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四十七話 また、首が飛んだよ。

朝が明けたよ。今日は、青の襟付きの上着に、赤のズボンだよ。顔の見えない鍔付きの帽子も、被る予定だよ。人形と同じだね。

父さんは、最近のお気に入りなのか、厚手のグレーのシャツに青いズボンだよ。

母さんと、イレーネは白のシャツに革製のチョッキに革製のズボンだよ。


昨日は、境界の平地から、少し離れた高台になる草地の斜面にテントを張って皆で寝たよ。

早朝から、人の移動する音でざわついていたよ。

だから、朝早くから境界を挟んで、カンジナビア兵とクードフさん率いる衛士隊が居るんだね。

この辺りは草原だから、高台のここから両方が見えるよ。

僕らは、馬車の脇で朝食だよ。腹が減っては、戦は出来ないからね。

僕は、戦ををする積りは無いけどね。


『父さん。衝突は、まだ始まって居ないよね。どうなるのかな?』 と、僕は父さんに聞いたよ。

『先方さんは、こっそりと、入れると思っていただろうからね。計画が狂ったから、どうする積りだろうね?平地で戦うのは難しいからね。』

と、馬の走る音が聴こえるよ。

クードフさんが、馬で来たよ。


『先方より、話し合いがしたいと言われまして・・・』と、言われるよ。

『先方さんの所属は何処にあるのでしょう?』と、父さんが訊くよ。

『北方正教会広報布教活動部と申しておりますが、名前はともかく、聖戦騎士団と同様の役目を負っていると聞いております。』

『と、言うことは、カンジナビア兵では無いと言う事になりますね・・・』と、父さん。

『はい、あくまでも、北方正教会として、話がしたいと・・・』と、クードフさん。

クードフさんは首を傾げているよ。


『そうですか・・・では、アスタロトとして話をしましょうか。』と、父さんが言ったね。

『クードフ殿。では、相手方に少々、待ってくれるように伝えてくれますか?片付けたら直ぐに参りますから。』と、続けて父さんが言うよ。

クードフさんは、頷かれると直ぐに戻って行ったよ。


『グレンは、どう思う?』と、父さんは卓をたたみながら、僕に訊くよ。

『カンジナビアではなくて、正教会の名前を出した事?』と、父さんに訊いたよ。

父さんは肯いたよ。

『一つは、ササビー帝国に兵を出す口実を与えたくないからと、二つ目は実際に戦うつもりは無いんじゃないかな。』と、答えたよ。

『やはり、グレンもそう思うかい・・・何の話だろうね・・・』

『相手の人となりを見ないとね。』と、僕は父さんを見るよ。

父さんは、僕に、にっこりしてくれたね。


僕らは片付けを終え、のんびりと、衛士が展開する場所へ馬車を移動させたよ。父さんが御者だよ。

『母さん、イレーネ。僕は、顔を知られないように、帽子を被るけど、母さんもイレーネも顔を知られないようにした方が良いと思うんだ。教会の人達はしつこそうだから、後々の事を考えてね。』


