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「冒険の書十九:ゴレッカの誤算①」

 ~~~ゴレッカ視点~~~




 べルキアの街の中央広場に、どやどやと見物人が押し寄せてきた。


 目当ては古い法律に従って行われる『決闘裁判ベルマキア』。

 対決カードは『紅牙団』のナンバーワン・ツー対『落ちこぼれーズ』。


 前者が派手に勝ち、後者が無様に負ける。

 結果は明白なので、賭けの胴元が用意した木製のボードには『落ちこぼれーズ』が何分で負けるか、あるいは何秒かという細かな区分けが記されている。

 一部の酔狂な人間が『落ちこぼれーズ』の勝ちに賭けているが、胴元に鼻で笑われるほどに数が少ない。

 

「しかし不思議ですな、リーダー」


 圧倒的な賭け率の記されたボードを眺めるゴレッカに、ボルゾイが話しかけてきた。

 

「『決闘裁判』など、私ですら聞いたことがない。調べてみたところ人魔決戦以前の古き制度だということですが、そもそもどこで知ったのか。知っていたとして、我々に勝てる見込みもないのにどうして仕掛けてきたのか。見物人の中に紛れ込んだ仲間が密かに手助けする可能性なども考えたのですが、そのような気配もありませんでした。となれば何かの計略の一端だと考えるのが普通ですが、リーダーはどう思いますか?」


「わかった、わかったボルゾイ」


 ぐいと顔を近づけ早口で喋りまくる『お喋りボルゾイ』の顔を押しのけて黙らせると、ゴレッカはため息をついた。


「んな細けえことは気にすんな。要はあれだ、俺さまとおまえが勝てばいいんだ。そうすれば女エルフはデブリ様の性奴隷になる。女僧侶はとっ捕まえてまた働かせればいい。ついでに奴らの持ってる金貨をせしめられれば最高だ」


 ゴレッカがディアナたちを訴えたのには、『自分たちの名誉を汚された(追放は事実だが)』以外にもうひとつ目的があった。

 それはディアナたちが『魔の森』で手に入れたという魔物のコアや魔物素材を売り払って得た、大量の金貨だ。


「百枚は優に超えるって話だからな。そんだけあれば、ともかくこの場はしのげる」


「ダンジョン攻略で得たお宝が二束三文にそくさんもんのクズばかりだったのは痛かったですからね。おかげで商業ギルドから借りていた金が返せなくなった。これまでの信用で待ってもらってはいますが、支払いは一日でも早いほうがいいでしょう。それはそれとして、これからの『紅牙団』の運営方針は考えなければなりませんな。これほどの大所帯となると事前準備する食料や資材だけでも相当な額になりますので、これからは団員個人個人から団費を徴収して、運営資金としてプールして……」


「わかった、わかったボルゾイ」


 ボルゾイの顔を押しのけて黙らせると、ゴレッカはため息をついた。


 デカい犬みたいなボルゾイの振る舞いが、昔から好きではない。

 副官としては目端めはしがきき、実に役立つ奴なのだが……。


「団の規模がデカくなったら、新人で優秀なのとすげ替えよう」


「なにか言いましたかな? リーダー?」


「なんでもねえよ。今はただ、速やかに戦って速やかに勝つ。それだけを考えろ」


 とか言いつつ、ゴレッカは空振りに終わったダンジョン産のお宝のことを気にしていた。

  

「……にしても、あれほど厳重な封印をされていたダンジョンのお宝がクズばかりだったってのは納得いかねえな。地元の古老が『あそこだけは絶対触れるな』とか言ってうるせえのを無視してあばいたってのに……」


 ゴレッカが暴いたのは、かつての勇者パーティが悪魔貴族を封印したというダンジョンだった。

 古代王国の都市を流用したのだというダンジョンは、直近で発生した山崩れのせいで多くの結界や罠が土砂に埋もれ無効化されていた。

 これ幸いと乗り込みお宝をかき集めたのだが、すべて二束三文のガラクタだったのだ。


「さすがにこれは高級品だろうと思って特別鑑定に出してみたが……まさかの結果だったしな」


 ボヤきつつ懐から取り出したのは、皆に内緒で持ってきた黒水晶だ。

 子供の拳サイズの小さな水晶球で、つややかな漆黒が美しい逸品だ。


 きっと高級な魔法のアイテムだと思ったので古代の秘宝に詳しい特別な鑑定士に見せたのだが、何の力もないらしい。

 中に何かが蠢いているような気がしたので、もしかしたら召喚獣でも閉じ込められているのかと思ったのだが、「ただのガラクタですね」のひと言でバッサリ。


「ま、いいさ。価値のハッキリしねえお宝より、ハッキリした目の前の金の輝きだ」


 ゴレッカは黒水晶を投げ捨てると、背中に負った二丁にちょう戦斧バトルアックスを抜いた。


「さ、行くぞボルゾイ。圧勝劇の始まりだ」




 ゴレッカの誤算はいくつかある。

 ひとつは、ディアナたちの実力を過少評価しすぎたこと。

 ひとつは、逃げられない状況に自らを追い込んだこと。

 ひとつは、ダンジョン産のお宝がクズばかりで、借りた金を返せなかったこと。

 ひとつは、投げ捨てた黒水晶が『本物』だったこと。


 ――ピシッ! パキィッ!


 そしてそして最後のひとつは――地面に落ちた衝撃で、黒水晶の表面にヒビが入ってしまったことだ。

黒水晶の中には何がいるのか、お楽しみに!


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