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「冒険の書百三十一:マルダー(チェルチ)の告白」

 さて、チェルチに乗っ取られたマルダーの語った内容は、以下のようなものだった。


 ・自分は魔族ではなく、人間である。

 ・タンドールにはクラスの運営方針(生徒からの突き上げや、性的いやがらせの密告。要は自業自得)で迷っている時にとびきりの薬があると言われ、受け入れた。

 ・魔薬であるという認識はなかったが、上手く使えば相手を言いなりに出来ると不埒ふらちなことを考えていた。

 ・魔薬は買うたびに値段が上がり、やがて手持ちの資金だけでは足りなくなったので、生徒個人への特別指導料という名目で保護者から金を巻き上げていた(当然学院へは内緒)。

 ・それでも足りなくなったので、学院祭の出店の売り上げから金をくすねていた。

 ・最終的には男子に人気のある女生徒の隠し撮り写真を裏で販売していた。

 

 魔族でないのは残念(?)だったが、普通に犯罪者だったことが明らかになった。

 しかもひとつひとつの内容がな……あまりにも低俗というか……。 

 

「うわあ……マジかよこいつ」


「まともな先生だと思ってたのに……」


「朝起きたら髪の毛全部なくなってたらいいのに……」


 教師に保護者、生徒に至るまでが超ドン引き。


 さらにひどかったのは、その後に語られたリゼリーナに対する執着だろう。

 

 ・自作の詩を送りつけようとしていた。

 ・自分をデザインしたぬいぐるみ(髪の毛入り)を送りつけようとしていた。

 ・将来できるだろう子どもの名前や、結婚後の新居の間取りまで考えていた。

 ・写真機で隠し撮りしようとしていたが、ララナ・ニャーナの警護が厳しすぎてできなかった。

 ・王家への貢物という形で魔薬の入った食べ物を送りつけ、奴隷にしようとしていた。


 もう……本当にひどい。

 ひどすぎて、言葉も出ない。


「ひえ……」


「姫様かわいそう」


「机の角に小指ぶつけまくって死んでほしい……」


 教師に保護者、生徒にいたるまでが超同情。


 執着されたリゼリーナ自身としては、なおさらたまったものではなかったのだろう、顔を青ざめさせてワシの腕にしがみついてきた。

 膝を震わせ、声を震わせ、ワシの肩に顔をうずめてきた。

 

「ごめんなさいね。わたくしちょっと気分が悪くて……」


「わかっておる、わかっておる。今はそこで休んでおけ」


 いつもだったら謎の対抗心を燃やすルルカも、さすがに今回ばかりはリゼリーナの背中を撫で、慰めてやっていた。


 そうこうするうち、チェルチがマルダーの中から出て来て元の姿となり。

 マルダーはわけがわからないといった様子で、自らの口もとを押さえた。


「はっ……? な、なんでわたしはあんなことを……っ? 言わなきゃバレないような秘密まで……っ?」


 自ら墓穴を掘っていることに気づいたのだろう、ハッとした顔をすると。


「い、今のは違うんですっ。さきほどからずっと、魔族に操られていて……っ?」


 必死に誤魔化そうとするが、もはや誰も信じてくれない。

 ひたすら冷たい目で、マルダーをにらみけている。


 中でも一番冷たかったのは、当然というべきだろうリゼリーナだ。

 冷気すら感じさせる瞳でマルダーを見据えると。


「生徒たちに対する脅迫・傷害罪。保護者の方々と学院に対する詐欺及び窃盗罪。王都内乱罪及び王立侮辱罪で、あなたを訴えます」


 無期懲役すら生ぬるい、一発極刑の罪状を並べ立てた。


 マルダーはその後も何やかやと騒ぎ立てていたが、第三王女殿下や勇者学院の学院長、貴族や富裕層が多くを占める保護者連の糾弾を逃れることはできなかった。

 最終的には王城から派遣された衛兵によって、どこぞに連行されていった。


「ま、自業自得か。人の心を思うままにしようとしたのが悪い。と――?」


 そんな風にワシがつぶやいていると、うなじにチクリと嫌な視線を感じた。

 ガバリと振り向いたが、視線の先――勇者学院校舎の屋上には、誰の姿も見えなかった。


「気のせいか? いや……」


 タンドールが死んだとはいえ、その背後関係はまだ知れない。

 王都に魔薬を広めた組織の規模も、目的も。

 未だ知れぬ何者かの思惑に、これからまだ何かあるかもしれぬぞという嫌な予感に、ワシは背筋を粟立あわだてさせていた。

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