母さんは、少し考えていたけど、父さんを見たよ。

父さんは、振り返って、母さんに頷いたよ。

『では、そうね、面を被るわ。グレンのを貸して・・・』と母さんが言うよ。

で、僕は、メアリー用の面を二つ出したよ。

うん、僕も面を被る事にしたよ。


そして、衛士隊の後方に馬車を置いて、皆で、前面にいるクードフさんの元へ歩いたよ。ブランシュさんもいるよ。

僕は、念の為、人形に替えて、空に居る事にしたんだ。

教会の人は何をするか分からないからね。

それを、父さん母さんは気が付かなかったし、衛士の人々もだよ。イレーネは気が付いたけど、知らない振りだね。


父さん母さん、イレーネ、そしてイレーネのチョツキの縁を掴んだ人形が、クードフさんの傍らに行ったよ。

クードフさん、ブランシュさんは、母さんとイレーネ、人形の僕を見てぎょっとしたよ。


『クードフ殿。遅くなり、申し訳無い。あはは、面を付けたのは顔を晒す事は無いだろうとグレンが言うものだから・・・』と、父さんが言うよ。 

『話し合いがしたいとと申したのは、あちらですから。遅くなっても、気に為さる事は有りませんよ。』と、普通に戻ったクードフさん。

『顔を晒さないのは大事な事ですな。』とブランシュさんも言われるよ。


『で、話の内容はお聞き及びですか?』

『それが、アスタロトの方に、としか言わないのです。少々、危険かも知れません。』

『成る程・・・では、私とクードフ殿、ブランシュ殿で会う事に致しましょう。』と、父さんは言うと、三人は境界線に向かうよ。十歩程歩いて止まったね。

向こう方も三人で歩いてくるね。黒に近い青のゆったりとした教服だね。一人は袖口に三本の金線が有るよ。猫背で前屈み気味だね。他の二人には、金線は無いね。体格も立派だよ。きっと護衛の方だね。

金の三本線の方は腕が悪いのか、手に黒い手袋をして、前で握り合っているよ。

でも、義手だね。僕が動かせるからね。

相手方も境界の手前で止まるよ。六人は向かい合ったよ。


『話がしたいとの事ですが・・・こちらには有りませんが何用でございましょう?』と、父さんが言うよ。

『アスタロトの方でございますか?』と、袖口の金の三本線の方が訊くよ。 

父さんは頷いたね。

『私は、イ・スラと申し、北方正教会の司教五人の一人を拝命しております。で、この度、教皇ゲイロン様よりの命で参りました。実は、教会の件では無く、パール商会からの依頼案でありまして・・・。パール商会が掘っていた金鉱の金をパール商会にお渡し頂きたいとの事であります。さすれば、無用な争いはせずに済みます。勿論、ただでとは申しておりませぬ。産出させた金を買い取る方向でお願い出来ないか、と申しております。』と、ぼそぼそと言われるよ。


父さんは、

『アス夕ロトとして、ファンタンの商売に口を出す訳にはいきませんし、ファンタンとしてなら、パール商会が居ないにも関わらず、パール商会との商売の話は致しません。まして、パール商会から、ファンタンに対して詫びの一つも無い現状、パール商会との取引など有り得ませんが。』と、淡々と言うよ。

『では、せめてファンタンを統括される奥様やご子息にご挨拶をさせて頂く事は出来ませんか?』と、陰気に言われるよ。


『妻は、未だに到着しておりませんし、五歳の息子に会っても意味は無いと思いますよ。』と、父さんの顔が硬いよ。

『ここを引き上げる為の証とでも、お考え下さい。是非、ご子息のご尊顔を。』と。

父さんは僕の人形の方を見るよ。

僕は人形に頷かせると、父さんの方へ歩るき出させたよ。

僕は、空中に居たけど、イ・スラさんが笑った気がしたね。


僕は、人形をイ・スラさんの前迄歩かせると、話したよ。

『初めまして、グレン・ウォーター・ファンタンです。神殺しの魔獣使いです。』と、人形に、イ・スラさんを眺めさせたよ。

『私はイ・スラと申します。北方正教会で暗殺担当です・・・』と、北叟笑むと、背筋を伸ばすと、左右の隠した手で剣を抜いて、僕の人形の首を飛ばしたよ。首は、赤い物を滴らせて宙を舞うよ。


イ・スラさん、初めて嬉しそうに笑うよ。嗤った顔が不気味だね。

父さんは、体が固まっているよ。

クードフさんとブランシュさんは怒りの顔で剣を抜いたよ。

母さんは、初め、慌てて、此方に来ようとしたけど、イレーネが止めて、母さんに告げているよ。

それを知った母さんは、落ち着いたようだね。


僕の首は宙に舞ったよ。でもね、僕の首は地面に落ちずに宙に浮いて、イ・スラさんを眺めさせるよ。赤い物はまだ滴っているよ。

そして、僕は、言ったよ。

『子供に向かっても、そんな狡い事をするから、教会は嫌われ、追われるんだよね。僕はこう見えても、知恵憑きだからね。多くの事を知っているんだよ。見せていた腕は、油断させる為の造り物で、本当の腕が剣を握っていた事もね。予想もしていたけど、本当にやるとは・・・子供ながらに絶句だよ。』と、人形の首を回したよ。

イ・スラさんは、回りを見廻しているよ。逃げる算段かな。


『僕の首が飛んだ事を知った帝国は、もう我慢しないで、兵を出すよ。スカンジナビア大公領は、教会とパール商会の所為で無くなるんだ。正教会の信徒も追われるよ。可愛そうに・・・一般の信徒は何も知らずにね。そして、帝国を恨むんだろうね・・・』と、憐れんでイ・スラさんを見たよ。

