四話 初めて賊を見たよ
・・・父さん母さん、ごめんなさい、ちょっと寄り道するけど・・・
グラの村が見えて来たね。村の周りには木の壁が囲っているよ。村というより砦だね。
村の入口に灯りが灯っているね。入口は開いているよ。村の中にも灯りが置いてあるのが見えるね。村の入口に馬車を入れて行ったよ。とても明るいね。
人が現れたね。三十人程。僕は馬車を止めたよ。
討伐者様が馬車から下りて、話し始めたよ。
『村長はいるか?工匠組合から賊の討伐依頼で来た。』
僕もキンバリーを下ろし、討伐者の傍らに動くよ。僕はキンバリーの後ろに隠れている事にしたよ。
・・・ぼくが思うに、村人ってこの様な人達かな?皆、立派な武器を持っているよね。しっかりと、鎧を付けている人も、多く居るしね・・・
『村長は俺だ。』と、真ん中の男の人が喋ったよ。
・・・絶対、村長ではないよね。体格いいし、顔に傷もあるからね・・・
僕はキンバリーを通して声を出したよ。
『金は用意してあるのか?今は無いが、後で必ず払う、と言う者達も居るからな。』
討伐者は変な顔をするが、黙っているね。
『か、金は此処に有る。』
と村長が言う。
『其処に置け。』とキンバリーに喋らしたよ。
村長が金の袋を足元に置く。僕はキンバリーの鞭を使って取り寄せたよ。キンバリーが拾い上げて、討伐者に渡したのさ。
『確かに有る。』と中を確かめ、仕舞う討伐者様。
僕はメアリーも馬車から降ろして、傍らに動かしておいたよ。
『まず、門をもう少し閉めてくれ。一人、二人分くらいを開けてな。』と、討伐者がその村長に言ったよ。
村長は指示を出して、門をある程度、閉めさせたよ。村長は陰で笑っているね。
『じゃ、村の人は、賊が来たら隠れられる様に向こうに居てくれ。』と。討伐者様は後ろを、指で示すよ。
『俺らも戦おうか?』と村長。
『いや、村人は隠れていて、いいぞ。怪我をするからな。私等だけで十分だ。』と、討伐者様が言うよ。
『いや、俺等も戦うぞ。』と、村長達はにやつきながら、後ろに、近づいて来たよ。
討伐者様は振り返りながら、村長達と距離を取ったよ。僕も、キンバリーとメアリーとともに、斜め後ろに、距離を取ったよ。
『村長。誰と戦うんだ?私等とだろう、違うか?』
『お前らが賊だろ?』と、更に討伐者様が言うよ。
『何故分かった?』と、村長と言った男が、未だ、にやついているね。
『村人にしては、お前さん等、顔が悪過ぎだろう。』と討伐者様が笑っているよ。
『そうだよな。誰も大人しい顔してねえからな。』と笑いながら答えたよ。
『アーチンソンの一党とは俺らの事だ。』と嬉しそうだね。
討伐者様は、それを聞いても特に気にした様子は無いよね
『最近、あの赤い馬車と同じ馬車を襲ったか?』とキンバリーの声で僕が聞いたよ。
・・・キンバリーはね、管から、声質を変えて、声を出せるんだよ。木工師のおじさん、凄いんだね、改めて、思ったよ・・・
『うん?赤い馬車?知らねえな。俺らはそんなケチな仕事はしねえよ。』と、親玉が答えたよ。
・・・そうか・・・違ったね・・・良かったよ・・・
『そこの討伐者さんよ。悪く思うなよ。あんたに死んでほしい奴から頼まれた。だから死んでくれ。其処のあんた等も運が悪いな。一人だけと聞いていたが、仕方ねえな、悪く思うなよ。』と。
・・・やはり、討伐者さんが狙われていたんだね・・・
半数程の賊が討伐者を囲んだよ。残りの人数がこちらに回り込んだね。
賊の人達は、とても楽しそうだね。討伐されるとは思ってもいないんだね。何か秘策でも有るのかな?
