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四十六話 金鉱だよ


馬車で目が覚めたよ。少し眠れたよ。でもね、金鉱が気になって起きてしまったよ。

金鉱の中が見えると思うと、どきどきだね。初めてだからね。金鉱の中って、金で輝いているのかな。着るものは黒のフード付きの被り物に、白の緩いズボンだね。


僕は、ウォーカーの馬車から、外に出て、僕の馬車を探すよ。僕専用の馬車が無いよ。ちょっと、不満だよ。

きっと、母さんが乗っていったんだね。

だから、仕方無く、黒い鎧の黒馬にしたよ。それに跨って、ゆっくりと街中を、カンジナビアとの境界を目指すよ。子供が一人で、鎧馬に乗って街中を移動刷るのが珍しいのか、皆が振り返るよ。

街並みが終わった辺りで、馬を浮かすよ。高くね。


空は気持ちが良いよね。下は農地が終って、灌木が目立つよ。未耕作地が続くよ。

あっという間に境界付近だよ。領内のその境界の辺りは地形に段差があるんだね。断崖が見えるよ。その崖の下側に四っつ程の建物があるよ。その前で、人々が対峙しているように見えるね。

カンジナビア領内からは、まだ遠いけど、こちらに向かっている一団がいるね。こちらに侵入するのは明日かな。


で、僕は、人々が対峙している所をめざして、手前から降りるよ。

そして、馬に地面を走らせるよ。結構早いね。

人々の対峙している前面に父さん母さんがいるよ。僕は馬で乗り付けたよ。そして、母さんの横で、馬から下りたよ。馬は来た道を戻らせて、仕舞ったよ。


で、僕は声を掛けたよ。

『父さん母さん、まだ中に入れないの?』

『あら、グレン。どうしたの?寝ているかと思ったのに・・・』と、母さんが言うよ。

『うん、金鉱の中って、見たことないから、わくわくして、起きちゃったよ。』

『母さん、僕の馬車を勝手に使ったでしょう・・・』と、母さんを見たよ。

『うん、寝ていたから、起こしたくなかったのよ・・・』と、母さんは目を反らすよ。


ブランシュさんとクードフさんが、僕を見ているよ。

『あっ、ブランシュさん、クードフさん、こんにちは。』と、遅れて挨拶をしたよ。

『ご子息はご機嫌のようですな。』と、クードフさんが言われるよ。

ブランシュさんも笑っているね。


『ご子息なんて、こそばゆいですよ。坊で構いませんよ。』と、笑うよ。

『ご機嫌だったんですが・・・』と、僕は建物の方を見ながら言うよ。

『グレン、母さんが明日まで入らないと、約束したのよ。』

『そう、なら仕方ないね。』と、肩を竦めたよ。


と、相手方から僕を見ている男の人がいるよ。強そうだね。イレーネとどちらが強いかな、とイレーネを見たよ。イレーネは、僕が考えた事が判ったのか、肩を竦めるよ。

・・・どっちかな・・・


『おじさん、僕に用?』と、強そうなおじさんに聞いて見たよ。

『い、いや、ファンタンのご子息は若いなと思って、つい見てしまった。すまんな。』

『そう、じゃ、失礼返しで、おじさん、いい剣持ってるよね。それ、九代のテッサでしょう。見せてくれないかな。』と、僕は訊いたよ。

『これ、グレン。今は駄目だろう。』と、父さんが言うよ。

『父さん、僕は商人だからね。目利きの勉強は大切なんだよ。良い物を見る機会は逃したら駄目なんだよ。ねえ、母さん?』

『そうよ。でも明後日からならいつでも見せて貰えると思うわ。』

『母さん。母さんはそうしないでしょう・・・』と、母さんを見たよ。

母さんは、笑っているだけで、返事がないよ。


『あはは、どうぞ。』と、鞘ごと渡してくれたよ。

僕は、鞘を握ると、剣をゆっくりと、浮かして、鞘から抜いたよ。そして、柄から僕の手に握らせたよ。それを見ていた人々はざわついたね。

おじさんも何も言わなかったけど、目が険しいね。


僕は大剣を横にすると、光に当てながらゆっくり見たよ。

『おじさん凄いね。よく実戦で使われているね。手入れも、補修も申し分ないよ。それにしても、流石に九代のテッサはいいよね。黒鋼が多く、使われているよ。とても硬いよね。でも、五代のテッサとは微妙に違うよね。』と、剣を見ながら話したよ。

