「冒険の書二百五:襲撃④」
光の剣を抜いたルシアンを、しかしサハギンの重戦士どもは舐めてかかってきた。
「伝説の光の剣~? そんなものが都合よくあるわけないダロウガ」
「ラムゼイ家~? そんなの知らんぞペテン師メ」
「いったん船尾の方に行くのやめるワ。コイツなら殺れソウ」
半包囲するようにルシアンを取り囲むと、一斉にバカにし出した。
プライドの高いルシアンは、これに対してもちろん激怒。
光の剣を振り上げたかと思うと、そのまま横に薙いだ。
――ブォォォン……!
それは一瞬のことだった。
自らを侮られるどころかラムゼイ家までバカにされたことで極度に気迫のこもっていたルシアンの光の剣が、その刃をぐぐっと伸長。
大人の背丈の三倍ほどになったそれは、四体の重戦士を鎧や鱗ごと撫で斬り。
――ゴドドドン……ッ!
腰から上下を一刀両断。
ふたつに分かれた体が、甲板の上を転がった。
「「「…………⁉」」」
凄まじいまでの一撃に、残った重戦士は息を呑み。
「い、いかん逃ゲロ!」
「長耳とイイ、こいつら洒落にナラン!」
「命ばかりはお助けヲォォォ~!」
口々に悲鳴を上げると、一斉に逃げ出した。
「……ふん、くだらん連中だな」
一連の流れをすべて見ていたワシはそう吐き捨てると、ルシアンの肩を叩いた。
「一方で、おまえは素晴らしかったぞルシアン。嫁だなんだについては断固として抗議するが、それでも今の一撃はよかった。魂の乗った、抜群の一撃だったぞ」
「師匠……っ」
ワシの褒め言葉が嬉しかったのだろう、ルシアンが頬をピンクに染めた。
「やはり僕のことを認めて……っ? この勢いのままに婚姻の儀を……っ?」
「それはない。断じてない」
いつものやり取り(?)をするワシらをよそに、重戦士どもが舷側を飛び越え、水中へと消える。
「あ……ちなみに師匠、逃がしてしまって大丈夫だったかな? 奴ら、またぞろ仲間を連れて奇襲をかけてくるつもりじゃ……?」
「いや、あの様子なら大丈夫だろう」
重戦士たちは必死の勢いで川を泳ぎ、船から遠ざかっている。
「サハギンはああ見えて賢い種族だ。決して叶わぬ相手に挑む愚は犯さんよ。……っと、向こうも終わったようだな」
見れば、サハギン戦士と魔術師たちのほうも片付いたようだ。
十数匹が死亡し、生き残った数匹がやはり必死の逃亡を開始している。
遠ざかる水しぶきを見送りながらルルカがほっと息を吐き、マリアベルが高笑いを上げている。
「三十匹もいたのがものの数分で半壊だ。しかもこれだけの力の差を見せつけての勝ちなのだ。まかり間違っても『もう一度』などとは考えぬだろうよ」
「ならいいんだけど……」
「なんだ、なにか引っかかることでもあるのか?」
「うん、上手く言葉にはできないんだけど……」
「あたいもわかるぞ。なんか変だ」
ルシアンに同調したのはチェルチだ。
ぱたぱたと宙を飛んでワシの顔の横に並んだかと思うと……。
「雨のせいで川の流れが強くなったからサハギンに追いつかれた。それ自体はわかるんだけど、なんであんなに準備がよかったんだ? 戦士と重戦士と魔術師に分かれて獲物を狙うってのはわかるんだけど、そんなのよほどの強敵に対してやることなんじゃないのか? 普段からそんなことしてんのか?」
「ふうむ、なるほど……?」
言われてみれば、サハギンどもの用意は良すぎた。
武装はもちろんだが、ジョブの組み合わせやコンビネーション含め、いつ出会うかもわからない高速艇への仕掛けにしては出来すぎていた。
「まるで、最初からこの航路をワシらが通るとわかっていたかのような……?」
その瞬間、背筋をゾクリと寒気が走った。
ヒヤリと恐ろし気な感覚が、頬を撫でた。
――バッシャアァァァァ~ン!
巨大な水柱と共に、何かが水面から飛び出した。
恐ろしいほどの重量のある、何かが。
「………………はあ?」
はたして、振り仰いだワシの目に映ったのは驚くべき光景だった。
さきほど逃げたばかりのサハギンの重戦士ども三匹を口に咥えた、一匹の魔獣がそこにいた。
「バカな……あれはまさか……っ?」
ワシは思わず、声を上擦らせた。
オルグの二十倍はあるだろうか、でっぷり太った巨大なナマズに手足と羽根を生やしたような姿。
川底に埋もれて獲物を待つ生態のせいで全身に分厚い泥を纏ったそいつは――間違いない。
「『竜種』……『泥竜』!」
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