突然に、前のメアリーの衣装が燃え上がったよ。驚いたね。きっと、術者だね。
賊達の、はしゃぐ声が聞こえるよ。
『ひゃっほー、燃えろ!燃えろ!』
『大丈夫か?』討伐者の心配した声も聞こえるね。
僕は燃え上がる侍女を一回転させ、そして、ドレスを宙に仕舞ったね。
・・・仕舞ってしまったけど、火は消えたかな?・・・大丈夫みたいだね・・・
メアリーのドレスの下は、右半分が黒、左半分が白、体全部を覆う軽装鎧。背には偃月刀を背追わせているんだよ。
その姿を見た賊達が固まっているね。
メアリーに、偃月刀を回させたよ、右に左にね。そして、賊の中へ飛び込ませたよ。
僕はね、メアリーに、右に左に偃月刀を振らせたんだよ。何せ実践は、初めてだから、緊張したよ。
賊達も剣を振るって来たんだよ。でもね、遅いよね。メアリーの偃月刀で簡単に受けられたよ。その剣を弾いて、盗賊の体を打ったよ。
次も同じだね。受けて、弾いて、腹を打つ。数回繰り返したよ。そしたら、掛って来なくなったよ。
火術者は、火術を使わないのかな。
だからね、メアリーを賊の中に動かしたよ。
最初より、早く偃月刀を使えるよ。賊の振るう剣も躱せたよ。両手で持って右に左に突く事もするのさ。
賊達は、メアリーに、次々に打たれ、倒れていくよ。
メアリーの振るう偃月刀の刃と石突きの飾りが、燈火を映して綺麗だったね。
此方に向かって来た賊は、皆、寝てしまったよ。
討伐者様をみると、此方を気にしていたんだね、侍女の戦い振りをみて安心したように、囲んでいた賊たちを、大剣で薙ぎ倒していくよ。最後に残った親玉も、あっと言う間に、打ち据えたんだよ。
・・・上級討伐者は強いんだね・・・助けは要らなかったかな・・・まあ、いいか・・・僕にとっては良い経験になったし・・・しかし、弱い賊達だよね・・・なんだか不思議だな・・・
賊たちとの戦闘は短かかったね。倒れている盗賊たちを縛り上げたよ。火術使いがいたよ、他にも術者が居るだろうからと、賊達の目を塞ぎ、念の為、薬で眠らせておくよ。
村人たちは、やはり目を塞がれ、大きな納屋に押し込められていたんだ。
それを助け出して、討伐者様が本当の村長と話をしているよ。討伐者様の顔が厳しいよ。何かあるのかな。でもね、聞くことはしないよ。巻き込まれたら、大変だよ。
僕は、知らない振りして、馬車で休むのさ。
・・・しかし、何故アーチンソンの一党などと、わざわざ告げたのだろう、不思議だね・・・
討伐者様は、村の代表との話は終わったんだね。賊達を賊達の馬車に積み込んているよ。僕の事は村人には話さないように頼んであるからね。目立つのはごめんだよ。
討伐者様が僕の馬車の傍らに来たよ。
『坊、これは半額だ。』と、金の入った袋を渡してくれる。
・・・金は大事だ、有り難く頂戴しておこう・・・
僕は頭を下げて礼を言ったよ。
『討伐者様。お強いですね。余計な事をして、心苦しいです。』
『いや、一人では大変だった・・・助かった・・・ところで、執事殿と侍女殿は・・・人なのか・・・生きているようには思えないのだが・・・』と、聞き難そうに僕を見たよ。
『討伐者様。僕は一人で旅をしておりますよ。あれらは馬も含めて造り物なんですよ。』と、クックックッと僕は笑ったよ。
『そ、そうか・・・』と、侍女を見て、討伐者様は目を見張ったよ。
『討伐者様、もう村をお出になられますか ?』
『あー、もう出るつもりだ。アンセムの騎士団に引き渡すつもりだ。』
『私は後をついて行きますが、街道に戻りましたら、途中で消えることになりますが、 お気になさらずに。』と告げておいたよ。
二台の馬車は街道に出たよ。アンセムに向かったんだよ。未だ陽は上りきっていないから、空は明るい紫だね。とても綺麗だよ。
僕は大木の傍らに馬車を止めたよ。
討伐者様の馬車は進んで行ったね。
僕は、馬も馬車も執事も侍女も仕舞ったよ。
そして、僕は、太い枝の上に登ったんだ。陽が十分に昇るまで、此処で一眠りだね。
・・・しかし、幸先は良くないよね、これからは、首を突っ込まないように、気を付けないとね・・・
ーーーーーー 討伐者 ーーーーーー
アーチンソンとは面倒だ。
・・・坊はアーチンソンを知らなかったようだが・・・
仕方ない、この件が済んだら、帰らねば。
坊の馬車が消えたか・・・あの馬車はシャンタン家の馬車だな・・・わざとであろうな・・・私も面倒だが、あの坊も面倒事を背負っているな・・・まして、シャンタン家の御曹司が知恵憑きの人形使いか・・・世の中には恐ろしい者が多いな・・・出来れば、坊を送って行ければと思ったが、縁は無いか・・・
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訂正 芽→メアリー、
後の馬車→坊の馬車
文字の訂正2ヶ所