表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/48

四十話 トーラン砦だよ

兵が、砦の入口で待機しているよ。黒に銀の縁取りの襟詰めの揃った服装だね。その先頭には、大柄な女性の長の方が立っているよ。一人だけ上着の丈が長いね。上着の前を開けて、大剣を体の前に、杖代わりに立って居られるよ。薄い紫の長い髪を、片方だけ金の飾りで留めて後に流しているよ。迫力あるね。

イレーネより怖そうだね。


少し距離を取って、馬車を停めたよ。チェルピンさんも横に止めて、下りたよ。イレーネが馬車から下りて、兵の長の前に行くよ。僕は馬車を下りたけど、扉の脇にいるよ。


『グレン・ウォーター・ファンタンの一行です。広場をお借りしたいが、入れて頂く事は出来ますか?』と、イレーネが、丁寧に聞いているよ。

『私は、トーラン砦の隊長を申し付けられているベッツィーと申す。グレン殿に挨拶を申し上げたいが・・・』と言われるよ。


イレーネが僕を見るよ。僕は頷き、歩き始めるよ。やはりよちよちだね。

と、それを見た、チェルピンさんが、慌てて、僕の腕を掴んで、支えてくれるよ。

『坊、どうした?使い過ぎだろう・・・』と、小声で言われるよ。

『あはは、知っているんだ。』と返したよ。


それを見ている兵の方々は不思議そうに見ているね。

でも、隊長の方は、少し、眉を顰められたよ。

少し、時間は掛かったけど、隊長の前に着いたよ。


『グレン・ウォーター・ファンタンです。ご挨拶申し上げます。』と言ってから、顔を見たよ。

ベッツィー隊長は僕の顔をぼっーと見ているよ。

どうしたのかな。僕はにっこりしたよ。

『あっ、私がベッツィーだ。宜しく頼む。』


あの二人に似ているね。

『ベンツ様のご縁者の方ですね。』と、言ってみたよ。

『ほー、流石、殿下が、あれは我よと言われた方だな。寄って頂いて、光栄だ。あまりに若く驚いた。済まぬ。入られよ。』と言われたよ。


そしてベッツィー殿は、

『失礼する。』と、言われ。僕を、右手のみで、軽々と抱きあげられたよ。

大きな胸が当たるよ。

そして、耳元で言われたよ。

『グレン殿、歩るけぬ程に、使われては良く無いだろう。気を付けられよ。』と。

皆に注意されるね。

僕の馬車まで歩くと、抱いたまま馬車に乗って来られたよ。そして、座台に下ろしてくれたね。

『ご一緒して良いか。』と言われたよ。

『なかなかに乗り心地が良い。』と、微笑んでおられたよ。


そのまま、馬車に乗って、広場に案内してくれたね。

それから、話がしたいと広場で茶の用意までしてくれたよ。勿論、山岳の民の方々の分もね。


ベッツィー様はベンツ殿の年の離れた妹なんだって。殿下とは、幼なじみでとても仲良しだったと話してくれたよ。

で、乳母様から至急の文が来て、謁見式の仔細と、グレン殿は、そちらを通ると思うから、会って礼を言うように、と書かれていたって。


だから、昔からの民族の因縁はともかく、こちらへ寄ってくれたチェルピンさんには感謝しているって。


帝国の心ある者々がどれだけ心を痛めていて、執事を恨んでいたか分からない、と言われたよ。誰が何を言っても、結局執事の言う通りになるんだって。しかも、乳母様が遠ざけられているのではどうしようもないと、もう諦めていたって。だから、今回、乳母様が戻られ、殿下自ら執事の処置をされ、執事と関連ある者の調査をされ始めている事はどれだけ安堵したかと言われたよ。それで、ファンタンのご子息に皆、感謝しているって。


