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「冒険の書百二十八:VSマルダー!②」

「気づいたところでもう遅い――喰らえ『千剣支配(サウザン・ドミニオン)』!」


 マルダーの唱えた古代魔術が、千本の魔剣を出現させた。

 出現したのはマルダーの頭上。 

 紫色に輝く魔剣が雲のように浮遊している。


「邪魔者は死ねえぇぇぇぇー!」


 マルダーの殺意に反応した魔剣が、爆発的な勢いで四方八方へ飛び散った。

 その先にいるのはワシ――だけではない。訓練場と観客席に多くの人がいる。

 学院関係者でない者も、子どもや赤ん坊までが標的になっているようだ。


「くっ……?」


 これはさすがに予想外だった。

 マルダーが古代魔術に精通していて、魔薬の服用により魔力不足を補い、あまつさえ会場中の人々を無差別に殺そうとするとは……。


「魔薬で脳が犯されているにしてもここまでするかっ!?」


 予想外ではあったが、しかたない。

 少しでも被害を減らすべく、やれることをやるのみだ。


「ルルカ! 結界を!」


 リゼリーナを地面に押し倒しながら、ワシは叫んだ。


そらにましましゅ、ましゅま……ゴホン! 『天にまします御方おんかたよ、我と我が子らをその偉大なかいなの内に隠したまえ、邪悪を退ける腕の内に――聖なる円環(ホーリー・サークル)』!」


 相変わらず本番には弱いルルカだが、今回は三回目で聖なる結界を成功させてくれた。


 ルルカを中心に発動した聖なる結界はマルダーの魔剣を次々と受け止めていくが、何せ三回目だったので大きさが足りない。

 今もなおぐんぐんと成長中ではあるが、会場すべてを護りきれるほどの大きさにまでは育っていない。


「くっ……さすがに間に合わんか!」


 結界の外にある訓練場の一角に──具体的にはワシとリゼリーナ含めた数十人ほどがいる一角に、三百本ほどの魔剣ほどが降り注いできた。


 とてもじゃないが、今のワシにさばききれる量ではない。

 このままではどれほどの被害が出ることか……子どもたちが何人死ぬか……最悪な想像はしかし、意外な形で覆された。


「ウヌタス、ドゥニオス、トリアーク! 合体だ! 皆を護れ!」


 Aクラスの生徒たちに壊された三体のゴーレムの破片が、ウルガの声に応えて合体。

 一体の巨大なゴーレムを形作って、降り注ぐ魔剣の前に立ち塞がった。

 

「おお! 人助けもできるようになったのか偉いぞウルガ!」

 

「うるせえ! てめえも寝転んでねえでなんとかしやがれ! こっちはもう持たねえぞ!」 


 ウルガの言ったとおりだ。

 巨大ゴーレムの全身に、魔剣が深々と突き刺さっていく。

 出来たばかりでもろい構造部にヒビを入れ、あるいは切り裂いていく。

 特に攻撃の集中した脚部の被害は深刻で、もう立っていられそうにない――と思った瞬間、急造の巨大ゴーレムはガラガラと崩壊を始めた。


「ええいちくしょう、こうなりゃしかたねえ! 全力でぶっぱなせ!」


 最期の一撃、といったところだろうか。

 ウルガの命令に答えた巨大ゴーレムが口を開くと、強力な熱線を放った。

 放たれた熱線は魔剣を吹き飛ばすと、そのままマルダーに向かって飛んでいく。


 直撃したらすべての問題は解決したのだが、そう簡単にはいかなかった。

 マルダーはギリギリのところでこれかわし、難を逃れた。


「……なかなかやりますね! だけどこれでおしまいでしょう! これでもう、わたしを止める手段はなくなった!」


 マルダーの指摘は、一部正しい。

 だが、一部は間違いだ。

 巨大ゴーレムはたしかにいなくなったが――まだワシがいる。


「これだけ数が減れば、問題ないわい!」


 残り数十本となった魔剣をにらみつけながら、ワシは走った。

 マルダーに向かって、全速力で。


「させませんよ! 魔剣たち、あの娘を殺しなさい!」


 マルダー操る魔剣たちは、まっすぐにワシを狙ってくる。

 

「ふん……!」


 数が減れば問題ないとはいったが、全部を躱せるという意味ではない。

 躱しきれない何本かは、この小さな手で捌かなければならない。

 

 もちろん、一本一本に凄まじいまでの魔力が凝集して形作られた魔剣だ。

 ミスリルメッシュの手袋で弾くのは難しかろうが……。


「――来い! 『海神の怒り(メーレスゴット)』」

 

 ワシの呼びかけに応え、魔法の三叉矛が現れた。

 ひさしぶりに呼び出されたことが嬉しいのだろう、手の内でふるふると身をよじっているのがなんとなく気持ち悪いが……ま、使えればそれでよい。


「……ディアナ、ボクも、行くよ」


 凄まじい勢いでワシの隣に並んできたのは、誰あろうコーラスだ。

 家族であるゴーレムたちがやられたことが悔しいのだろうか、あるいは友だちであるFクラスの子どもたちが標的になっているのにムカついているのか、いつもより表情が険しい気がする。


「おお、コーラスか……って、なんだその足!?」


 妙にコーラスの足が速いなと思ったら、足の両脛りょうずねが横へバシャリと開いて車輪のようなものが突き出ている。

 そいつは猛烈な勢いで回転し、どうやらコーラスが地面を滑る手助けをしているらしい。


「なるほど、ドタドタ走るより滑るほうが速いという理屈か! そいつはいいな!」


 ワシはニヤリ笑うと、コーラスの背に飛び乗った。


「行くぞコーラス! こいつら全部(はた)き落として、突っ込むぞ!」 


 古代文明の遺品である魔術仕掛けの戦車(チャリオット)に乗るが如しだ。

 ワシを乗せたコーラスは、矢のような勢いで滑走した。

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