイ』だけではない。同じように……いや、あるいはそれ以上にバカにされたワシら『聖樹のたまゆら』の名誉を回復するために――大地を駆けた。

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