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四十五話 ファンタンの地になったよ

僕と父さんは、教会とは縁の無い広場に馬車を出して泊まったよ。さすがにサバの地から出る訳にいかないよね。


サバの各地に、掲示板が設置されたよ。

一、教皇と大司教等が、誓約に違反し、他地域への侵   

  攻、布教を行った。それ故、他地域へ去る事。

一、この地は、今後アスタロトの子孫であるウォータ

  ー・ファンタンの地に帰する事。

一、今後、個人の信仰は構わないが、教会の活動一切        

  禁止される事。個人での信徒としての布教や活動

  も禁止される事。


この誓約を受入た者が、この地での生活が許されるる。

執政官代理メルクス 同 クードフ 同 ブランシュ


と記されていたよ。他にも紫の光のこともね。

           

サバの誓約が発動したよ。街を歩いている人は濃い紫と薄い紫の光に包まれたよ。何故か、メルクスさん、ブランシュさん、そして、クードフさんに光は現れなかったね。


それと、三つの尖塔の教会は、建物の中に有る物も含めて全て消えたよ。まるで、最初から無かったように、更地になっていたよ。サバの人々は畏れ慄いたよ。

誓約を信じず、中に居た人は、放り出されたって。

・・・無事で、良かったね・・・


一日は、教会の跡地に人が集まって、お祈りしていたね。紫の光に包まれていた人々だよね。

でも、人の心は移ろい安いよね。その敷地に柵が作られると、現れる人も居なくなったよ。


教会の偉い人たちは、その前に、荷物を積んだ馬車を連ねて、サバの地を出て行ったよ。サバの地に残った多くの人がそれを見て、罵詈雑言の上に石を投げ付ける者も出たって。でも、騎士団の人たちが制止したよ。

出て行った人々は、多分、カンジナビア大公国に行くのだろうって。パール大司教の商会も、もぬけの殻になっているって、皆が食品の心配をしているよ。


誓約の日から二日たったよ。教会の地は広場として使える様にしたんだよ。僕らは、その広場に移ったよ。でも、まだ僕らと、公的関係のテントだけだね。それでも空いている敷地は十分に広いよ。

寝泊りはウォーターの馬車だよ。快適だね。食事も自炊だけど、問題無いね。


『ねえ、父さん。教会の店舗しか無いこの地の人は、食べ物とか大丈夫なの。』と、朝食を食べながら聞くよ。

『そうなんだよね。商売を独占してたからね。買収したり、嫌がらせして廃業に追い込んだり、遣りたい放題だったらしいからね。よく、サバ殿は何も言わなかったよね。これでは遠からず、破綻しただろうね。』


『今、カルロスのフィーリー商会に頼んでいるけどね・・・母さんなら、どうするんだろうって、考えてはいるんだけどね。』

『うん・・・母さんなら飛んで来そうだね。』と僕は笑ったよ。

『しかし、今回はね・・・』と、父さん、苦笑するよ。


朝食が済んだ頃を見計らって、御三方が来たよ。

体制の話に、僕は用は無いので、サバの街の教会から離れた所を、ふらふらする事にしたよ。


街中用の小ぶりの馬車に乗るよ。

この街には教会の店舗以外は販売の店はないんだね。そして、一本の主要な通りは石畳で、左右に花壇も有って綺麗だけど。それ以外の通りは、土のままだよ。教会の店舗らしき建物も見たけど、商品は何もなくて、棚だけだね。それに、一般の方々の家と変わらず、簡単な造りだね。教会の周りにある建物とは、ずいぶん格差があるんだね。何だか悲しいよ。


