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五話 父さんの常宿だよ

日が顔を出したね。空は水色だよ。

昼頃に、アンセムの街に着くように、森を出発したよ。


アンセムは山の麓の街だよ。アンセムまでの主要街道は広く馬車も通り易かったね。

アンセムはベネッタの街に向かう行程の一日目に宿泊するアシリア側の国境の街だよ。アンセムを過ぎると、まもなくレンティア家のが領地なんだね。


・・・両親一行もアンセムの街に宿泊していると思うんだ。衛士に聞いてみようかな・・・


僕は両親が戻らないのがわかると、ただ、家で音無しく待っていた訳ではないよ。両親の事は大好きだから、とても心配なんだ。

・・・この世界でも人の命は軽いのかな・・・半分、諦めは、あるんだけどね・・・


いくら本で知識を得ても、今の世の中とは大きく違っている事が殆どだよ。

近隣の紛争や盗賊団の活動。その情報を一番持っているのが、商業組合なんだって。

商業組合は商人の互助組織として発展したんだね。西方地域二十家のどの国にも属していないんだよ。全ての街に組合は有ると聞いていたよ。


僕はキンバリーを連れ、何か情報が無いか、毎日、組合に寄っていたんだ。シャンタン商会に関わる噂は何も流れて来なかったよ。だから、自分で探すことにしたんだ。

だからね、新たに馬車も作って貰っていたんだよ。他にも用意はしていたけどね。


父さんの扱う商品の組合もあるんだよ。それは、香辛料組合って言うんだけどね。領家に一つ何だって。だからね、アシリアにはファンタン商会だけなんだよ。南のレンティア領にはロジャース商会があるよ。ロジャース様なら、何かご存知かな。


目の前に、初めてのアンセムの街が見えたよ。飾り門は有るが、壁はないね。空は真っ青になっているね。薄い紫の雲も漂っているよ。

衛士さんが、門の両脇に立っているよ。

馬車を、一人の衛士さんの傍らに寄せたよ。


『こんにちは。』と、馬車の窓から顔を出して、挨拶したよ。

『何かあるかな?』と、一人の衛士が、僕の馬を見て、眉を顰めたよ。でもね、馬車を見て、頷いて、聞いてくれたよ。

『はい。僕はこの街が初めてなのですが、商会が泊まれる大きな宿はありますか。有れば、宿の名を教えて頂きたいのです。』と微笑んだよ。


『広場を右に抜けて、登って行くと、アンセム・パレスとアンセム・トールスがあるよ。パレスはファンタン商会、トールスはパール商会の常宿で有名だよ。』と。

『ありがとうございます。行ってみます。』と頭を下げたよ。


門からの石畳みの道を、進めて行くよ。広場が見えて来たよ。回りに沢山の屋台も有るね。屋台に群がる人も多いよ。お昼だからね。

馬車を、広場を右に、通りを登って行かせるよ。赤と白塗にられた、尖った塔のある石造りの宿が見えてくる。アンセム・トールスと表示されているね。

・・・まるで〇〇〇〇〇だねって浮かんだよ・・・


では、あの二階建ての、木造の白い漆喰の宿がそパレス館だね。

落ち着いた良い色だね。柱の濃い茶の色と漆喰の白い色が、後ろの森の緑に映えてるね。

僕はパレス館の広い馬車停めを抜け、屋根が張り出す、広く開いている玄関に馬車を寄せたよ。


僕はキンバリーを馬車に残し、メアリーを連れ、宿の玄関を入って行ったよ。

広間の先が、受付なんだね。

広間には、多くの椅子がゆったりと置いてあるね。多くの宿泊客が、その椅子に座ってこちらを見て、ぎょっとしているよ。

・・・どうしたのかな?・・・メアリーが怖いのかな・・・

メアリーは白に薄桃色のペイズリー柄の裾広のドレスに白の仮面、後ろに編んだ腰上の白い髪。背には赤い柄の偃月刀。


僕は気にせず、受付に立つよ。僕の後ろにメアリーだよ。

宿の雇い人が来るのを待つんだけど、気の良さそうな雇い人は下を向いたまま、奥から出て来、らら。

・・・何故来ないのかな?子供だからかな?・・・


受付の後の壁に、御用達の名が掛けてあるね。パール商会、次にファンタン商会。

・・・パール商会も有るんだね。衛士の言われた事と違っているね、何故かな・・・


僕は受付で、暫く待っていたよ。

受付の奥より、身なりの良い、周りに圧を掛けながら、顔に険のある若い男が近付いて来たのさ。

『お客様、御予約を頂いておりましょうか?』と睨んで来たね。

・・・おい、客を睨み付けてはだめでしょう・・・まして僕は、子供だよ・・・父に会えたら言っちゃうよ、この宿は駄目だねって・・・


『予約はしておりませぬが、少々お聞きしたくて罷り越しました。』

『・・・何で御座いましょう・・・』と、男は面倒臭そうに応えたよ。


『僕はファンタンの一族なのですが、半年程前になりますが商会一行がベネッタに向かう途中に、こちらに宿泊したと聞き及んでおりますが、確かで御座いましょうか?』と丁寧に聞いたんだ。