イ・スラさんは、人形の首を畏れるように見ているよ。その畏怖が顔に出ているよ。


『イ・スラさんには、別に責任を取って貰うよ。僕から逃げるなんて、知恵憑きでも無い限り無理だからね。僕は卑怯者でないから声を掛けるね。では、いくよ。』


両脇の護衛が剣を抜いたよ。僕は、直ぐにその二人の襟を掴んで、後の信徒の所へ飛ばしたよ。

二人も信徒も驚いたよ。


其れから、紐でイ・スラさんをぐるぐる巻きにして、剣を落とさせると、イ・スラさんの体を転がしたよ。


次に、人形に空を見させたよ。その空に、キョウカを出したよ。

『ああ、キョウカも怒って出て来ちゃったよ。イ・スラさん。あなたの体で鎮めて貰おうか・・・』と、イ・スラさんの顔がキョウカの二つの首が見えるように回したよ。そして、その体を目がけて、キョウカを動かすよ。

流石に、イ・スラさんも顔が引き攣るよ。


『グレン。いくら首を飛ばされたからと云っても、グレンはその人をいたぶる様な事をしてはいけないよ。それから、そろそろ、首を戻したらどうだい?母さんも、いい気はしないと思うけど・・・』と、父さんが、渋面で言うよ。

『そうだね、父さん。あっさりと、送って上げる事にするよ。それと、首も戻すことにするね。』と、首をゆらゆらと振って見たよ。

父さんは、途中から人形だって事に気づいたんだね。



僕は、まず人形の首を胴体に戻したよ。

次に、縛ったイ・スラさんを宙に浮かせたね。

皆が、宙に浮いたイ・スラさんに気を取られている間に、僕は、人形と入れ替わったよ。

そして、キョウカの背に跨ると、イ・スラさんを浮かせたまま、一緒に正教会信徒のいる所まで移動したよ。


特に、何も言わず、イ・スラさんをそのまま信徒の前に放置すると、信徒の前で、キョウカに咆哮させて、それからゆっくりと信徒の頭上一回りしてから、父さんの傍らに戻ったよ。


『父さん、これで良かったかな?』と、僕は聞いたよ。

『ああ、あれで十分だと思うよ。父さんは思うけど・・・母さんの怒りがね・・・』と、困った顔しているよ。


皆が、ざわついている中、母さんが来るよ。 

『グレン、何で最初から言わないの・・・心配したでしょう。母さん、グレンの首が飛んだ時、心臓が止まるかと思ったわ・・・』と、面を外した母さんが、涙を溜めて怒っているよ。

『母さん、ごめんなさい。僕だって、首が飛ばされるなんて思いもしなかったんだよ。』と、母さんを見て、とても悲しくなったよ。


『母さんは、許さないわよ。パール商会は徹底的に潰してやるわ。』と、信徒をの方を睨んだよ。 

『そうだね。それは追い追い考えるとして、今の事が大事だから、信徒はどう出るかな?』父さんが言うよ。

『ファンタン殿、信徒は引くようで御座いますな。坊殿が言われた、帝国の事が、気になったのでしょう。帝国は甘くはなさそうですからな。』と、クードフさんが、信徒の方を見ながら言うよ。 


『グレン。帝国は侵攻するのは間違いはないのかい?』と、父さん。

『うん、前皇帝の件が有って、新皇帝の威信が掛かっているんだよ。だから、簡単に許す事は出来無いんだ。まず間違いなく、今度の件を口実に動くよ。』と、僕は言ったよ。

『グレン。新皇帝の赤い目は消えたのでしょう。それなのに、グレンの件で、動いたりするかしら?』と、母さん。

『うん。ブランシュさんもそう思っていると思うよ。』


皆がブランシュさんを見たよ。

『あはは、言い難いのですが、坊殿は、帝国にとっても、大切な恩人と思われて居るのです。なので、動く口実には丁度良いのですよ。』と、苦笑いしているよ。


父さん母さんは僕をじっと見るよ。それから、イレーネを見たよ。

イレーネは、苦笑して頷くよ。


四十七話 完


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