「冒険の書百九十:どうやらワシ……姫だったみたい」
「失礼ながら、お尋ねいたします。貴方様はフィオナ・ウル・ノクス・エリオンドール姫殿下であらせられますか?」
ワシの前に跪いたエルフの騎士カイルの言葉に――
「「なあぁぁぁぁぁぁにいぃぃぃぃぃぃ~っ⁉」」
ワシとハイデルの絶叫が被った。
「「……ん?」」
一瞬目と目が合った後、先に口を開いたのはワシ。
「ななななにを言っとるんだっ。このワシがそんな大層な者であるわけがないだろうがっ」
自分がそういう立場の者であるのは非常に困るしめんどくさいという意味での否定だったのだが、これにハイデルが乗っかってきた。
「あああああ当たり前だろっ。こんな小汚い娘が高貴なる王家の一員であってたまるものかっ。バカも休み休み言えっ」
ハイデルとしては、もしワシが姫だったら自分の立場がヤバいという認識なのだろう。
とにかく全力で否定する構えだ。
奇しくも利害の一致したワシらは、一時的に共闘体制を築くことにした。
「そもそもワシはディアナ・ステラという名だしっ。王家の作法も何も知らん山育ち野育ちの田舎娘だしっ」
ワシがディアナ・ステラを名乗り、育ちの悪さから王族である可能性を否定すると。
「そうだそうだ、あげくに飛んでる矢を掴んで投げ返したんだぞっ。高貴なエルフがそんな真似するかっ? この耳は付け耳で中身はドワーフだと言われた方がよほどしっくりくるだろうがっ」
ハイデルがワシの野蛮な振る舞いを強調する、なかなかのコンビネーション。
中身がドワーフだと言われた時には少しドキリとしたが、否定してくれるのは非常に助かる。
「どうだ? 本人が否定し、このハイデルとかいう偉そうな騎士もそれを肯定しているのだぞ? これでワシがフィオなんとかいう姫ではないことが明らかになったな。はっはっはっ」
とにかく勢いで押し切ろうと、ワシが高笑いを上げた瞬間。
「……でもわたし、フィオナさま見たことある。まったく同じ顔だった」
ワシらのやり取り見ていたミナが、ボソリとつぶやいた。
そのつぶやき反応したかのように、街の住民たちが次々に口を開いた。
「ああ、うちの露店にも来たことあるよ。あの姫さま、よくお忍びでシルヴァリスに遊びに来てたもんな」
「知ってるよ。てか街の奴ならみんな知ってるだろ。フード目深にかぶって誤魔化してるつもりだけど全然誤魔化せてないお姫さま」
「『なにこの人形、可愛い……じゃないっ。気持ち悪い』とか『この串焼き美味しそう……じゃないっ。脂多すぎ、吐きそう』とか文句ばかりだったけど、目がキラっキラしてんのな。言葉とは裏腹に人族の街や商品に興味津々って感じでさ」
「知らないの? あーいうのを王都ではツンデレっていうんだって。あのコ、エルフにしては珍しい人族友好派だったんだよ」
「俺も、エルフは嫌いだけどあのお姫さまは好きだったな。最近顔見ねえな~と思ってたけど……」
「……なるほど」
街の住民の言葉を聞いて、ワシは思わず納得してしまった。
考えてみればそうだった。
ただのエルフというには、 この娘は綺麗すぎた。
ただのエルフというには、 この娘の魔力は強すぎた。
身に着けていた肌着や装備品も、ただの冒険者というには質が良すぎた。
エルフの王族だというなら、それらの疑問にはすべて説明がつく。
「おい待て、自信を失うな。おまえは姫殿下じゃない、そうだろうがっ」
ハイデルが焦ったように言ってくるが……。
「ん~……ワシもちょっと前まではそう思っておったのだがなあ~……」
ワシの思っていた最大の疑問。
どうして この娘が国を離れ、冒険者などに身をやつしていたのか。
それにすらも答えが出てしまう。
そうだ、ごくごく単純な話だ。
この娘はツンツンした口ぶりや態度とは裏腹に人族が好きで、人族のことが知りたくて旅をしていたのだ。
そのための偽名がおそらくはディアナ・ステラで……。
「こちらをご覧ください。行方不明になった姫殿下を探すために配られているものです」
跪いて事の成り行きを見守っていたカイルが、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
羊皮紙にはエルフの娘の似顔絵が書かれている。
大きすぎる水色のローブを目深にかぶったところと、かぶっていないところとふたつの似顔絵が。
その顔はたしかに……。
「ディアナちゃん……だよね?」
ルルカが呆然とつぶやくのも無理はない。
それは初めてルルカと出会った『魔の森』で、ワシが着ていたローブだったのだから。
「ああ、そうだな。これはもう……認めるしかないようだ」
ワシはため息をつくと、天を仰いだ。
「どうやらワシ……姫だったみたい」
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