街の一角には職人さんの工房が集まっている地区があるんだね。数は多いよ。それも、金細工なんだよね。通常の街に比較すると、とっても多いね。何でかな。


他に見るべきものはないよね。

それだけ見ると、馬車に戻って、寝ることにしたよ。昼には、まだ少し早いからね。


広場の方が騒がしいね。広場に着くと、多くの馬車が居るよ。見知らない家紋だね。

それと、大輪の花弁の多い黄色い花模様の馬車もあるよ。レンティア家の馬車だね。誰が来たのかな。

それと、赤色で金の草模様の馬車も有るよ。ファンタンの馬車だよ。

ファンタンの馬車に人影が見えるよ。

僕は急いでファンタンの馬車に駆け寄るよ。


『母さん。いるの?』と、僕は声を掛けたよ。

『グレン。元気だった?お客様も居るから、挨拶してね。初めての方は、ハロルド家のご当主と、フィーリー商会の会頭よ。』と、母さんが、馬車の扉を開けて、言うよ。

馬車の中には、父さん母さん、スタナ王妃、スフィア王女、それに、ロジャースさんと知らない人が二人居るね。


『こんにちは。それと、初めまして、グレン・ウォーター・ファンタンです。』

知らない方々は会釈を下さるよ。

『坊、相変わらずの活躍じゃな。』と、スタナ王妃が言われたよ。相変わらず、上に束ねた豪華な金の髪が目に付くね。

『僕は、父さんの側に居ただけです。』と、父さんと母さんを見たよ。

父さんと母さんやは苦笑しているね。

『そうか。親孝行な坊だな。』と、スタナ王妃は笑うよ。


大人の話し合いが始まったよ。

サバにおける信徒の扱いと、バール商会の替わりをどうしていくかの話し合いだね。


スタナ王妃とスフィア王女は、サバの指導者と誓約後の街の様子を見て、直ぐに戻って行ったよ。忙しいね。

スタナ王妃は、帰りには寄るようにと、僕に伝言を残して帰ったって。

ハロルド家のご当主も、その後に、帰られたよ。


その間、僕はウォーターの馬車で寝ていたよ。少しでも、成長しないとね。僕の側にはイレーネが来てくれたよ。

イレーネは教会が無くなると聞いて、喜んで、母さんの護衛で来たんだって。

母さんが言うには、ここは、ウォーターの地だから、当面は、ファンタンが仕切るって。その間に商売人を育てるか、ファンタンの関連から呼ぶって言っていたね。


母さんが、一度顔を出した時に、僕は母さんに伝えたよ。この地は金細工の職人が多いから、金銀の鉱脈があるはずだよって、細かく話したよ。


それを聞いた母さん、目の色を変えて、イレーネを連れて、飛んで行ったよ。

入れ違いの父さんは驚いているよ。

『母さんは慌てていたけど、どうしたんだい?』

『うん、この街には、金細工の職人が多いから、金鉱か銀鉱があると思うよって言ったんだ、。そしたら、慌てて出て言ったよ。』

『あはは・・・グレンは凄いね。よく気が付くね。』と、父さんは言うよ。

『父さん、もしその場所がスカンジナビアに近いとしたら、正規軍としては来ないけど、盗賊に扮して占拠しにくるかもしれないよ。若しくは、もう兵を入れている可能性だって有るよね。』と、僕は父さんを見たよ。

父さんはため息を吐くと、

『そうだね。では、父さんも行ってくるよ。』と、苦笑いしながら馬車を出て行ったよ。

僕は、一眠りするつもりだよ。


ーーーーーー グレース ーーーーーー

『イレーネ、お願い。』

『はい、グレース様。どちらへ?』

『グレンが、金鉱が有る筈だって。金細工の職人が多いと言うんだよ。だから、探しに行こうと思ってね。』と、イレーネに笑って見せた。

イレーネも笑って頷く。


『金鉱が有るなんてね。パール商会の強みの一つだったのね。しかし、見事に隠して有るのね。いずれ分かるとしても早い事に越した事はないわね。グレンの言う事に間違いはないでしょうから。』と、イレーネに言ったわ。


『私々だけでは、すんなりと話は進まないでしょうから、誰か頼みましょう。』と、イレーネが難しい顔をする。

『そうね・・・まだまだ、ファンタンの名前ではね

・・・。騎士団の方は忙しいでしょうから、ブランシュ殿に頼んでみましょう。まず、政務のテントに遣って。』と、グレンが出していた、御者を入れて、四人乗りの小さな馬車に乗った。


『この馬車は小回りが効いていいわね。グレンの考える物は便利ね。』

『坊は、自分の能力を使わないで済むように、考えていますから、色々浮かぶのでしょう。』


広場の一角に急拵えのテントが、幾つも並んでいる。新しくサバの地を管理するための役所として使っている。話し合いで、執政官代理をメルクス殿が行い、治安維持にクードフ殿が当たる事になった。そして、ブランシュ殿が裏で、諸々の補佐を行う事になっている。


