「冒険の書二百四十七:囚われのルルカ①」
~~~ルルカ視点~~~
「『瞬絶』」
イールギットさまに耳元で囁かれた、と思った瞬間――わたしの意識はブツリと途絶えた。
ほら、超々々々~疲れてる時にいきなり意識が落ちて、目が覚めたら朝だった~ってことありがちでしょ?
あんな感じでブツッと落ちたの。
でも今回は状況が状況だからさ、さすがに目が覚めることはないよね~って思ったんだ。
だってさ、わたしを攻撃してきたのはあのイールギットさまなんだもん。
魔王を倒した勇者パーティの一員で、ものすご~く怖いふたつ名を幾つも持っててさ。
こっちを最初から敵として見てて、有無を言わせず殺そうとしてきたし……。
でも、わたしとしてはできること全部やったからね、悔いとかはなかったんだ。
一瞬とはいえあのイールギットさまの攻撃を防ぐことができたんだもん、きっとディアナちゃんは褒めてくれるよね。
頭を撫でてくれて、優しい言葉をかけてくれて、頬ずりして抱きしめてくれたり……はさすがにしないだろうけど、そこはわたしの妄想。えへへへへ……。
あ~でも、チェルチちゃんうまく逃げててくれるかなあ~。
羽根でもってパタパタ飛んで、ディアナちゃんと合流できてたら最高なんだけどな~。
せっかくがんばったんだから、そこはうまくいって欲しいなあ~。
わたしとしては尊い犠牲を払ったわけだからさ、ほら……。
あ~、そんなこと考えてたらディアナちゃんに会いたくなってきた。
セレアスティールさま、わたしをディアナちゃんの守護霊とかにしてくれないかな。
そしたらずっと、それこそ四六時中そばにいられるんだけど。
ディアナちゃんのあんな姿やこんな姿を目に焼きつけられるんだけど。えへへへへ……。
「えへ、えへ、えへへへへ……♡」
「……なあ、寝言が死ぬほど気持ち悪いんだけど。さすがのディアナもドン引きするレベルだと思うんだけど……」
「えっ!? えっ!? えっ!? わたしってば口に出してたっ!?」
わたしは慌てて跳ね起きた。
やっちゃったやっちゃったやっちゃったどうしよう!
このレベルの妄想垂れ流しはさすがに厳しいんだけど!
「……ってか、わたしってば生きてるのっ!?」
手足の感覚がある、声も出せる。
恥ずかしさのせいで顔が熱くて、心臓がバクバクいってる。
これは生きてる、間違いない。
「生きてるよ……ったく」
呆れ気味に言ったのはチェルチちゃんだ。
わたしの隣の牢屋で寝転んで、暇そうにしてる。
「そ、そうかあ~。よかったあ~。チェルチちゃんも生きてるし、ホントによかったよおお~」
嬉しさのあまりちょっぴり涙が出て、体から力が抜けた。
……ってんんん? 牢屋あぁぁぁ~?
「えぇぇぇぇ~っ!? わたしたちってば、捕まってるうぅぅぅ~っ!?」
よく見ると、そこは牢屋の中だった。
しかも普通の牢屋じゃない。
材質は白くて硬い木で、叩くとカンカン音がするの。
あ、もしかして『沈黙の樹』ってやつかな? 魔力も聖気も吸収しちゃう、『唱える者』封じの希少な樹。
全体的には丸っこいドーム状。
イメージとしてはデッカい鳥かごって感じかな。
それがいくつも並んでるの。
しかも地面に設置してあるわけじゃなくて、上から吊り下げられてる感じでさらに鳥かご感が強いというか……んんんん?
