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七話 ロジャース商会に来たよ

・・・父さん母さん、ロジャース様に会ったかな・・・

空は茜色だね。

早朝のレンティア家の国境にいるよ。多くの商会や組合員が門が開くのを待っているんだね。いま、待っている人々はレンティア第二の街、レマンに直接向かうと聞いたよ。

昨晩は広場に泊まったよ。僕の馬車の中は快適だからね。

何食分かの料理はパレス館で用意して貰ったけどね。


レマンは湖の傍らに発展し、夏の避暑地である、と書物で読んだんだ。楽しみだね。僕もレマンに向かう事にしているよ。


国境の扉が開いたよ。皆、静々と数カ所ある検問に、向って行くね。検問を通らなくても、レンティア領に入ることは出来たよ。でもね、穏便に済めば、それに越したことは無いからね。


ファンタンの、金の草模様の真っ赤な馬車は目立つからね。知っている方々にはひと目で分かるんだ。衛士の多くの方々が見ているよ。

検問に近づくに従い、検問の緊張が増している気がするんだ。何故だろうね。

・・・何せ馬が鎧を纏っているからかな、でも、それはちょっと違うかな・・・


検問で、責任者らしき衛士がこちらを見ているね。キンバリーが馬車を止め、組合の証明書を見せているよ。

・・・衛士さん、緊張しているのが見ていて分かるんだけど・・・。

責任者が証明書を確認し、キンバリーに返すのが見て取れたよ。メアリーが馬車の中が、良く見えるように、扉を開けたよ。責任者が馬車の中を見ているね。


僕を見て、緊張が取れたかな。顔がほっとしているよ。

『ファンタン家のご子息かな?』

『はい、グレンと申します。父と母に呼ばれ、ベネッタに参る途中でございます。』

『そうか。では商品はお持ちで無いな。』

『はい、見て頂ければ、わかりますが、我らの旅の支度品のみでございます。』

『旅程はどのようかな?』

『はい、レマンにて一泊し、更に、レンティア領都レスタスで一泊、その後、ゴルシア領に参る予定でございます。』

『そうであるか。ではお気をつけて、旅をなされよ。』

『有難うございます。』と、頭を下げたよ。

僕は馬車を動かすよ。周りを見るが、他の商会は、厳重に調べられているんだね。

検閲って、問題起きるよね、あれだけ厳重に調べたらね。衛士さんも緊張するよね。大変だね。

・・・何かあるのかな、面倒事は、困るんだけど・・・


レマンまでの道は山の裾野を通る道だね。見晴らしが良く、緑と青が目に良いね。

レマンには夕方前には到着したよ。レマンの街に入るにも、厳重な検問が有ったんだよ。しかし、この馬車の主が五歳の子供だと分かると、簡単に通してくれたんだ。


大通りはレマン湖に沿って、通っているんだね。湖畔は公園が続くね。

僕は街でロジャース商会の場所を聞いたよ。これから、訪ねて行くよ。父さん母さんの様子が分かるといいね。


父より、ロジャース商会は香辛料組合の仲間だと聞いているんだ。ロジャース商会の会頭は、僕が物心付いた後に、一度訪ねて来て、会った事が有るのさ。

香辛料組合の仲間の拠点が有る街では、訪ねるのが礼儀だとも、父より聞いているよ。


ロジャース商会の店舗は通っている大通りの先に有るんだね。商売には、良い場所に見えるのに、街の中は、活気が感じられないんだね。


店舗前に馬車を止め、ロジャース商会に入っていくよ。

店内はそこそこに広く、商品の陳列台も整理良く、壁際に並んで居るが、商品が無いなよ。受付台はあるが、雇い人も居ないね。

・・・うん?雇い人が居ないが、潰れたのかな?・・・


『こんにちは、どなたか居られませぬか?』と僕が聞くよ。

奥より声がしたね。

『どなたかな?』初老の方の声だよ。