男は、にやりとしながら話し出したよ。

・・・何か良からぬことが、浮かんだね・・・


『左様でございます。ベネッタに向かうと仰せられておりました。また、一月したら戻るので、その予約も頼むと、宿泊の代金は、その時にまとめて払うからと仰られてベネッタに向われましたが、未だ、お戻りになられておられませぬ。付きましては、宿泊代と予約の不履行料を頂戴致したいのです。』と、険のある若い雇い人は言うよ。


『それはそれは、もし、それが真であれば、大層ご迷惑をお掛け致したことになりますね。』

・・・あらら、そんな浅はかな事が通ると・・・子供だと思って侮ってますね・・・


僕は他の雇い人を見るとね、他の雇い人の方たちは変わらず緊張を隠さず顔を伏せているよ。

『本来、商習慣から云えば、有り得ませんが。まして、ファンタン商会でありますよ。その様な無様な真似をする筈が有りませぬ。その証、覚書は御座いますか?』と僕は、雇い人を、じっと見ながら、聞いてみたよ。


周りの客の方々も、それとなく遣り取りを聞いているんだね。

其れを感じたのか、

『私が嘘をついているとでも・・・』と受付の、その雇い人が激昂するよ。

・・・うん、性根が悪いんだね・・・


『ではあなた様が嘘を述べていないと言うのであれば、この場で宿泊の代金と予約の不履行料をお支払い致しましょう。但し、我らとしても商会の信用がございます。そのお支払いの証が出て来たあかつきには、お支払いした代金の十倍の返金と、このパレス館をお渡し頂く証文を、こちらの館主の名で頂戴したく思いますが。』と男を見る。


『何を・・・勝手なことを・・・』と男が絶句する。

『そちらの雇い人の方。館主様をお呼び頂けますか。ファンタン商会の者がお会いしたい、と。』

『ま、待て』と横柄な男。

と、顔を伏せていた一人が、横柄な男が止めるのも聞かず、受付を出て行くよ。


すると、後ろから声がしたね。

『何やら穏やかではありませんな。私が仲裁致しますよ。私はアンセムでのパール商会の代理人をしております。』と、剣を手に持った護衛二人を連れた、嘲る様に笑っている太った男。


『ふん。無関係者が煩いな・・・馬鹿なのか?』と、僕は太った男を鼻で笑ったよ。

男はムッとしたようだね。

何か言いたいみたいだね、でも口が、ぱくぱく、しているよ。反論された事がないのかな。


僕は、更に言ったよ。

『子供に剣を見せて、威嚇するとは物騒ですよ。それで仲裁とは片腹痛い。良い大人のすることですか?』

続けて、

『まあ、お相手するのに、吝かではありませんが。メアリー、お願い。』と僕は声を掛けたよ。

メアリーは頷くと、背にある偃月刀を回して、構えたよ。


太った男の護衛二人も、にやつきながら、剣を構えたよ。

『・・・パール商会の私が仲裁をしてやろうと言うのに、その態度は何だ?』と太った男が怒っているよ。

『たかが、代理の方如きが、嫡男に仲裁とは・・・立場を、お弁えくださいね。クックックッ』と、僕は笑って言ってやったよ。

パール商会の太った代理の男、顔を赤くして、ますます怒ったよ。

『子供が偉そうに、躾けてやれ!』

それを聞いた護衛二人、メアリーに近寄り、剣で打ち掛かる。メアリーはそれぞれの剣を受けると、二人を一度に薙ぎ払う。護衛二人が飛んで行く。

それを見ていた太った男、驚いて、護衛の男達を置いて、急いで逃げて行くよ。

・・・あの男、一体何しに来たのかな?・・・


僕は、メアリーを、口を開けて、呆けている、険のある若い雇い人の脇に、素早く移動さたよ。勿論、逃がさない為にね。偃月刀を、その男の首に当てたよ。偃月刀に刃は無いんだけどね。

パール商会の代理人がいた時は、僕を馬鹿にしたように、にやにや、していたのにね。

今や、その男は、刃を当てられ、びっくり、膝を付いているね。


五話 完
















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