その一つのテントに向かった。

そのテントの前で、馬車を降りた私を、人々の案内をしている若い方が私を見た。急いでテントの中に入って行く。随分と気の利く方だ。

テントの中より、ブランシュ殿と出て来る。私は感謝を込めて礼をする。彼も会釈を返してくれた。


ブランシュ殿も、連れに来た若い方に手を振ると、馬車の傍らに来て、

『これはご夫人。何か有りましたかな。』とブランシュ殿が笑顔でいわれた。

『狭いですが、馬車でお話を。』と、馬車に乗り込んだ。

『ほっ、随分と小さな馬車ですな。』と、ブランシュ殿が見回す。

『ええ、グレンが考えたのよ。街の中では丁度良いわ。』

『確かに・・・』


『グレース様、セルロイ様の姿がみえますが・・・』と、イレーネの声だ。

『そう、ではそちらに馬車を向かわせて。』

『はい。』


セルロイが馬車に乗り込んで来た。

『グレンに話を聞いて、慌てて来たよ。』と、セルロイが笑う。

少し、性急だったかしら。


で、ブランシュ殿に話しかける。

『実は、グレンが金鉱か銀鉱があるはず、と言うのですが、ご存知ですか?』

ブランシュ殿が難しい顔になる。

『二年程前に、金鉱が見つかったと、噂にはなりました。ただ、直ぐに、その噂話は消えたので、私ら三人も、有るとも無いとも言えないのです。』


『スカンジナビアとの近くに、教会地で閉鎖されている地はありましたよね。』と、セルロイが言う。

閉鎖されている地?なんだろう・・・

『はい、サリアの地と呼ばれ、教皇の墓地にすると言われている場所がありますね。作業中で管理人がいますよ。』

『そちらに行ってみましょう』と、セルロイが言うよ。

セルロイの顔が厳しいわね。グレンに何か言われたのね。


『しかし、職人が居るからと云って、金鉱があると言うのは、少し考えすぎなのでは?』と、ブランシュ殿が言うわ。

『グレンは、あちらこちらの街で、職人を探して居るんですよ。それも腕の良い職人を。で、金鉱のある街では、職人がどれ位、無い街ではどれ位と、適正を知って居るんですよ。それから考え、この街の人数は金鉱一つでも十分に多い数の職人がいるようだ、と申しておりました。』

『は、なるほど・・・・では、そちらに。』とブランシュ殿が言われた。


『念の為、騎士団も連れて行かれるとよろしいかと。グレンが気にしておりましてね。』と、セルロイ。

『グレンがそんな事まで・・・』と、私。

セルロイが私に頷く。

『では、クードフにも話を致しましょう。』

イレーネが、急いで、政務館替わりのテントへ馬車を戻す。


私とセルロイ、そしてブランシュ殿がテントに入る。

クードフ殿は、丁度テントに戻って来ていた。ブランシュ殿が詳細を話す。

クードフ殿は、セルロイと私を見ると頷かれ、部下に指示を出さる。

我々は、騎士団の大型の馬車に乗り換え、百名の騎士団と、サリアの地へ向かう。


『クードフ。何も言わず騎士団を出すのは珍しいな。』と、ブランシュ殿が訊かれる。

『俺は、アーチンソンの地でご子息と戦った。あの時のご子息の戦いは、アーチンソンの姫を助ける処から始まって、我々を死なさずに終らせた。それを見て、感じいった。上に立つ俺も見なわなければと・・・。で、もし、そのご両親であるファンタンご夫妻の要請であれば、我らサバの民を悪いようにはしないたろうと、だから兎に角、兵を出そうと心に決めた。出す以上は、四の五の言わずにな。』と、私達を見て照れられた。

