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番《つがい》になりたいか?

(つがい)になったら死ぬってどういうこと? パリーバルバル」


 初夜の夜、まさにこれからという時に「待て」を喰らった僕は、熱湯と氷水を同時に掛けられたみたいに、ぎゃーと叫びたいほどだった。


「ディルクは強大な神力を持っている、だから私を見ることができる。その人間は神力を持たない、ディルクの神力が注がれると、その人間は耐えられない、器が壊れて死んでしまう」


 そんな……

 幸せの絶頂にいたのに、どこまで転げ落ちでいくのか分からない、僕はミリアを一生抱けないってこと?


「普通の人間なら10回くらいはできるだろう。だがその人間は特に神力が無い、1回か2回くらいは大丈夫。しかし5回ディルクが神力を注げば必ず死ぬ」


 僕はもうあまりの衝撃にパリーバルバルとの会話を続けられない、そしてミリアの顔も見られない。


「そんなに番になれないことが悲しいのかディルク。深い悲しみが伝わってくる。ならば私が番になれるようにしてやろう」


「パリーバルバル、してほしい」

「では、対価が必要だ。番になれるかわりに、ディルクは死ぬまでその人間の姿が見えない。それか、ディルクは死ぬまでその人間に触っても空気のようにしか感じない。この二つのうちどちらか選べ」


「姿が見えないか、触っても空気みたい? それが死ぬまで…… そんなの嫌だ、ミリアを見ることができなくなるなんて、触れても感じられないなんて、どちらも選べない」


 パリーバルバルがぶるぶるっと体を揺らした。

「ならば、私はディルクのためにしてやれない」


 そんな…… 姿が見られない、触っても感じない、一生抱けない、どれを選んでも辛過ぎる。


「ならば、その人間と契約しよう」

「ミリアと契約? 彼女から対価をとるのか?」


「もうその人間からは対価をもらっている。その人間はわたしに命をさしだした」


 命をさしだす? なんて恐ろしいことを言うんだパリーバルバル。

「その人間は私の名を呼び、おまえを悲しませたとののしった。私に殺さることも覚悟していた。その人間の差し出した命を対価にして、私の神力を与えよう」


「命を対価? パリーバルバルやめてくれ、ミリアの命をとるのはやめてくれ」


 パリーバルバルはもふもふでディルクを包んだ。

「この人間は殺さない。ディルクが愛する者は殺さない。この人間の命をとらずに私の神力を与えてあげよう。そうすれば、ディルクはこの人間の番になれる」


 なんという優しさ、もふもふを思い切り抱きしめた。

「ありがとうパリーバルバル、お願いする、ミリアに君の神力を注いでおくれ」


「この人間の器は弱い、少しずつ注ぐから時間がかかるだろう。その間、ディルクはこの契約については外の者だ、だから契約に入ってきてはいけない。言葉にしても、文字にしても、契約を表す全てのことをこの人間に示してはいけない」


「契約の話をミリアにしてはいけないの?」

「そうだ」

「契約の説明は、パリーバルバルが彼女にしてくれるのかい?」

「この人間は私の声が聞こえない」


 え? ということは、この契約が完了するまで、僕がミリアを抱けない訳を話せないということ?

「パリーバルバルちょっと……」

 待ってと言おうとしたとき、すでにミリアの体は紫色の光に包まれていた。


 ぱあっとまばゆい光に包まれて、ミリアの姿が一瞬見えなくなった。そうして光が消えると、ミリアは意識を失っていた。


「パリーバルバル、契約が完了するまでどれくらいの時間がかかるの?」

 パリーバルバルのもふもふの毛が、少し硬くなった。初めてのことでびっくりした。


「契約の外の者が、契約について口にした。ディルク今ので、契約の完了がすこし先に延びた。ディルクこの人間と私の契約に入ってきてはいけない」


 え? 話してはいけないのはミリアだけでなくて、パリーバルバルも対象なの?


 ここに至って、僕はようやく、ぞっとする事実を理解した。


 この契約がいつ完了するのか分からない。

 神獣の言う「時間がかかる」とはどれくらいだろう。

 1日? 1年? 10年? もしや50年?


 もしかして僕が70歳になるまでミリアを抱けないのか?


 すやすやと眠っているように見えるミリアを抱きしめた、意識がないのか、きつく抱いても起きてくれない。


 さっきまで、あれほどの喜びに満たされていたのに。

 僕の地獄が始まったのだ。




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