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「冒険の書百十七:三番手はコーラス」

 ソーニャ対ヘルミナは、周囲の予想に反して一方的な戦いとなった。


 ソーニャの挑発に我を忘れたヘルミナが自分の得意な魔術ばかりを撃つものだから、ソーニャとしてはやりやすかったのだろう。

 炎の雨も、氷の嵐も、刃の竜巻も。

 すべては完成する前にかき消えるか、ヘルミナの手元で暴発したのだ。


 パニックに陥ったヘルミナはなんとか状況を打開しようと大技を連発したが、そのせいで体力と魔力を大幅に失った。

 やがて、焦りのせいで呪文の制御に失敗し、自ら転倒。

 顔を上げた時には目の前にソーニャがいて――


 決まり手は『稲妻ライトニング』。

 威力を最小限に絞った稲妻でヘルミナを気絶させたソーニャの勝ちが宣告されると、会場は歓声に包まれた。


「すごい! すごい! ソーニャさんまで!」


 ジーンに引き続いての快勝に、セイラは興奮しきり。

 昼食用にと用意されていたお弁当をチェルチにつまみ喰いされているのにも気づかず、ワシに話しかけてきた(その後、チェルチのつまみ喰いはワシが止めた)。


「いったい全体、何が起こったっていうんですか? あのヘルミナさんが、将来の大魔術師候補とまで呼ばてたAクラスのエースが手も足も出なかったっ。レベル差も全然あったのに……っ」


「それが『対抗呪文カウンタースペル』の恐ろしさよ」


 改めて、ワシはセイラに解説した。


「相手の呪文詠唱を妨害する『対抗呪文』はな、レベルや魔力が低くてもタイミングさえ合えば相手の術を完全に封殺できるのだ。しかも相手は普通に力を消費するのに、こちらはその半分以下の消費で済む。弱者が強者に対抗するため、人魔決戦ではイールギ……いや、一部の術者が好んで使用していた。もちろん相当な早口と、魔術に対する広い知識のあることが前提だがな」


 イールギットの奴めは、そのふたつを超々高度なレベルで兼ね備えていた。

 相手の心を破壊するような早口の罵倒と、すべての魔術を知っているといっても過言ではない知識量と。


「そういう意味で、ソーニャはもともと早口だし、リゼリーナの事前情報があったおかげで相手の使用する魔術がだいぶ絞れていたのがよかったな」


「ふん、それだけじゃないぞ」


 つまみ喰いに使っていた指を舐めながらチェルチ。

 

「常に相手の術を先読みして、一切のズレなくこちらの呪文をぶち当てようってんだ。頭のネジの三本や四本は外れてないとできないぞ」


 イールギットに封印された苦い記憶を思い出しているのだろう、実に不愉快そうな顔をしている。


「チェルチの言うとおりだな。戦いのセンスとクソ度胸があることは大前提。そういう意味で、ソーニャはうってつけの人材だったのだ。何せレベル八十七のワシにケンカを売るぐらい鼻っ柱が強く、ジーンとふたりで組み上げたのだろうコンビ技にもセンスが光っておったからの」


「ホントにすごい……。もうすごいしか言葉が出ない……はあ~……」


 セイラは語彙ごいを失い、「は~、すっごい」しか言えなくなった。


「さて、ここまではいい調子だな。次は……」

 

 ふと目をやると、コーラスがこちらを見ていた。

 訓練場から戻ってきたソーニャと合流したジーンに挟まれ、バシバシと背中を叩かれている。

  

「コーラス、調子はどうだ? いけそうか?」


 ワシが声をかけると……。


「わかん、ない。なんか……叩かれてる?」


 困惑しているのだろう、コーラスは顔をキョロキョロさせている。

 子どもたちに意味不明に叩かれ、危害を加えられていると思っているようだが……。


「そいつらはただ叩いているわけではないぞ。おまえを激励げきれいしておるのだ」


「ゲキレイ……友人を励まし、元気づけること……?」


 辞書でも開いたかのように、激励の意味をつぶやくコーラス。


 ワシと友だちになってから、コーラスの頭脳はかなりの成長を見せている。

 受け答えもだいぶしっかりしてきたが、こういった情緒面はまだまだ。


 だが、まったくわかっていないというわけではないのだ。

 自分が受け入れられていることを教えてやると、こいつは喜ぶ。

 その上で、もっと受け入れられたいと頑張るのだ。


「そうだ。そいつらはおまえを激励しておるのだ。友よ、頑張れとな」


「友だち……頑張れ……」


「そうだ。頑張れよコーラス。皆が応援しているぞ。三番手のおまえが勝って、Fクラスの勝利を決定づけるのだ。そして、共に喜び合おう」


「……うん、わかった」


 コーラスは素直にうなずくと、訓練場に向かって跳んだ。

 ものすごいジャンプ力で、訓練場の中央まで一気に。


「ボク、勝つよ」


 短い、けれど強い決意の言葉をその場に残して。

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