白髪の肩までの髪の初老の男の方が現れる。

『ファンタン商会の者でございます。』と、僕は挨拶したよ。

初老の方が僕を見て驚いている。

『グレンでございます。一度、当家にてお会い致しました。ご無沙汰致しておりました。』と。

『そうか、そうか、あのグレン殿か、大きくなられたな。』と、喜んでくれたが・・・


『お一人か?』と、訝しげだね。

『はい、執事と侍女は馬車にて待っております。ロジャース様の商会であれば、危険は無いだろうと。』

『そうか・・・で、用向きは挨拶だけかな?』と、訊かれたよ。不思議な質問だね。


『実は、両親が、半年前にベネッタに仕入れに出たまま、消息がわかりません。で、ロジャース様への元へ、ご挨拶にお伺いに上がったのか、お聞きしに参りました。如何で御座いましょうか?』と、目を伏せて、ゆっくり尋ねたよ。


ロジャース様は、じっと僕を見ていたよ。

僕も、ロジャース様の顔を見上げたよ。

『そうか・・・』と、悲しそうに、目を逸らされたよ。 


店内の客間に通してくれたよ。お茶も淹れてくれたね。キンバリーとメアリーは馬車に居るよ。

キンバリーとメアリーの事を詳しく聞かれても困るからね。


『坊のご両親とは、半年前に、レスタスまでは一緒であった。その後、ゴルシア領内に入られたの間違いない。境界まで行った訳では無いが、その時は、レンティア領内で、問題は起きていなかったからな。』と、ロジャース様は言われたよ。含みのある言い方だね。


『そうですか、では、僕もゴルシア領へ向かおうと思います。ありがとう御座いました。』と、立ち上がって、礼を言ったよ。

『まあ、そう焦るでない。お父上がどの道を通って行かれたかは、ご存知かな?』と、訊かれたよ。

『はい。父は道は何時も一緒、海沿いの道を通ると言っておりました。』

『そうか、では儂と一緒だな。ゴルシアを抜け、ベルマルからフーリンゲン、ケイロン、カレント、タイロスを通りベネッタに行く道だな。で、今、ベルンは本家と分家で争っているようじゃ、用心されよ。』と言ってくれたよ。


でもね、きな臭いのはここも同じだよね。一応、訊ねてみたよ。

『ロジャース様、一つお尋ねしたいのですが、私が読んだ本には、レマンは、レマン湖の恩恵にて、観光や避暑地として、大層賑わっていると書いてありました。で、爺、執事ですが、も来る道すがら、首を傾げておりました。そして、言うには、以前来た時のレマンは避暑地として大変賑い、道行く人も多かったと。今は、見る影も無く、真に寂しいと。それに、何故、このように検問が多いのだろうかと・・・。何か有ったのではと、とても心配致しておりました。』

『ああ、気が付かれたかな?』と、苦々しそうに、言われたよ。


『ファンタン殿一行が参られる前より、塩が不足気味でな。密かに買占めが行われておったのに気がつかなんだ。挙げ句に、最近では、塩の買占めを取り締まるとかの名目で、検閲まで行われての、ますます塩が隠されるし、値が上がるわ、でほとほと困っているのよ。それに、塩の持ち出しをさせんということで、この街の商人も街を出れんようになっておる。売れる物をない。買える物もない。寂れて行くばかりよ。見ての通り、香辛料も無くなったわ。』と、ため息を吐かれたよ。


『儂が行けないので、ファンタン殿に塩の仕入れをお願いしていたのだが、お戻りになられなかった。レンティアに入れなかっただけと思っていたのだが、アメリアにも戻られていないとは・・・』と、ロジャース様は、済まなそうに仰られたんだ。


『爺が言うにはおそらく、レマンと父のことは係わり無いと言うておりました。ただ、アンセムに於いても塩が高騰致しておりましたのが、些か妙かと・・・と爺が言うておりました。』と、考え込んでみたよ。


