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9/10

人前でなら

 ミリアはとても戸惑って、悲し気に涙を流す。

 それはそうだろう、大好きだと告げて、結婚を申し込んだ僕が、初夜に口づけ1つでそれから何もしない。


 逆の立場だったら、僕は我慢できない。それなのに、君は待っていてくれる。

 分からないんだ、どこまで君に説明してもいいのか、しばらく抱けない、とか、少し待ってとか、その一言ですら契約完了を遅らせてしまうのではないかと思って、何一つ安心させる言葉をかけられない。


 僕はこの地獄をひたすら耐える。


 ミリアに、僕が彼女を抱かない理由を説明できない。

 この状態がいつまで続くのか分からない、終わりが見えない。ああ、いつまでなのかさえ分かれば、もっと楽になれるのに。


 そして、僕を最も苦しめるもの。

「1回か2回なら大丈夫」

 このパリーバルバルの言葉を聞いてしまったことだ。


 1回でも抱いたら、ミリアが死ぬのなら、僕はきっと覚悟を決められる。


 ああ、それなのに……


 ミリアの柔らかな髪に指を絡ませて、口元に寄せてくらくらするいい香りを楽しむ時。

 ツルツルした頬を人指しゆびで、くるくると輪をかいて触る時。

 優しく抱きしめると、ミリアが僕の胸にすりすりと額を擦り付けてくる時。

 

 そうしてあの、この世で一番可愛い唇にキスをする時……彼女はイチゴジャムのように甘い。

 すぐに夢中になってしまう。もっと、もっとと求めてしまう。


 大好きな黒い瞳が、僕をうっとりと見つめて……ディルクと名を呼んで……


 もう言い尽くせないほどの愛しい瞬間に、僕は彼女の全てが欲しくなる。

 耐えろ、耐えろ、今は駄目だ。


 そう言って聞かせるのに、腹の下のほうからささやく僕がいる。

「1回だけならできる」


 理性がいつか負けてしまう気がする。

 結婚してもうすぐ2年……

 ミリアは僕の名前を呼ばなくなった。どんなにお願いしても旦那様という。

 不安でどうしようもなくなる。ミリアが僕から離れてしまう。


 ミリアだけが好きなんだ。それなのに君を傷つけている。

 どんなに悲しい思いをさせているだろう。


 二人でいたら、僕はもうどうなってしまうか分からない。君の涙を見たら、理性が吹っ飛んで奪ってしまうかもしれない。怖くてたまらない。


 人前でなら、僕はきっと理性を保てる。

 だから許してミリア、どうしても君に触れたいんだ。


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