「冒険の書百九十九:ハイデルの潜伏」
~~~ハイデル視点~~~
森林騎士たちの拠点となっていた納屋でカイルとケインの首を斬り落とした後、ディアナに復讐するべく港に向かっていたハイデル。
その凄まじい形相を見て、街の住民たちがザワつき出した。
「おい……おいあれ見ろ……っ」
「やべよ、やべえ。全身真っ赤じゃん。あれって血だろ?」
「いつもの腐れエルフが。いったい何して来た帰りだよ……」
カイルとケインの返り血によって真っ赤に染まった彼を避けようと、一斉に脇へどけていく。
「しかもすんごい笑顔してるじゃん」
「近寄るな近寄るな、何されるかわからんぞ」
「怖いよママ~、わ~んっ」
全身血まみれのくせに、ハイデルの顔にはにやにやと笑みが浮かんでいる。
あまりの不気味さのせいで大人はドン引き、子どもはギャン泣きしと、通りは悲惨な状況になっている。
以前のハイデルなら「人族どもが、この俺をバカにするか!」などと激怒し、弓や魔術で攻撃を始めているところだが、今のハイデルは気にしない。
「報復だ、報復だ。あのエルフの小娘に、俺が味わった百倍の屈辱を与えてやるんだ。百倍返しだ」
ディアナへ復讐する栄光の(?)未来のみを想像し、ただにやにやと笑っている。
「くっくっく。待ってろ、小娘ぇ~……」
ハイデルが歩き、人々が脇へどける。
ハイデルが歩き、人々が脇へどける。
青空の下、狂者の行進は続く。
ディアナとの実力差を考えるならばその先にあるのは『死』のみなのだが、今の彼には冷静な判断が……。
「……待てよ?」
ハイデルはしかし、ある地点でピタリと足を止めた。
それは奇しくも、ディアナがハイデルの放った矢を受け止め、投げ返した場所だった。
「そうだ、そういえばあの時ここで……」
太ももに走った痛みであの時の屈辱を思い出したハイデルは、奇跡的に理性を……わずかな理性を取り戻した。
「そうだった。あの小娘、魔族と契約でもしたのか、イカサマじみた力の持ち主だった。このままでは勝てん……だがどうする? 俺はもう足を踏み出してしまったわけで、いまさら退くことなどできるわけが……」
本来ならば、このまま逃げるのが上策だ。
ディアナと戦わず、仲間の騎士を殺した罪から逃れるために身を隠すべきだ。
だがしかし、その策だけは選べなかった。
彼のプライドが、それだけは許してくれなかった。
「そうだ、それだけは許されん。俺はエルフだ。しかも十六家ピエルラ家の嫡男にして、森林騎士の最精鋭だ。逃げるなどあり得ない。考えるべきは戦い方だ。どうすれば奴に勝てるか……」
ブツブツとつぶやくハイデルの目に、酒屋で買い物をしている船員の姿が目に入った。
操船中にこっそり呑むのだろうワインをボトルから小瓶に詰め替えている船員は、白いシャツに紺のベストを重ね、頭には紺色の帽子をかぶっている。
シルヴァリス商工会に所属する船員の制服は、上手く着込めばエルフであることを隠すことが出来そうだ。
「……そうだ、奴らは商工会の船でエルフヘイムへ向かうと言っていた。ならあれを利用すればいいんだ。船員に成りすまして接近し、隙を見て攻撃する。樹々に成りすまして戦う森の中でのエルフの戦闘作法を、そのまま船上で生かせばいいんだ。なあんだ、こんなに簡単なことだったのか。くっくっく……」
ディアナの攻略法(?)を見つけたハイデルは、まだ彼に気づいていない船員の後をつけていく……。
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