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「冒険の書十:冒険者たちの手のひら返し」

 ちなみに魔物のコアとは魔物の心臓を形成する核のことで、それ自体が道具の精製や魔法の触媒となる。

 魔物素材も似たようなもので、どちらもレア度によっては家一軒分ぐらいの価値を持つ。

 このふたつをギルドに献納することで金を得る、また活動を評価してもらいランクを上げる、というのが冒険者の主な活動となる。


 今回ワシらは、多くのコアと魔物素材をかき集めてきた。

『魔の森』産のレアな品々を、たんまりと。


「こ、これは……っ?」


 すぐに価値がわかったのだろう、エーコはハッと息を呑んだ。


「オルグにワーウルフにビホルダーのコアがこんなに……っ!? いったい何体倒したのっ!? こ……こっちは特定討伐対象のマンティコア『隻眼のギリカラ』っ!? ああしかも、魔物素材もこんなに良好な状態でっ!? いったいどうやって解体したのっ!?」


 よほど興奮したのだろう、頬をピンクに染めながらたずねてきた。


「ま、手先には少々自信があってな」


 当然だが、魔物のコアや魔物素材は、倒したらそのままポンと出てくるものではない。

『死体を解体する』ことで初めて手に入る。

 下手な者だと解体時にコアや魔物素材を傷つけ、価値を下げてしまったりするのだが、こちとら生まれ変わっても中身はドワーフ。手先の器用さには自信があるというわけだ。


「んで、いくらになる?」


「ちょ、ちょっと待ってねっ。ええと……金貨二十枚、十枚、三十五枚……。『隻眼のギリカラ』は特定討伐対象だからさらに金貨五十枚が上乗せされて……き、金貨百十五枚と銀貨二十枚、銅貨十五枚よ」


 ギッシリと金が詰まった袋をエーコがテーブルに置くと。


「「「金貨百十五枚と銀貨二十枚、銅貨十五枚、だとおおーっ!?」」」


 酒場中がどっと沸いた。

 

 まあ、無理もないか。

 昔と物価が変わっていなければ、四人家族が十年は遊んで暮らせる額だものな。


「ほ、報奨金以外も計算するわね。コアと魔物素材の献納と、特定討伐対象を倒した功績をプラスしてクラスが上がるわ。ディアナちゃんルルカちゃん共に、審査なしで初心者(ビギナー)クラスから熟練者(ベテラン)クラスに。功績だけならその上の精鋭(エリート)クラスまで上がれる計算なんだけど、二階級特進はルールによって認められていないから……」


 エーコの口からクラスアップが告げられると。


「「「し、審査なし!? 本来なら二階級特進相当だとおおーっ!?」」」


 再び、酒場中がどっと沸いた。

 

 まあ、無理もないか。

 冒険者クラスが上がれば高度なクエストを受けられるようになるし、公的機関での扱いもよくなる。

 精鋭相当の熟練者となれば、この規模の街ならそこそこの名士といったところだろうしな。


 だがまあ――それはそれ。


「気にするなエーコ。名誉も、便利な制度も無用だ。戦って強くなる、それのみが武人の本懐ほんかいよ」


 ワシがあっさり受け入れると。


「「「か、か、か、かっけええええーっ!」」」


 三度みたび、酒場中がどっと沸いた。

 顔を真っ赤にして興奮した冒険者たちが、どどどーっとばかりに押し寄せて来た。


「おっとぉ……なんだ、なんだぁ?」

 

 さては金を奪いに来たのかと思い身構えたが、そんなことはなかった。


 皆はさっぱりした笑みを浮かべると……。


「おいディアナ! やるじゃねえか見直したぜ!」


「ダメだダメだと思ってたら、いつの間にそんなに強くなったんだ!?」


「武人の本懐とかいって男前すぎんか⁉ ちょっと弟子入りしたくなるぐらいなんだが!」


 さっきまでの態度はなんだったのかというような手のひら返しぶりで、口々にワシを褒めたたえた。

 賞賛だけでなく、「正直すまんかった! 自分の見る目の無さをびるぜ!」などという謝罪の言葉なども聞こえてくる。


「……ふん、『良くも悪くも実力本位』の冒険者稼業、といったところか」


 何ができるかではなく、何を達成したかで評価される世界だ。

 そういった意味では、今まで『落ちこぼれーズ』がバカにされていたのはしょうがないのかもしれない。


「おうルルカ! おまえもよくやったな!」


 そのうち、賞賛はルルカにも向かった。


「は? 『魔の森』で一か月暮らしてた!? すげえじゃねえか!」


「今までバカにしてて悪かった! この通りだ! すまん!」


「もう『落ちこぼれーズ』とは言えねえなあー! ……あ? 『聖樹のたまゆら』って名前だって? よっしゃ、覚えておくぜ! なあみんなあー!」


「「「おおおおぉー!」」」


 巻き起こる『聖樹のたまゆら』コールと、止まらぬ賞賛。


 思ってもみなかった皆の好反応に、ルルカは大困惑。

「ひぇっ……?」とか「あわわわ……っ?」などと呻き、ワシに助けを求めるように抱き着いてきた。


「ディアナちゃん。みんなの態度が変わりすぎてこわいよう~……」 


 ま、たしかに。

 ついさっきまで『落ちこぼれーズ』扱いされていた身からするとな。

 ここまですさまじい手のひら返しをされると、困惑を通り越して恐ろしくなるというわけだろうが……。


「落ち着けルルカ。良くも悪くも、実績あっての冒険者稼業だ。成し遂げた者が偉い、成し遂げた者が勝利者なのだ。だからおまえも、胸を張って堂々としていればいいのだ」

  

「そ、そういうもんかなあ~……?」


「そういうもんだ。あ、ちなみに……」


 ワシはルルカの耳に口を寄せると、ひとつだけ注意すべきことがあるのを伝えた。


「手のひら返しをしてくるぐらいなら可愛げがあるんだがな。中にはおかしなことを考える奴もいるだろうから、気を付けろ」


「お、おかしなことって……?」


 目に見えて怖がるルルカ。

 と、そこへ――


「おいおい本当かあ? 本当におまえらがやったのかあ~?」


 冒険者がひとり絡んできた。

 天井まで届きそうなほどの巨体の男が。


手のひらくるっくる!


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