ブランシュ殿は微笑まれている。

グレンは随分信頼されている、と思った。我が子ながら出来が良すぎるのではとも感じたが・・・


『それと、騎士団は止してくれ。これからは衛士隊とでも呼んでくれ。』

『衛士隊か・・・そうだな・・・』

馬車は、東にカンジナビアの境界へ向かう。

セルロイは頻りに、カンジナビアの方角を気にしているわね


反り立った崖壁が見えて来た。

崖壁の手前に、木の丸太を地面に刺して、綱を張った柵が見える。その中に、三棟の木造の建物が有る。そして、その柵を巡回している二人の警備の者が居るのが、見える。クードフ殿は馬車を有る程度の距離で止め、連れて来た衛士をその柵の入口に展開させる。

巡回の男が、もう一人を見て頷く。すると、一人が慌てて建物にむかう。


大きな金の音が鳴る。二度、三度、四度。

建物より人々が、剣を携え、出てくる。二十人程が入り口を挟んで展開する。十分に訓練されているようだ。


クードフ殿、ブランシュ殿そしてセルロイ、その後ろに私が入口の柵の前に立つ。イレーネも私の横にいる。

『ここの責任者は誰だ?』と、威圧する大きな声を発した。


『ここの責任者は俺だ。バランと言う。パール商会に雇われている。何か用か?』と、クードフ殿と変わらぬ大きな体格の男が現れ、答える。

気負うことも無いのは自身の現れか・・・

実用的なしっかりした半身の鋼の鎧に、厚めの革のズボンに長めの靴。剣も高価と思われるしっかりした造りの大剣を携えている。

雇い人としてはなかなかだ・・・争うのは避けたい処だ。クードフ殿もセルロイもそう思っているだろう。


『雇われ・・・?信徒は居ないのか?』

『ああ、鉱夫五十人、警備二十人。皆、外の者だ。』


『そうか・・・。三日前は、ここはサバの地であった。今は、ウォーター・ファンタンの地に替った。知らないわけはないだろう。』と、クードフ殿が言われた。

『ああ、聞いている。その上での契約だ。明日まで、ここを保持する契約だ。その間に、大公家からの兵がここを占拠する手筈だ。だから、明日迄は、ここに居させて貰う。』と、にやりと男が笑う。


『良いのか?そんな大事な事を言って・・・』とクードフ殿が、不信な顔で言われる。

『ああ、契約に秘匿条項はないからな。それに、パール商会は、ここの処、本気のファンタン商会に遣られっぱなしだろう・・・大公家が、ここを占拠出来るとは思えないしな・・・何せ、ファンタン家相手だからな。それに、ファンタンの御曹司は、神殺しの魔獣を使う、と聞いたしな。』と、男は言うよ。

更に、

『だから、明日までここに居させてくれれば助かるが・・・俺等は争いたくはない。しかし、契約は守らんと、これからの信用に関わるからな。大公家の兵が来たら勝手に遣ってくれ、俺らは此処からは出んから。』と、男は笑っているわ。


クードフ殿が、セルロイを見て私を見る。セルロイも私を見た。仕方がない・・・

『私は、グレース・ウォーター・ファンタンよ。』と、前に出て話したわ。

『ほう、ファンタンの総帥も居られたか・・・』と男が言うよ。

『いいわ。明日迄は、何もしないわ。その代わり、何物も持ち出さ無い事。これは、サバの民の財産だから。いいこと?』

『・・・ああ、それは約束する。』

『で、その後はどうするの?』

『まだ決めてはいないが・・・』と、男は頭を搔いている。


『なら、このまま働いてよ。ファンタンで雇うわ。パール商会より払えると思うわよ。』

『もし、そうして貰えるなら有り難い。ファンタンは気前がいいので有名だから。皆も喜ぶと思う。』と男は嬉しそうに言う。

『ファンタンは気前がいい訳じゃないわ。適正なのよ。そして、皆が利益を得る。それを大事にしているだけよ。だから、誰からも恨まれず、長く続いているのよ。』と私は言って置いたわ。


『バラン殿、あなた程の腕なら、ここでは、直ぐに飽きるでしょ。ファンタンなら飽きる事は無いわ。ここが落ち着いたら、他に行って貰うわ。よろしくね。』と、微笑んだわ。

『それは、助かる。そろそろ飽いて来たところだ。』

と、バラン殿も笑っている。

で、セルロイを見たら、セルロイは苦笑していたわね。


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