「冒険の書二百四:襲撃③」
「天然の鎧である鱗の上から大ガニの鎧に大ガニの兜か。これはなかなか、喰い応えがありそうではないか」
ワシはニヤリと笑むと、先頭の一匹に向かって走った。
「長耳の小娘……⁉ そちらから来るならちょうどイイ! 捕まえテ! 持ち帰っテ! オレの嫁になってもらウゾ!」
「気持ち悪いことを言うな!」
ワシを舐めているのだろう、ガバリ両手を広げて抱きしめようとするかのような姿勢をとったサハギンの重戦士。
その懐へ、一気に飛び込んだ。
「魚は魚同士で番っていろ!」
重戦士の肉体は重厚な鎧と天然の鱗に護られている。並みの攻撃では傷ひとつつけられないだろう。
気を使えぬ今のワシでは到底ぶち破れぬ、まさに鉄壁――などと言うつもりはない。
『ドラゴ砕術』は小さき者が大きな者を倒す術。
硬いだけの壁なら、いくらでも破壊する方法がある。
「喰らえ……っ」
甲板の板を割らんばかりの勢いで踏み込むと同時に、右拳で突いた。
「『崩拳!』」
――ビシイィィッ!
ワシの拳が当たった重戦士の鎧、その鳩尾部分に巨大な亀裂が走った。
「ゲエェェェエッ⁉」
直後、重戦士は口から鮮血を吐き出した。
ガクリとその場に膝をつくと、信じられないといった顔でワシを見た。
「バカな……大ガニの鎧とオレの鱗を貫いて内部に衝撃ガ……? 魔術の類カ……?」
「身体の連動と重力を一点に収束し、鎧を通した衝撃で内臓を打ったのだ。魔術ではない、これが武術の力だ」
「ブジュ……?」
最後まで言葉を発することもできず、重戦士はその場に倒れた。
全身をピクピクと震わせ、口からはとめどなく血を流し続けている。
「おいおいなんだコイツ? 長耳ってたしか力が弱いはずジャ……?」
「非力で軽くて連れ去りやすいはずだったノニ………」
「ちょ……ちょっとオレ、船尾の方へ行って来ルワ。向こうの戦況はどうカナ~?」
見たことどころか夢想したことすらない武術の粋に驚いているのだろう、重戦士たちは呆けたようにこちらを見ている。
中にはワシを恐れ、逃げようとする者まで出る始末。
「なんだなんだおまえたち、この程度でビビっていてどうする。男だろう? しかも戦場の花形である重戦士だ。仲間をヤラれたことに激怒し発奮するぐらいでないと……なんだ? ルシアン?」
喋るワシを重戦士どもの視線から遮るように、ルシアンが前に出た。
「師匠、ここから先は僕に任せてくれたまえ。……いや、師匠ではないな。未来の我が妻よ」
「はああ~? 我が妻だあ~?」
ワシの非難を無視して、ルシアンは身構える。
光の剣の柄に手をかけると、重戦士どもをにらみつけた。
「僕はね、さっきから腹が立っていたんだ。言わせておけば師匠のことを『モラウ』だとか『オレのモノ』だとか。あげくの果てには『嫁』にするときたもんだ。言っておくがね、師匠に最初に目をつけたのはこの僕だ。ルシアン・ド・ラムゼイ。伝説の『光の剣』を擁するラムゼイ家の嫡男である僕は決めたんだ。いつか師匠に並び立ち、やがては勝つと。そしてその暁にはもう一度プロポーズをし、妻にすると。新居はハイドリアの郊外だ。お城のような家に僕と師匠。そして子どもが十二人……」
「……そろそろ気持ち悪くなってきたから話を進めろ」
ワシが尻を蹴飛ばすと同時に、ルシアンは光の剣を引き抜いた。
気迫がこもっているのだろう。
精神力を刃に変える伝説の剣は、神々しいほどの光を放っている。
「というわけで、これは僕と君らの決闘だ。どちらが師匠にふさわしい男なのか。尋常な戦いでもって決めようじゃないか」
「……勝手にギャアギャア言っとるが、どっちが勝っても結婚はせんからな?」
呆れた果てて頭の後ろで手を組んだワシはさて置き、ルシアンと重戦士七匹は決闘を開始した。
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