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三十六話 ペルセラに着いたよ

朝だよ。

テントもいいよね。土の涼しさが伝わって来たよ。だから、イレーネにくっついて寝たよ。とても気持ちよく寝れたよ。


遠くが騒がしいね。平原だと、音が伝わるね。テントを仕舞ったよ。イレーネと手を繋いで、気付かれ無いところまで飛んだよ。そして馬車に向かって歩いたよ。馬車の中でファイゼル様の声が聞こえるよ。

『何故こうなる?ベンツ。グレン殿達はどこだ?』と、ファイゼル様が怒っておられるね。

『申し訳有りませぬ。』とベンツ殿の声が小さいね。


『どうかされましたか?』と、僕は大きな声で、呼びかけるよ。

何せ、馬車を皆が取り巻いていて、馬車に行けないからね。

僕の声で皆が振り向くよ。そして、僕を見て、驚くと、馬車まで通れるように、空けてくれたよ。


僕は、馬車に近付いて、中を見るよ。馬車の椅子に寝ている筈なのに、僕の人形の首が床に転がっているよ。他には被害はないかな。メアリーは無事に見えるよ。

そして、ファイゼル様遠くベンツ殿の驚いた顔が安堵に変わるのが見えたよ。


『うわー、僕の首が離れているよ。イレーネ、メアリーはどお?誰?こんな事したの?僕は怒るよ。』と、人形の首を抱えて、大袈裟に騒いだよ。

こっそり切り口を見るよ。大剣だね。腕はそこそこだよね。この程度の腕で暗殺とはね。

思わず笑ってしまったよ。

『クックックッ。』

泣き声に聞こえると助かるよ。

イレーネは急いでメアリーを調べているよ。

『鎧が、胸の一か所がへこんでおりますが、他は無事なようです。』


『グレン殿、これは、どういうことか説明して貰えるかな。』と、ファイゼル様が訝しげに言われるよ。

『ファイゼル様。僕にこれを説明しろと?僕は自分の大事な人形の首を切ったり致しませんよ。人形の手入れをしていて疲れたので、そのままにして、向こうでテントを張って寝ていたのです。何せテントで寝た事がなかったので、寝てみたかったのです。でも、人形だからといって許されませんよ。悪戯にしても、誰がこんな事をしたのかしっかり調べていただかないと。これ、直すの大変なんですよ。』と怒って見せたよ。

皆はただ静かに見ているよ。


『そうか・・・それは済まなかった。後で考えよう。先に食事はどうだろうか?』と、ファイゼル様が、とても安堵した顔で言われたよ。


馬車は帝国の都ペルセラへ向かっているよ。馬車の中は三人だよ。

『坊、あれで良いの?』

『うん、人形が壊れたで、いいんだよ。ファイゼル様の面子を潰す訳に行かないよね。乳母様、箝口令は布いてありますよね。』

『はい、それは、ベンツ殿がしっかりと。』

『ならいいんです。執事殿がいないから、問題が起きたと、執事殿に騒がれると困りますからね。』と僕は、乳母殿に向かって微笑んだよ。

『坊は、暗殺者が来るって分かっていたの?』と、イレーネが怖い顔をしているよ。

『イレーネ、顔が怖いよ。乳母はいつも優しくないと・・・』

『いえ、時には厳しさも必要です。』と、乳母様も厳しい顔で言われたよ。

・・・うーん、イレーネと仲良くなられるのは・・・


『執事殿が来ていないよね。だから、暗殺しに来るかな、とは思ったよ。そしたら本当に来るとはね。・・・馬鹿だよね。暗殺が失敗するとは思はなかったのかな。で、責任問題を近衛の長におし付けて、今の近衛の長を取り除くつもりだったのが一つと、二つ目は、執事殿の言う事を気かないとこうなると、皇太子様の意識に植え付けるのが目的だよね。もう一つあるけど、これは内緒だよ。

