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「冒険の書百三十三:まさかの結果」

 大荒れも大荒れだった入れ替え戦終了後。

 一週間ほどの臨時休校を挟んでから勇者学院は授業を再開した。   

 まず最初に行なわれたのは、体育館に全校生徒を集めた上での説明会だ。


 マルダーの暴走、『魔薬』による薬害、魔族タンドールの侵入。

 様々なトラブルすべてに満足いく回答がなされたわけではないが(むしろ語られないことのほうが多かったが)、教師たちは心を込めて子どもたちに説明していた。

 そんな教師の気持ちが伝わったのだろう、また同級生たちの顔を見て安心した部分もあったのだろう、子どもたちの顔にはほっとしたような笑顔を浮かべていた。


 説明が終わった後は、入れ替え戦の結果に基づく『クラス入れ替え』だ。

 今回はあまりにもトラブルが多すぎたので入れ替え無しにしようという意見はあったものの、最終的には勇者を目指す生徒たちの決意と努力、そこから導き出された結果を無視するわけにはいかないという判断が勝ったようだ。

 途中で中断となってしまった団体競技の結果は計算に入れず、筆記試験と個人競技の結果のみを計算し、暫定的ながらも順位をつけようということになった。


 発表は、壇上に上った学院長(今にも死にそうなよぼよぼの爺さん)から。


「あ~、入れ替え戦の結果を発表します。EクラスはFクラスに降格。DクラスはEクラスに降格。CクラスがDクラスにそれぞれ降格となりました」


 降格となったクラスの子どもたちはもちろん嘆いていたが、ある意味『予想通り』だったためだろう、反応は薄かった。


 そう、ここまでは『予想通り』。

 問題はここからなのだ。


「続けます」


 全校生徒の注目が集まる中、学院長が続けた。 

 

「AクラスがCクラスに降格。Bは変わらずそのまま。──そしてFクラスは見事、Aクラスに昇格となりました。不断の努力で最上位まで駆けあがった子どもたちへ、みなさん拍手を」


 BクラスがAクラスを抜いた、Fクラスは他の全クラスをごぼう抜きして最上位に立った。

 この結果に、体育館が割れんばかりの歓声が上がった。


 特にFクラスの子どもたちの反応は激烈で……。


「うおおおおおやったぞおおおおー!」


「ホント!? ホント!? ホントにわたしたちがAクラスでいいの!? 夢とかじゃない!?」


「やった……ホントにやったんだ……」


 飛び跳ねて喜ぶ者、夢かと疑い己の頬をつねる者、その場に泣き崩れる者。

 これまで苦労してきた分、感動も大きいのだろう。全身全霊で喜びを表していた。

 

 一方、二段階降格となったAクラスの子どもたちは……。


「なんで俺たちがCクラスに……」


「それもこれもあの担任のせいだ。くそっ……人に魔薬なんか飲ませやがって……」


「あ~あ、終わりかな。あんなことがあった後じゃみんな普通の目では見てくれないだろうし、勇者学院にもいられないかもな……」


 Aクラスの子どもたちは最初こそ落ち込み、うなだれていた。

 中には周囲の反応を恐れ、自主退学しようと考える者までいたが……。


「おいおいおまえら、なに言ってんだ。今回はたまたま教師がクソだっただけ。俺たちの強さは変わらんだろうが」


「そうですわ。がんばって訓練して、来年Aクラスに返り咲けばいいだけじゃないですか。今回はFクラスに花を持たせたと思いましょう」


「そ、そうだ。おでたちをバカにする奴らには、筋肉を見せつけてやればいい」


 マカインやヘルミナ、ゴライアなどの負けず嫌いな者たちが中心となって、励ましの声をかけ合っている。

 その力強い言葉に勇気づけられたのだろう、子どもたちの目に光が戻り始めた。

 

「……ほう」


 子どもたちが自らの意思で逆境を克服し、立ち上がる。

 その光景の麗しさに、ワシは目を細めた。 


「困難をバネにして成長するか、素晴らしいな。もともと実力のあった子どもたちだ。傲慢さを捨て謙虚になれば、これは恐ろしい敵になるぞ。なあ、おまえたちも浮かれてばかりではいられんなあ……っと?」


 ワシが煽った時にはすでに、ソーニャやジーンといった主要メンバーを中心とした円陣が組まれていた。


「い~い? 一度勝ったからって浮かれてちゃダメよ? 入れ替えは来年も再来年もあるんだから。そのたび勝って、Aクラスにいなきゃ意味ないんだからね?」


 ソーニャのげきに、子どもたちは一斉にうなずいている。


「当ったり前だ! 次も勝つ! その次も勝つ! 俺たちFクラスは……いや、新Aクラスは常勝無敵の集団になるんだ!」

  

 ジーンが拳を突き上げると、Fクラスの――もといAクラスの子どもたちが一斉に拳を突き上げた。

「えいえい、おー!」の声を上げるその表情に、慢心の色は一切ない。

 今まで苦労してきたからだろう、この子どもたちは人一倍謙虚で、人一倍勝利への執念が強い。


「……ふむ、これはワシがいなくても大丈夫そうだな」


 一人立ちした弟子たち(みたいなものだろう)の成長を実感したワシが、ジワリと胸を温かくしていると、騒ぎが納まるのを待っていたのだろう学院長が話し始めた。

 

「さて、入れ替え戦の結果に続き、もうひとつ発表があります。ディアナくん、ルルカくん、チェルチくん、コーラスくん。四人とも壇上へ上がってください」


 はて、いったいなんだろう。


「別々に呼ばれるようなこと、ワシらしたっけ?」

 

「う~ん、なんだろうね? わかんないなあ〜」


「ボクも、わかんない」


「あたいたちが特別がんばったから、なんか美味いものでもくれるんじゃないか?」


 ワシ、ルルカ、コーラスの三人は一斉に首を傾げ、能天気なチェルチひとりがワクワク顔で学院長の手もとを見つめている(何か持っていると思ったのだろう)。


 結果的にはチェルチの答えが正解だった。

 といって、本当に美味い食い物をくれたわけではない。

 壇上に上がったワシらに学院長が告げたのは、ワシら四人の『Sクラス』への昇格だったのだ……。

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