その切っ掛けが、僕の好き勝手な話だとは驚いたよ。

それと、執事殿も罰せられていたとはね。

それが理由か判らないが、ファンタンの息子は教会より、神に逆らう者の宣告がされたって。だから、教会の地には行かない事、信徒たちには気を付けるようにと言われたよ。


『イレーネ。神に逆らう者、としたら、どうしたら良いの?』と聞いたよ。

『坊。教会に討たれず、長生きする事です。』と、悲しそうに言うよ。

・・・ええー・・・

僕は、回りを見たよ。

皆も、ただ、頷くだけだったよ。

父さん母さんの悲しむ顔が浮かんだよ。


アーチンソンに行くか、少し迷ったよ。だって僕は、神に逆らう者だよ。

僕は、イレーネに、神に逆らう者って具体的に何って、聞いたよ。


イレーネが言うには、正教会の教皇が指定する者で、全ての信徒は関わってはいけない者、この世にあってはいけない者として指定するんだって。

だから、本来、どうって事は無いけど、たまに、狂信者が討ちに来るぐらいだって。

・・・たまにって、どれくらい・・・


アーチンソンで討たれる訳にはいかないからね。でも、アーチンソンには、神は居ないから、そういう意味では、大丈夫なんだって。

・・・そういう意味以外では、大丈夫じゃないんだね・・・


ベッツィーさんが、広場で、夕食代わりの歓迎会を催してくれたよ。

ベッツィーさんは、戴冠式に出て頂けなかったのは残念だが、見た目の幼さで驚き、乳母様の書かれていた事がぴんと来なかったが、こうして話をさせて頂くと、乳母様の言わんとされた事が良く分かるし、殿下をの幼き頃が思い出されて、涙が出ると言われたよ。今度の事は本当に嬉しく、感謝する、乳母様の代わりと私と、この恩は必ず返すとも言われたよ。

・・・父さん、拝まれたり、泣きながら感謝されるのって、重いんだね・・・


で、感謝もお返しもいらないから、風呂に入りたいと言ったよ。ここ、暫くご無沙汰だからね。

『坊は、五歳であろう一人で入れるのかな?』とベッツィー隊長に聞かれたよ。

『母さんか、イレーネか、イレーネは乳母なのですが、必ずどちらかと一緒です。』

『では、私も一緒に入ろう。』と、ベッツィーさんが言われたよ。

『うん、それで、私への感謝もお返しも流して貰えば助かります。それに、山岳の人も一緒にお願いしたいです。先祖の恨みや蟠りも少しでも、流れればいいんだけどね』と言って笑ったよ。

皆は、苦笑していたけどね。


ベッツィーさんが兵士の大浴場を貸してくれたよ。とても大きいね。

女性の方々と風呂に入れて良かったよ。裸の付き合いは大切だよね。

ベッツィーさんは、僕の体を洗いながら、少し、休養してからにしてはどうだと言われたよ。

でも、チェルピンさんと同行した方が良い気がしたんだ。

だから、明日の朝に出発する事にしたよ。ベッツィーさんには帰りに寄るから、その時はよろしくねって言ったよ。


一緒にいた山岳の家族はビゼーって言うんだって。チェルピンさん共々、ベッツィーさんから、トーラン砦の通過、買物の許可、それから商売出来るならしてもいいって言われてたよ。

・・・ベッツィーさん、ありがとう。少しでも仲良くなれれば良いね・・・


朝だよ。

朝食を終えて出発だよ。

ベッツィーさんと他の兵の方々が見守ってくれているよ。砦を出て、道なき平坦な所を馬車で進むよ。砦を少し下って、それから、なだらかな丘陵地を右に曲り山の裾野を進み、山腹を、つづら折りのように上がるよ。


山の中腹だね。そこを左に行くと直ぐに、ビゼーさん達の住居地だって、右に上がっていくと、アーチンソンの地に向かうんだ。

僕らもビゼーさん達の住居地に向かったよ。


ビゼーさん達の家だね。木造のしっかりした家だね。古いけど、手入が行き届いているね。

畑が、斜面に段差では作られているよ。とても綺麗だね。


ビゼーのご当主が言われたよ。近くに、同族の住む家はないって。山の反対側には、有るかも知れないけど、付き合いは無いって。皆、帝国には行かないから、東のシン王国か、二十家の地に移ったんだろうって。そんな話を聞いて、五歳の僕でも、少し、哀しかったよ。


チェルピンさんは、馬車と馬一頭はここに残して行くんだって、それで、もう一頭に乗って移動すると言ったよ。

『坊はどうする?その馬車では通れないぞ。』

『そうなんだ。では、僕も一頭で行く事にするよ。イレーネ、前に乗せてね。』

『分かったわ。』


チェルピンさんは支度が終ったみたいだね。

僕とイレーネの支度は直ぐに終ったよ。何せ、片付けるだけだからね。


僕らが跨がる馬は、白銀の鎧の白の馬だね。イレーネと二人乗りだよ。チェルピンさんは何か言いたげたけど、止めたみたいだね。

チェルピンさんも背に背負う小さな布鞄ーつだね。馬の負担を、少しでも軽くする為なんだって。

今、昼過ぎに出て、到着は明日の昼だって。


急ではない山道を上っていくよ。確かに、この上りで馬車を曳くのは無理だよね。つづら折りで、山を上っていくよ。


日が暮れかけた頃、道の脇に山小屋があるよ。

チェルピンさんに、中間地点で、ここで休むと言われたよ。休憩は大事だね。能力を使い続けているからね。


四十話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