・・・僕にとっては、執事殿がいなかったのは良かったよ。だって乳母様と知り会えたからね。クックックッ。』

と、楽しげに笑ったよ。


『坊、セルロイ様とグレース様に、暗殺されそうになったと、話さないとね。』と、イレーネが言うよ。

『えっ、そうなの・・・』ちょっと慌てたよ。

母さんの恐い顔が浮かんだよ。

『全て、隠さず話す約束なの。』と、イレーネが嬉しそうに笑ったよ。

イレーネも、楽しそうに笑うんだね、僕を弄った時には。


『そう・・・じゃ、次の僕の暗殺場所は、多分は宮殿だよ。戴冠式の前迄だね。気をつけてね、イレーネ。伝えたよ。』と、言ったよ。

イレーネも乳母様も驚いているよ。


―――――― ベンツ ―――-

『ベンツ。乗れ。』とファイゼル様に言われた。怒りがあるな。

『はっ。』

『ベンツ、内にいるのか?』

『内とは、思われませぬ。ただ、尾けられていたかと。』

『そうか・・・しかし朝迄気付かぬとはな。』

『・・・』

くそ、予想しておれば・・・


『また、坊に借りが出来た。しかし、あの坊は、何故、自信満々なのだ、畏れはないのか・・・』と、口惜しそうに言われる。

『ファイゼル様も昔は同じでございましたが。』と、ファイゼル様をじっと見る。

『そうか、そうだな・・・いつから変わったのだ・・・俺は・・・』

本当に、どうなされた、この不安気な物言いは。

『乳母殿がお辞めになられてからかと・・・』と、情けなさを込めて言う。

『何故乳母は辞めたのだ。乳母が居てくれたらと何度思った事か・・・』と。

『はっ?乳母殿は、辞めさせられたと、申されておりました。』

『何・・・』と、ファイゼル様の顔が変わる。

しまった。せっかく薄くなっていると思ったのに・・・目が、目がまた充血して、赤くなってしまった・・・

――――――――――――


草原を馬車と衛兵隊は移動して行くよ。ペルセラへ直行と行っていたよ。あれから、ファイゼル様は来ないね。昼食にも顔を出されなかったよ。昼食後に、ベンツ殿が乳母様と話をされていたよ。深刻そうだね。


『グレン様、少しよろしいかしら?』と、乳母様が、馬車の中で言われたよ。

馬車の中で、よろしいも何も無いでしょう、と軽口を叩こうと思ったけど、止めたよ。お顔がとても深刻そうだよ。でもね、顔は笑っていないと、良い案が浮かばないよ。


『乳母様、笑って下さいませ。せめて普通のお顔をされて下さい。私に申される事が、誰にとって良く無い事と思われているかは分かりませぬが、そんな顔をされていては良い事はありませぬ。大丈夫です。意外と大した事でないのが多うございますよ。では、お聞きしますね。』と、僕は微笑んで言ったよ。


乳母様は、少し微笑んでから、話し出されたよ。

ファイゼル様とベンツ殿の会話を。そして、赤い目の赤さが増された事を。

その事で僕は伝えたよ。

『スタナ様もササビーの赤い目と言われて、大変に気になされているのは間違いは有りません。しかし、ササビーの方々はどう思われておられるのでしょう。』


『はっきり申し上げれば、ササビーの殆どの者は、気にしておりません。赤い目についても知らないと思います。』と、乳母様は言われたよ。

『そうですか・・・まあ、それ程お気に為さらず、赤さは増したり、薄くなったり変わりながら、元に戻るものですから。』

では、特に赤い目の事は話す必要もないか・・・

乳母様は僕の様子を見て、特に、気にする必要がないと思ってくれたみたいだね。安心されたお顔をして、イレーネと話されているよ。

僕は、頑張って眠る事にしたよ。


ペルセラに着いたよ。夕刻だね。二日かかったよ。移動の間、色々、歓待して貰ったよ。ファイゼル様は現れなかったけどね。乳母様は恐縮していたけど、肩が凝らなくて良かったよ。僕の目的は執事だからね。本番には、ファイゼル様と執事殿とが一緒に居て頂かないとね。観客も、多い方が良いね。


到着までに、僕は、ササビー家の気になっていた事を、乳母様に質問したよ。まず、ファイゼル様の両親の事故の事だよね。先々代の皇帝ご夫妻の事故は、先代の近衛の長がその現場に一緒にいたたんだって。間違いなく事故だって、断言したんだけど、その長が、事故でなくなった事が不自然なんだって。それと混同されているのではって、乳母様は言われたよ。

次に、先代の一家の宴の事はよくわからないって、でも、料理長が辞めさせられたって。ただ、先代皇帝は皇帝には成りたく無かったんだって、だからファイゼル様を皇太子にして、十八で譲るのは決めていたって。それは皆が知っている事で確定もしている事だったって。それから執事殿の金の評判はとてもよろしくなく、色々な所から金を集めているって噂がある、とかね。


帝国の都だけあって広さが分からない程広いよ。勿論、道は石畳みだし、石造りの建物が並ぶよ。でも、緑は少ないね。宮殿は盛り土をして建ててあるんだね。階段が多いんだ。でも、平屋なんだよ。皇帝の間迄大変だね。僕とイレーネは皇帝の親族の部屋を当てがわれたよ。乳母様は、家族の部屋だね。それぞれ警備に近衛が配置されたよ。


朝だよ。はっきり言って、よく眠れなかったよ。馬車で寝る子供だよ。寝台はふかふか過ぎるよね。イレーネもだって。夕食も朝食もとなりの広間で摂ったよ。豪華だけど、イレーネと二人では広過ぎて落ち着かないね。


乳母様は、ファイゼル様と一緒に食事だって。良かったね。


三十六話 完







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