「冒険の書百一:合宿」
翌日の休み時間。
チェルチは有言実行、とばかりに皆に聞いた。
コーラスが人造人間だと思うかどうかを、大声で。
すると……。
「……え? 思うかどうか……ってか事実でしょ?」
「あれだけあからさまなのに気づかないとかあり得ないし……」
「体の中から金属が擦れるような音、する時あるしなー」
皆はあっけらかんとした様子で答えてきた。
誰ひとりとして重く受け止めている者はおらず、「当然だろ、それがどうした?」ぐらいの軽いノリだった。
「そうか、このクラスはハイドラ王国出身者のみばかりだから……」
もし他国の者が混じっていればまた違う感想も出てくるのだろうが、このクラスはハイドラ王国出身者のみで構成されている。
他国出身者はそもそもエリートが多いので、Fクラスに落ちることがなく、つまりは……。
「人造人間に対する忌避感がそもそもないのか。そういう意味では幸運だったな」
子どもたちがこの様子なら、特別ワシらが気を揉む必要はなさそうだ。
基本的にはすくすくと育つのに任せ、もしなんらかの障害が起きるようなら、その時初めて護ってやればいい。
それぐらいのレベルの話だったようだ。
「よかったな、コーラス」
ワシが目をやると、コーラスはコテリと不思議そうに首を傾げた。
「ボクの、話?」
「ああ、そうだ」
「ディアナは、ボクが、人造人間、だと、嫌?」
「そんなことないって話だ」
「嫌じゃ、ない、友だち、続行?」
「ああ? 何を言っとるんだおまえは?」
ワシとコーラスが話をしているところへ、ジーンとソーニャの双子が割り込んできた。
「嫌なもんか。人造人間だろうと同じクラスの仲間には違いないし、強いならなおさらありがてえよ」
「そうよそうよ。コーラスのパワーはうちのクラスにとっては武器になるし、むしろ人造人間でいてくれてラッキーって感じよ」
「そうだよ。なあおいコーラス、入れ替え戦も頑張っていこうぜ」
「期待してるわよ、コーラス」
コテリ、コテリ、コテリ、コテリ。
コーラスは連続で首を傾げた。
……ほう~?
表情自体に特別変化はないが、これはもしかして……?
「……はは〜ん。なんとなくわかってきたぞ。おまえ、嬉しい時は首を左右に傾げるのだな。あれだな、犬が尻尾を振るようなあれだ」
「? ボク、わかんない」
そうは言いつつも、コテリコテリと首を傾げ続けるコーラス。
そのしぐさが、嬉しさを隠しきれない本物の子犬のように見えて、思わず口もとを緩めていると……。
「ね、ね。そんなことよりさ、ディアナさま。『入れ替え戦』のことだけど……」
「ああ、来週末だったか?」
「そうそう、そんでさ。その前に訓練を兼ねた特別合宿しない? 休みの日にみんなで集まってさ、昼間は訓練、夜はご飯作って、寝る時は体育館に布団敷いてみんなで寝るのっ」
ソーニャの提案に、子どもたちは歓声を上げた。
「合宿? いいね、最高じゃんっ」
「やるやる、絶対やる!」
「お父さんにいいかどうか聞いてみるっ。大丈夫、ダメって言われたら『一生口きかない』って脅せばいいからっ」
一部かわいそうなお父さんもいるようだが、提案としては悪くない。
「個人戦はもちろんだが団体戦もある『入れ替え戦』だ。皆で息を合わせて戦うためにも、短期間で集中して訓練できる合宿というのはいい案だな。よし、やろう」
ワシが了承すると、先ほどに倍した歓声が教室を揺らした。
あまりにも騒ぎすぎてセイラ先生が「わわ、みなさんお静かに……っ」と慌てて制止したり、「ていうかその合宿。わたしも強制参加なんですかねえ? 責任問題とかあるんで、あっさり決められても~」などと弱々しく抗議していたが、勢いのついた子どもたちは止まらない。
隣のクラスの担任が怒鳴り込んで来るまで、騒ぎは続いた。
「すまんの、セイラ。だが大丈夫だ。このワシが絶対に問題の起こらぬよう監視するから」
「た、頼みますよディアナさま~」
おまえまで『ディアナさま』呼びなのかい。
というツッコみはさて置き、こうしてワシらFクラスの合宿は開催決定となったのだった。
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