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「冒険の書二十四:チェルチの誤算」

 ~~~チェルチ視点~~~




 あたいの名はチェルチ・フォーナイン。

 悪魔貴族とはいっても成り立ての新人ペーペーだし、強いか弱いかといったらハッキリと弱い。


 だがそんなことを言うとナメられるので、虚勢ハッタリをかまして強者ぶって生きてきた。

 魔族格付け第五位の『串刺し大公ミシエラ・ガブリアス様』の『側近』ではなく『小間使い』だし、勇者一行に封印された理由は『たまたまそこにいたから』。


 だいたいあたいの実力が本物なら、ハイドラ王国の国教であるセレアスティールの『教会総本山』か、魔術師どもの巣窟そうくつたる『魔術師の塔』で厳重に管理されてるはずなんだ。

 こんな片田舎のダンジョンなんかに、放っておくはずがないじゃないか。

 

 というかそもそもさ、悪いこと自体してないんだよ。

 人から食い物を奪ったりはするけど、復讐が怖いから殺したりはしないし。

 実際、討伐隊が来るたび隠れてたぐらいだ(それでも勇者一行には見つかっちまったけどさ)。


 だから今回だって、街の人間をちょいと小突こづいて五十年ぶりに食事をしたかっただけなんだ。

 満足いくまで食ったら大人しく退散して、また別の場所で人間を脅して食事をして……それだけだったのに……。


「倒す、などと生易しいものではないぞ。『ぶっ殺す』だ。叩いて、蹴って、じって、えぐって。コアごと粉々にしてやる。向こう数百年は蘇れぬよう徹底的にな。そんでもって、復活するたび同じことを繰り返してやる。エルフの人生は長いからな。思う存分、おまえが好物とする恐怖と痛みを味わえるぞ、よかったな」


 とか言って、ディアナとかいうエルフの小娘が猛烈な勢いでにらみつけてくるんだよ。

 見た目八歳ぐらいのエルフなのに、歴戦の武人かってぐらいの殺気を出すんだよ。

 

 怖いよ~、おっかないよ~。

 なのであたいはなるべく穏便に済ませようとした。


「ちょ……なんだってあんた、そんなにあたいのことを恨んでるんだい? あたい、あんたに何かしたかい?」 


 ってさ。

 そんなに恨まれる覚えはないから。


 だけどディアナは、恨み自体はないと認めつつ、その上で……。


「おまえは言ってはいけないことを言った。そしてな……ドワーフという種族は、仲間への愚弄を決して許さんものなのだ」


 とか言うんだよ。


 まさかこんな小娘が勇者一行の仲間だと思わなかった。

 てか別にあんたはドワーフじゃなくない?


 などと思った瞬間、ディアナの姿が消えた。


「──は?」


 と思ったら後ろにいるの。

 あたいの後ろにいて、拳を構えてるの。


「いつの間に――?」


螺子拳ねじけん


 ――ズギュルルウゥゥッッ!


 回転する拳があたいの腰を捉えた――瞬間、世界が回った。

 ぐるんと目が回り、遅れて衝撃がやってきた。


「あんぎゃあぁぁぁぁぁー!?」


 竜巻に巻き込まれたみたいに体が回った。


 あまりに圧倒的な回転力で、手足も羽根も役に立たない。

 尻尾でバランスをとることもできず、あたいはそのままぶっ飛んだ。


 ぶっ飛んだ先は広場の立ち木だ。

 にれの大木に背中をしたたか打ちつけ、息が詰まった。


「痛い、痛いよおぉぉぉ~……っ」


 半泣きになりながら身を起こすと、すかさずディアナが迫ってきた。


「……死ねっ」


 とか言って、目から光を放ってるの。

 勢い余って魔力が漏れてるんだかなんだかわかんないけどさ、超~怖いの。


 だけど、怖がってばかりもいられない。

 このまま待ってたら死ぬだけだ。


「し、死んでたまるか! 『魔弾よ敵を撃て(マジック・ミサイル)』!」


 あたいは必死で魔法の矢を放ったんだけど……。


「『指弾しだん』」


 ディアナの手から飛んだ何かに、すべて撃ち落とされた。

 キラキラ光って綺麗だなと思ってよく見たら、なんと全部が金貨だった。

 なんだこいつ!? 指で金貨を撃ち出したの!?

 そんでこんだけの威力なの!? というか金貨ってお高いんでしょ!? 金銭感覚どうなってるの!?