「デッカい木に吊り下げされてるっ!? ってゆーかここっていったいどこなの~っ!?」
「はいはいうるさい。もういいから、あたいが全部説明するからとにかく黙れ」
わたしが騒ぎすぎたせいだろう、チェルチちゃんは顔をしかめ、耳に手を当てている。
「いいか? まずここはエルフヘイムで……」
チェルチちゃんの説明によると、あの後わたしたちは全員、イールギットさまの連れて来たエルフの森林警備隊に捕まったらしい。
抵抗しようと思えばできたけど、相手が相手だけに(イールギットさまだけに)勝てないと思って、チェルチちゃんもルシアンさんも武器を捨てて投降したらしい。
んで、ここはエルフヘイム。
見渡す限り木、木、木。都市そのものが森と共存する形で造られたエルフたちの都の、外れのほう。
中でも犯罪者を収容する区画らしくて、無数に並んだデッカい木の太~い枝に、『鳥かご』と呼ばれる(名前はホントに鳥かごで合ってた)牢屋を吊るしてあるんだって。
「ほへぇ~……どおりでぇ~……」
わたしはポカンと口を開けて、その威容を見渡した。
それぞれの鳥かごの前には木で作られたつり橋があって、木の幹に沿って作られた階段に繋がっている。
看守さんたちがいちいち下から登ってきては、囚人にご飯をあげたり様子をチェックしたりするらしい。
こんなの作ったこと自体がすごいけど、こんなところで生活してるのもすごすぎる。
「樹上の家生活みたいな感じなのかな。こんなに高いの、怖くないのかなあ~……」
「さすがに不便だからか、普通の奴らはもっと下の方で生活してるんだ。囚人が上なのは、見せしめ的な意味があるんだと」
「ほへえ~……」
「下の方も、家自体はツリーハウスのスタイルだな。魔物に襲われるのを避けるのと、他の種族に襲われるのを避ける意味があるんだってさ」
「ほえぇ~……」
ここへ来るまでに聞いたのかな、チェルチちゃんが丁寧に説明してくれる。
「……てかおまえ、けっこう落ち着いてんのな。もっと動揺するかと思った」
いかにも意外、って感じでチェルチちゃん。
「まあ~、ここに来るまでの状況が状況だったからね。生きてるだけで大ラッキーというか……捕まるぐらいならまだマシというか……」
「な、なるほどな……」
「あ、そういえばルシアンさんとか他のみんなは? わたしたちみたいに牢屋に入ってるの?」
「ああそれなら……」
「ハッ! もしかしてあれがルシアンさんっ!? そんな……そんな姿にっ!?」
「違う、それはルシアンじゃない」
チェルチちゃんの隣の牢屋の囚人が白骨になってるのを見て、思わず勘違いしちゃったわたし。
「そもそもこんな短期間で骨になるかよ。あのな、ルシアンたちは別のとこに集められてるの。牢屋じゃなく、来賓用の住居だよ。なんせこっちにはデクランっていう外交官がいるからな、下手な扱いしたらハイドラ王国と戦争になっちまうからな」
「ああそっか。考えてみればわたしたちってそのために来たんだった」
「……忘れんなよ、さすがに」
ジト目でわたしを見るチェルチちゃん。
「一応な、今デクランが王都のリゼリーナにかけ合ってくれてる。なんとかあたいらを牢屋から出せないか、がんばってくれてるみたいだが……」
「そっか、よかったああ~」
ほっと胸を撫でおろすわたし。
「だったらすぐにここ出られるね。だってわたしたち勇者学院の生徒だし、王女さまがなんとしてでもってがんばってくれると思うし」
「おまえはなんとかなるかもしんないけどな。あたいの場合は……」
チェルチちゃんがボソボソ言ってるけど、声が小さすぎて上手く聞こえなかった。
「え、チェルチちゃん今なにか……」
「――どうやら目覚めたようだな」
聞き覚えのある声がした。
いかにも敵意を含んだ、この危険な声は……。
「イールギットさま!?」
振り向いた先にはイールギットさまがいた。
白木の杖を携えてわたしを、そしてチェルチちゃんを交互ににらみつけてきた。
「人族の娘、そして悪魔貴族チェルチ・フォーナイン。貴様らに聞きたいことがある」
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