「冒険の書百九十六:ディアナの名裁き?」
チェルチに促されたワシが宿の入り口に向かうと、そこにはたしかに昼間の三人組がいた。
ハイデル・カイル・ケインのエルフ三騎士。
ハイデルが『十六家』ピエルラ家の嫡男で、カイルとケインはその分家筋。
若殿とそのお付きといったような組み合わせのはずだが……。
「まさかフィオナ・ウル・ノクス・エリオンドール姫殿下とは知らず、この痴れ者を止められなかった非礼、不敬! 万死に値します!」
「いち家臣の分際で光輝なる御方に弓を引く大罪を止められなかった! 殿下と知らずとはいえ、我らが狼藉は弁明の余地もなし! この腕を斬り落とされても異存はございません!」
「「されどどうか、我らが一族には塁の及ばぬよう、寛大なご沙汰をお願いいたします!」」
カイルとケインがワシに対して平伏し、盛んに謝罪の意を伝えてくる。
自分はどうなってもいいが一族のことは許してくれと、率直に願いを伝えてくる。
「ハイデル、何をやっている! おまえもここへ来て頭を下げろ!」
「おまえの傲岸不遜な振る舞いがすべての原因なんだぞ! 地に頭を打ちつけて反省しろ!」
今回の事件のせいで力関係が変わったのだろう。
カイルとケインは血走った目でハイデルを振り返ると、責めに責めた。
「な、なんで俺が……っ。俺はピエルラ家の嫡男だぞ……っ?」
「うるさい早くしろ!」
「姫殿下を殺さんとする大逆罪を働いたんだ! おまえ自身はもう終わりだろうが、せめて最後にピエルラ家存続のために全力を尽くせ!」
怒り狂ったカイルとケインに捕まったハイデルは、無理やり平伏させられた。
床に頭を押さえつけられるような格好で、無理やり謝罪をさせられた。
もちろんその言葉には心がこもっておらず……。
「どうかお許しください……くそっ、なんでこの俺が……っ」
余計なことを口走ってしまい、さらにカイルとケインの怒りを買っている。
「おまえ……このバカ! ぶん殴ってやる!」
「いや、いっそこいつの首を斬り落として差し出したほうがいいんじゃ……?」
まあたしかに、王族への暗殺未遂は普通に考えて処刑だろう。
こいつの命だけで助かればよし、下手するとお家断絶ぐらいはあるかもしれんが……。
「そこまでするのも後味悪いしなあ~……。ワシとしては正直、どうでもいいし……と、いうわけにもいかんか。現にミナという被害者が出ているわけだしな。んん~……王家への報告は軽めの内容にしてやることにして……どうするミナ? おまえはこやつに、どうして欲しい?」
ワシは傍らにいる宿の娘、ミナに訊ねた。
「今回のことで一番傷ついたのはおまえだ。蹴飛ばされ、運んでいた商品を台無しにされた。治療費と商品の代価はもちろん払わせるとして、それ以外にさせたいことはあるか?」
「え、え、わたしが決めるんですか? っていうかわたしより姫さまのほうが……っ?」
「ワシへの無礼とかはどーでもよい。それよりおまえだ」
「は、はあ……そうですか……」
ミナはビックリしたように目を丸くしたが、ワシが意見を変えぬと知るや、すぐにあれこれと考え始めた。
ここまでの印象どおりの頭のいい娘らしく、ちょうどいい罰を提案してくれた。
「ではその……街のみんなに聞いてみるというのはどうですかね? 今までみんな迷惑かけられてるし、嫌な気持ちになった人もいるし。お金もだけど、気持ちの部分で納得させられたらいいかなと……」
「なるほど……では簀巻きにして皆の前に転がしてみるか。『あとは好きにしろ』と言い置いて」
街の住民総出で半殺しにされ、強制労働までさせられれば、ハイデルのプライドもさぞやズタボロになることだろう。
「うまくいけば心を入れ替えることがあるかもしれんしな。そうでなかったとしても、王家に目をつけられてしまっては、家庭内での立場も最下層に落ちるだろうし。そうすれば今までのような驕り高ぶった真似もできんだろうし……。なあ、おまえたち」
ワシはカイルとケインに声をかけた。
「今回のこと、またこれまでの人族への振る舞いについて、おまえたちにも償いはしてもらうぞ。分家筋だから主家の嫡男に反抗できないという理屈はわかるが、それは人族にとってまったく関係のないことだからな。それに、なんといってもワシは人族友好派だし」
「はっ!」
「もちろんでございますっ!」
カイルとケインは大人しく頭を下げた。
「簀巻きにまではせんが、ハイデル同様、人族に謝罪すること。必要とあらば、労働や金銭にて対価を支払うこと。また、ハイデルの罪の償いと今後の更生ぶりを見届けることの三つを、おまえたちへの罰とする。よろしく取り計らうように」
「ははーっ!」
「寛大なお心づかいに、感謝いたします!」
自分自身の命が助かり、分家の命脈も保たれたことが嬉しかったのだろう。
カイルとケインは身を震わさんばかりに喜びを示している。
「なんと寛大な……っ」
「さすがは『孤高なる夜の姫』。懐が深くていらっしゃる……っ」
「……なんだそのあだ名」
「なんでも、深夜にひとりで王宮を抜け出すとこからつけられたんだそうですよ?」
思ってもみなかったあだ名に戸惑うワシに、ミナが横から教えてくれた。
「ああ~……なるほどな。あだ名からして、やらかしそうな匂いがぷんぷんするな」
なんだか、フィオナの日頃の行いが不安になってきたな。
「もちろん家出して冒険者になるような娘がまっとうなわけもないのだが、それ以外にも色々やらかしてそうな……ん?」
絶妙に憂鬱な気分になったワシは、自分を見つめるキラキラした目の存在に気づいた。
「どうした? 皆?」
ワシの問いに、ルルカとチェルチが感心の声を返してくる。
「ディアナちゃんがすごいなと思ってっ。だってあんな、王族みたいな名裁き……いや王族なんだけど……っ」
「かなり堂に入ってたぞっ。血筋なんだなと思ったっ。普段のあんたとは違うなってっ。カッコよかったっ」
「ええ~……そうかあ~……?」
ワシとしては普通にしていたつもりだったのだが、外交官という職業柄、裁判や演説に詳しいデクランまでもが同じような反応を示していることから考えるに、本当にたいしたものだったのかもしれない。
あるいは本当に、王族の血のせいだったり?
知らず知らずのうちに、魂がそうさせたとか?
「さすがにそれは無いと思うが……」
ワシはぎゅうと拳を握り、ぱっと開いた。
ドクドクと勢いよく、血が流れる。
この小さな手の持ち主の声を聞いたことは――未だにない。
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