『何と・・・アンセムでも塩が高騰とは・・・』と、絶句されたよ。

『はい。住民の方の不満が出る程ではなかった様ですが、随分と高騰したようです。一部の事業者の方などは、随分とお困りでありました。』

『今も続いておるのかな?』

『いいえ。爺が申すには、出てくる頃には落ち着いた様子だと。』

『それは良う御座いましたな。以下にして落ち着く事が出来たのであろうな・・・羨ましいかぎりだな。』と、ロジャース様は溜息を吐かれたよ。


『はい。爺が、父上なら、したであろう事をしなさいと言われたので、爺の言う通りに、ファンタン家で借入を肩代わり致し、塩も譲って参りました。』と、僕は答えたよ。


ロジャース様が驚いているよ。何かな?

『塩を譲られた?』と、ロジャース様。

塩を気にされたようだね。


『はい。雇い人も辞めてしまい、僕がアメリアを去れば、店舗の維持も出来ませぬ。で、店舗を売却し、在庫を持っての道中なのです。塩も多少の持ち合わはせ御座いましたので。』と、答えたよ。 

『ご子息、もし、まだお持ちなのであれば、私にも塩を譲って頂く訳には参らぬか?』と、ロジャース様が言われたよ。


『はい、爺に聞かねばわかりませぬが、量によっては大丈夫かと。で、如何程必要でございましょうか。但し、持ち合わせはヤーパン製しか有りませぬが』

『勿論、ヤーパン製であれば、大いに助かる。そうだな・・・少なくとも、大袋で十は欲しいが・・・』と、無理とも思われながら、言われたよ。


『では、爺に聞いてまいりましょう。』と、席を立ち、玄関に向かったよ。


爺と話す振りをしてから、ロジャース様はの居る部屋に戻ったよ。

『爺が言うには、大袋で十五でも大丈夫と申しておりましたが・・・』と僕は言ったよ。

『うん!十五も有るのか?・・・価格は・・・多くは出せないが・・・』と顔が歪まれる。

『売価は正価の五分増しで、と爺が言うておりました。お互い組合員で御座います故と。また、ロジャース様であれば、都合の良い時でも、と申しておりました。』

『それは大変助かる・・・本当に、済まない・・・これで、落ち着くと思う・・・』と安心からか、笑って下さったよ。


『爺が心配しておりました。ファンタンの馬車は有名であるから、塩を持ってきたのではと、狙われたり致しませぬか・・・検閲も厳しくされているようで。あちらこちらで検閲もされておられましたがと・・・』

『ああ、しかし民も怒り出したから、大丈夫であろう。王弟が、どこぞの商会と金儲けしておる所為だとな。何せ、この国は、王妃の国じゃ。王も王弟も力は無い。民も王妃以外の声は聞かぬ国だからな。』と、ロジャース様。


『王弟と商会だけで、出来ようとは思われませんが・・・』と僕は呟いてしまったよ・・・。


塩は倉庫に、と言われたよ。

『爺。荷をお願い。』と僕はキンバリーを連れに来たよ。

爺と共にロジャース家の倉庫に入り、塩の大袋を積んでいくよ。香辛料五種も、頼まれたので、小甕で置いておいたよ。


『キンバリー殿は凄いな。』と、ロジャース様が感心されて居るよ。

『はい。爺はとても頼みになります。お陰で、無事に、ベネッタまで行けそうてす。それに、色々、良い勉強になります。』

『成程・・・』と、ロジャース様は納得されたようだよ。

・・・爺はすごい、だから僕の事は気にしないでね・・・


ロジャース様より泊っていくようにと言われたが、明日早朝に出発したいのと、要らぬ疑惑を招かぬように、宿泊は丁寧にお断りしたよ。

街の広場に馬車を停め、明日の事、父さん母さんの事を思いながら眠りに就いたんだ。


七話 完










明日からは一日一話となります。すいません。

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