 

「もうわけわかんないよー! なんなんだよこいつはよおー!」


 いきなり追い込まれたあたいは、虚空ポケットにしまっておいた大鎌サイズを取り出した。

 先祖代々伝わる業物わざものを、ディアナめがけて思い振り下ろしたんだけど……。

 

「遅すぎだ。ハエが止まるぞ」


 ディアナはなんと、人差し指と中指で挟んでこれを止めたんだ。

 ビタッて、冗談みたいに。

 しかもすんごい力でさ、押しても引いても動かないの。


「ああもうどんだけだよ! あんたはエルフの皮を被った何なんだよもうー!」


 毒づきつつも、あたいは必死で生きる方法を模索した。


 だって、死にたくないもん。

 本気の恋すらまだしたことない乙女なのに、ここで死ぬのは嫌すぎるもん。


「こんなところで死んでたまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」


 何かないか何かないか……あ、そうだ。

 あたいってば、悪魔貴族である前に『誘惑する悪魔(サキュバス)』だった。

 しかも人の体に入り込んで操れる、上位のサキュバス。

 男を誘惑するのは苦手だけど、入り込んで操るのだけは得意なんだった。


 ササッと周囲に目をやると、ちょうどよさげなのがいた。

 カツラの脱げかけたデブのおっさんで、高そうな宝石や衣装を身に着けている。


「オッサン……ちょっと借りるよ! 『魂魄支配(ソウル・ドミネイト)』」


 あたいは「シュルンッ」とばかりにオッサンの中に入り込んだ。

 贅肉たっぷり肥満体のオッサンになるのは最悪の気分だったけど、こればっかりはしょうがない。


「む……おまえ、領主の体を乗っ取ったのか?」


 気づいたディアナは、あたいを殴ろうとした拳を途中で止めた。 

 

「そ、そうだよ! あたいは領主の中にいるんだ! これはさすがに殴れないだろう? 殺せないだろう? 下手したら極刑まであるからなあ⁉ こうゆーの、人類のめんどうなところだよなあ⁉ やったぞ勝った! あたいってば最高! 可愛くて頭が良くて強いなんて無敵すぎる! あーっはっは! ああー……ん?」 


 ふと気が付くと、ディアナの手のひらがあたいの……領主の胸に当たっていた。


「なんだよ、あんたいったい何やって……? オッサンの胸を触って喜ぶ性癖でもあるの?」


 そんな特殊性癖持ち、あたいの一族の中でもいなかったのになと怪しんでいると……。


「ドラゴ砕術さいじゅつにはな、『蓮華砕れんげくだき』という技があるのだ。もともとは『鎧越しに心臓を砕く』ためのものなのだがな……」


「よろいごしに……しんぞうをくだく……?」 


 言ってることがとんでもなさすぎて、頭に入ってこない。

 そうこうするうち、ディアナの頭が「すっ」と下がった。


「打ち方によっては『魔族のコアのみ』を砕くこともできるのよ」


 オッサンの胸に触れているディアナの手の甲に、もう一方の手のひらがかぶさった――瞬間、「ズドンッ」と重い衝撃が胸にきた。


「ぐ……え……っ?」


 魂が揺れるような、といったら正しいだろうか。

 とにかく凄まじい衝撃があたいの胸を襲った。


「なん……だこりゃ?」


 あたいは堪らず、その場にうずくまった。

 

 間違いない。今、あたいはコアを打たれた。

 外的なダメージはないが、内部にダメージを通された(・ ・ ・ ・)


「どうだ、効いただろう?」


 ゆらぁり……と、ディアナはあたいの顔をのぞき込むと。 


「ま、人間の体にまったくダメージがないというと嘘になるがな。『悪魔貴族に憑依された領主を助けるための緊急措置』なら、ある程度は許されるだろう?」


 ニタァリ……と、美しくも禍々(まがまが)しい笑みを浮かべて見せた。


「う、うわあああー……っ!?」


 あたいは堪らず、オッサンの体から出た。

 

「こ……こいつ頭がおかしい!? このままだと本気で殺される!? 逃げないと! 逃げないと!」


 ってダメだ、コアへのダメージが大きすぎる! 

 走って逃げようにも足がもつれるし、飛んで逃げることも出来なさそうだし……!

 誰か他の人間の体に憑依ひょういして、走って逃げないと……ん?


 あたいの目に飛び込んで来たのは、桃色の髪の女だった。

 格好からすると僧侶だろうが、いかにも弱そうな顔をしている。

 しかもさっき、ディアナの名を呼んでいた。

 親しくしている仲間であれば、ディアナもひどい真似はできないだろう。


「見つけた! こいつの体ならこのディアナ(悪魔)もひどい真似はできないはずだ!」


「あ、その娘だけはやめておいたほうがいいぞ」


 あたいの作戦に気づいたのだろう、ディアナが制止の声をかけてくるが……。


「はん! そんなこと言って! されたら困るから言ってんだろ⁉ お見通しなんだよ! そら、『魂魄支配』!」


 勝った! あたいの大勝利!

 と思い、娘の中に飛び込んだ――瞬間。


 ――ヴァヂィィィィィィイッ!


 とんでもない衝撃が、あたいの体に走った。

 数十本の雷が連続して直撃したような、それは凄まじい衝撃だった。


「あんぎゃああぁぁぁぁぁー⁉」


 跳ね返されたあたいは、悲鳴を上げながら地面をのたうち回った。

 脳が焦げる、全身の肉や骨が焼けちまいそうなほどに熱くなる。

 いやヤバい、ホントに死にそう。


「ってかなんだこれ!? なんだこれ!? なんだこれ!? このあたいが入れもしないだって⁉」


「そりゃそうだろう、その娘はそんじょそこらの僧侶とは聖気の量が違うのだ。聖気を苦手とする悪魔貴族にしてみたら、それこそ聖水の池にダイブするようなもんだろう」


「聖水の池……っ!? ホントになんなんだいあんたらは!?」


「ま、それはともかく……だ」


 ディアナはジタバタ暴れるあたいの首根っこを掴むと……。


「悪魔貴族チェルチ、つ~かまえたっと♪」


 極上の笑みを浮かべながら、歌うように言ったのだ。

チェルチ一蹴!


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