おじさんは驚いた顔だよ。

『坊殿はそこまでわかるのか?五代の剣をも、見た事が、あるのか・・・』と、おじさん。

『うん、ある名人に教えて貰ったからね。その人も黒鋼を使うんだよ。』

『イレーネ、剣を見せて上げて。』と、僕は言って、イレーネを見たよ。

イレーネは無表情で剣を差し出したよ。


おじさんは丁寧に、イレーネの剣を受け取ると、鞘から剣を抜き、刃を見ているよ。

流石に驚いて、イレーネを見て、僕を見たよ。

『すまんが、ある者にも見せてやりたいが、構わないか』と、剣を鞘に仕舞いながら言うよ。

『いいわ。』と、イレーネが言うよ。


おじさんは、側の者に、誰かを呼ぶように言うよ。

僕は、大剣を鞘に戻すと、おじさんに返したよ。

『バラン何だ?』と、荒い声がするよ。

『刀匠、これを見てくれ。』と、イレーネの剣を渡すよ。

その刀匠と呼ばれた男は、赤や青の石の装飾のある鞘や柄を見て、馬鹿にしたように、イレーネの剣を抜くよ。

と、驚いたように、剣の刃を見ているよ。

『この剣は誰のじゃ?』と、剣を振り回そうとするよ。

そして、前にいる僕に向かって、イレーネの剣で僕を威嚇して言うよ。

『小僧、この剣の造り手を知っているだろう。教えろ。』と、目を血走らせて、声を荒らげるよ。

愚かな男だと、僕は思ったよ。


父さん母さんが、イレーネも怒った顔で、何か言おうとするよ。僕は手で止めたね。

僕はその刀匠が持つイレーネの剣を能力で掴んだよ。そして、懐から馬の鞭打を取り出し、刀匠の剣と鞘を握った左右の腕をそれぞれ打ったよ。

男は、驚いて握った両手を離したよ。剣も鞘も地面に落ちず、浮いたまま僕の手元に漂わせたんだ。


僕は、剣と鞘を掴むと、剣を鞘に収めたよ。そして、剣に謝ったよ。

『ごめんなさい。剣を触る資格のない、馬鹿者の手に触らせて。今、正しい持主に返すね。』

そして、イレーネに向かうと頭を下げて、剣を返したよ。

『イレーネ、ごめんなさい。嫌な気分にさせてしまって。もう借りるのは二度としないよ。』と、半べそで、謝ったよ。

『坊、大丈夫よ。坊が、しっかり見てくれていたのは分かっていたから、泣かないで。』と、イレーネが言ってくれたよ。


僕は涙を拭いて、おじさんを睨んだよ。

『おじさん、どういう事?、何故あんな、人の物を大事に扱わない人に、この世に二つと造れない刀を触らせたの?事と次第によっては、僕は許さないよ。僕の言いたい事分かるよね?』

『勿論だ、ご子息。こんな振る舞いをする人とは思わなかったんだ。何せ、私の大剣は刀匠が手入れをして下さっているから・・・』と、苦渋に満ちた顔だね。


『おじさん、僕は子供だから、怒りを、いつもいつも、抑えられるとは限らないからね。特に、僕の大切な物や人を蔑ろにする行動や言動をね。先程だって、手首を切り落すのを止めるのに必死だったんだ。自分の世界でしか生きていなかった人間の傲慢さを許す程、僕は大人でないよ。』と言ったよ。


『父さん母さん、イレーネ。僕は頭を冷やしてくるね。それと、クードフさん、大公領から、兵がー千程、移動して来ているよ。明日の朝、侵攻だよ。』と、言ったよ。

『それは・・・真に・・・』

『夕方、境界だから、夜の侵攻は無いと思うけど、念の為、僕が見ておくよ。兵の用意は出来てる?』

『勿論、今、一千の兵を呼び寄せている・・・』と、クードフさんが応じてくれたよ。


『おい、坊主さっきから訊いているだろう。聞こえんか?』と、刀匠が言うよ。

『バランのおじさん。僕はおじさんは許すけど、その男は駄目だよ。刀匠らしいけど、腕は良くても、一人よがりの物しか打てないよ。テッサの六代目も、使えない剣を打っていたでしょう。それと同じだと思うよ。だから、二度と僕に近づけないでよ。僕は子供だから、悪い大人の影響を受け易いんだ。ただでさえ、口が悪いのに、態度まで悪くなったら、父さん母さんが悲しむからね。始末は付けてよ。』と、おじさんに笑って言ったよ。

僕とクードフさんの遣り取りを聞いて、少し驚いていたおじさんは、慌てて頷いたよ。


父さん母さんとイレーネは僕を心配顔で見ているよ。

『父さん母さん。僕は、もう行くよ。』

『グレン、イレーネを連れて行きなさい。』と母さんが言うよ。

『それと、日が落ちる頃に迎えに来なさい。』

『分かったよ。母さん。』と、僕は、馬を、呼んだよ。


黒の鎧を着けた、黒馬が僕の前に来て、止まるよ。

イレーネが、黒馬に跨がるよ。イレーネは僕の脇から手を入れて、黒馬に乗せてくれるよ。

そして、東の境界に向けて、僕は、馬を走らせたよ。


イレーネが後から、僕の耳に口を近付けて言うよ。

『坊、あの刀匠とか言う男・・・腕は良いの?』

『うん。大剣を治した腕は良かったよ。でもね、テツクさんが言っていたよ。部分を治せても、一人で打てるとは限らないってね。でもテツクさんの知り合い見たいだね。面倒は困るね。』

『面倒起こしそうだけど・・・』

イレーネの息が擽ったいよ。


夕方、僕は、父さんの目立たない馬車で、父さん母さんを向かえに行ったよ。

とても、タ日が綺麗だね。ゆっくりと見たのは初めてだね。斑に漂う紫の雲と相まって、黄金色がとても美しいんだ。少し、紫が濃いけどね。

多くの兵が集まって、テントを張っていたよ。多くのテントが並ぶのは壮観だよ。

日が出る前に、境界に兵を展開すると、クードフさんが言っていたね。


父さん母さんと、目立たない様に、その場所を離れて、境界へ、馬車を向けたね。

『グレンとテントで寝るのは初めてね。』と、母さんが、嬉しそうに言うよ。

僕も、とても嬉しいんだ。


四十六話 完










 




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