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「冒険の書二:娘の名はルルカ」

 さて、エルダートレントを斬り(蹴り)倒した後だ。


 解放された女僧侶は気が抜けたようにその場に座り込むと、ポカーンとした顔をワシに向けた。


「どうだ、ケガはないか?」


「な、ないみたい……だけど……」


 頭の上に疑問符の浮かんでいるような、心の底から不思議そうな調子で聞いてきた。


「ありがとディアナちゃん助けてくれて。で、でもさ? どうして急にパワフルになっちゃったの? ディアナちゃんって運動が苦手で、他のエルフみたいに弓が得意じゃないから魔術師一本でいくことにした、みたいなこと言ってなかったっけ? なのにどうしてあんな歴戦の武人みたいな……」


「ああ~……それな」


 さて、どうしたものか。

 顔見知り程度の間柄なら「実はワシ、物理攻撃特化のエルフなのだ」とか言って誤魔化せるが、まさかパーティメンバーにそれは通用しまい。


 かといって「実はワシ、転生したのだ」などと言おうものなら頭の病気を疑われること間違いなし。

 今後の冒険者ギルドへの対応含め、めんどくさいことこの上なし。


 ならばディアナになりすませばいいのだが、どんな性格かもわからんし、仮にわかったとしてもワシにそんな器用なことが出来るわけない。

 

 ならばここは……。


「実はワシ、オルグに追われている時に『頭を打って記憶を失った』のだ。打ちどころがよかったのか、『その拍子ひょうしに潜在能力的なものが目覚めた』ようなのだ。おかげでこんな動きが出来るようになったという……ほれ、よく言うだろ。人は持って生まれた能力を全部発揮しきれているわけではないとかなんとかかんとか」


 ……ん〜、ダメかも。


 自分で言っておきながらなんだが、あまりにも理屈がひどすぎる。

 頭を打って記憶を失うまではいいとして、超人的な動きを『潜在能力』のひと言で片付けるとか。

 下手をすると「変化の術が得意な魔物がなりすましているのでは?」などと疑われる可能性すらある。

 

 となれば、最悪の想定もしておかねばならんか。

 たとえばこの女僧侶の首筋を手刀しゅとうで打って、一時的に記憶を喪失させるというような。

 さすがに仲間に対してそんな乱暴はしたくないが……。


「……どうだ、納得いったか?」


 慎重に女僧侶の表情をうかがっていると……。


「はあ~、なるほどね。そういうこともあるのかあ~」


 ポンと手を打つと、女僧侶は驚くほどあっさりと納得してくれた。


「『人類は実はものすごい力を秘めてるのよ。みんな可能性の塊なのよ』って大神官さまも言ってたしね。だったらエルフなディアナちゃんがそれぐらいのことをできるようになってもおかしくないよね」


 職業柄、神秘的な出来事に耐性があるのか。

 はたまた素直な性格のおかげか、疑うことすらしようとしない。


「はい、頭を打ったとこ見~せてっ。わあ~、でっかいたんこぶがあるっ。『治癒ヒール』かけとくね。はい、痛いの痛いの、飛んでけ~♪」


「おまえ……ちょっとは疑ったりせんの? ワシのこと」


 さすがに不安になって聞くワシだ。


「え? ディアナちゃんを疑う? なんで? どうして?」


「いやそりゃおまえ、言ってることがのう……ほれ」


 設定の作り込みが雑すぎるというか。

 頭を打ったぐらいで人間そんなに変わるの? というか。


「よくわかんないけど、わたしはディアナちゃんを信じてるからっ。疑うことなんてないよ絶対っ、死ぬまでっ」


「し、死ぬまでっ?」


 ぐぐっと拳を握って力説する女僧侶に恐怖を感じるワシ。


 いや本当に、なんでそこまで信用できるのだ?

 おまえはディアナ教の信者か何かか?


「なんだか怖くなってきたな……」


 信じてもらえたのはありがたいが、信じられすぎて逆に怖い。

 ぜいたくな悩みだ。


「あ~、ちなみにだが、ワシは記憶を取り戻したいとは思っておらんから」


 これ以上ツッコまれてボロが出ると困るので、先手を打っておくことにした。


「え、なんでっ?」


 当然、女僧侶は目を丸くして驚いたが……。


「記憶の喪失によってこの力を得たのなら、記憶の回復によってこの力を失う可能性があるかもしれんだろ。それはあまりに惜しいだろうが」


「ほ、ほえぇ~。そういう発想もあるのかあ~」 

 

 ワシの言葉に、女僧侶はやっぱり素直にうなずいた。


「なんにせよ、ワシはこのまま生きていくつもりだ。とはいえなにも知らんままでは生活しづらいので、社会情勢や地理などの常識部分を教えてもらえるとありがたいのだが、どうだ?」


「え、わたしがっ!? ディアナちゃんに物を教えるのっ!? わたしなんかでホントにいいのっ!?」


「他に誰もおらんだろうが。それに一応、パーティメンバーではあるのだろう?」


「う……うん! うんうんそうだね! わたしたちってばパーティメンバーだもんね!」


 女僧侶は「ぐぐうっ」と拳を握ると、満面に笑みを浮かべた。


「わかった! ディアナちゃんにはわたしが色々教えてあげるね! ディアナちゃんに……わたしが……色々……色々……」


「ん、どうした? どうして急に黙りこむ?」

 

 ワシが顔をのぞき込むと、女僧侶は照れたように頬を染めていた。


「えへへっ、なんかいいねっ。ディアナちゃんに頼られるのって、すごくいいねっ。だってほら、ディアナちゃんっていつもツンツンだったしっ。わたしが喋ると『黙って、うるさい』とか言って嫌がるしっ。くっつくと『離れて、人間くさい』とか言って嫌がるしっ。こうゆーディアナちゃんって新鮮っ。気さくにしてくれて嬉しい楽しいっ」


 キャッキャと楽し気にまとわりついてくる女僧侶の動きは、どこか人懐っこい子犬を思わせる。

 

 元のディアナは女僧侶のことを嫌っていたらしいが、その理由はもしかしたらこういうところにあるのかもしれない。  

 エルフというのは基本、根暗で陰険な者が多いから。

 自分と真逆な者につきまとわれるのが辛かったのだろう。

 

 そうだ、思い返してみればワシ自身も、勇者パーティの一員たるエルフの大魔術師イールギットとは犬猿の仲だった。

 事あるごとにぶつかり、ののしり合ったものだった……と、それはともかく。


「ま、そういうわけでな。何かにつけて不慣れなワシのことをよろしく頼むぞ。ところで……名前はなんといったかな?」


「えぇ~!? 名前まで忘れたの~!?」


 ガーンとばかりにショックを受ける女僧侶だが、すぐに気を取り直すと。 


「まあでもしょうがないか! 記憶喪失だもんね! えっとね、わたしはルルカだよ! ルルカ・ルーシード! パーティ名は『聖樹せいじゅのたまゆら』ね!」


「ではルルカ、よろしくな。ちなみに『聖樹のたまゆら』の他のメンバーは?」


「ほ、他のメンバー?」


 え、いないのか?

 まさかのふたりきり?


「オルグやエルダートレントのような高レベルの魔物が闊歩かっぽしている森に、僧侶と魔術師だけというのはおかしくないか?」


「うぐっ、それは……」


 聞かれたくないことだったのだろう。

 ワシの指摘に、ルルカは「はう~……」と呻くと。


「実はわたしたち、ふたり揃って『追放』されちゃったんだよねえ~……」

ルルカは『ディアナ全肯定娘』です!

ディアナの言うことなら『なんでも』信じます!

その理由は後ほど!


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