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三十四話 襲われたよ

朝だよ。朝食が終わって、出発だよ。

案内された馬車に、スタナ様が居るよ。少し驚いたよ。

ノーベルスタイン殿は不機嫌だね。王女様が戻られたのに王妃様が離れては良くない、私が付き添って行くからと言ってるよ。

でも、スタナ様は、スフィアの希望でもあるし、妾も東の国境を久々に見たいと、頑として、譲らなかったよ。


レスタスを発ったよ。王妃様の馬車だよ。多くの花びらが重なった黄色の花の紋だね。乗り心地がいいねって言ったよ。そしたら、ファンタン家の造り場で作らせたって。

・・・何も言えなかったよ。スタナ様は笑っていたけどね。


レンティア王国が東に長いのは、東への街道を確保する為なんだって。これからは大型船も寄る事になれば、南へ行くのにも早くなるから、助かるとも言っていたよ。


スタナ様は、ファンタンの大型船はケイロスの虎の子だったって笑っていたよ。誰が盗んできたのか知りたいって。

しかし、虎の子だった筈が、ファンタンでは、簡単に、二隻もつくって、多くの領家が驚いているって。更に作って、次は貸し出すと聞いたって。一隻はレンティアが借りる約束なんだって。

母さんは凄いよね。


夕方に東の街、レイメに着いたよ。ここも、川の畔の町なんだね。川を使ってレスタスと物資の遣り取りを行っているんだって。ここにも、スタナ様の屋敷があるよ。やはり、煉瓦造りの塔だね。小ぶりだけど、白くて美しいよ。

・・・シンデレラズの城だ・・・

頭に浮かんだけど、良く分からないね。


日が変わったよ。

朝だよ、城から見る、四角に区切られた緑の水田は美しいね。

でも、数多くの衛士のテントが見えるよ。何故かな。


出発の支度だね。

僕は、イレーネに言ったよ。

『僕は、テツクさんにつくって貰った半身の軽装鎧を、襟付きのチョッキの内に着るよ。それと、シノさんの肩から手首までの革の腕当てもね。だから、イレーネも、これを着るんだよ。』と、メアリー用の白に薄桃色の花柄を配った、舞踏会用衣装だよ。

首回りと手首もしっかりあるね

『やはり、これを着ないといけないの?』と、渋い顔だ。

本当はね、メアリー用の舞踏会衣裳が、イレーネにぴったりと知ったんだ。だから、自然に動く所が見たいんだよ。


『うん、皇太子がお好きなようだしね。とても似合っていると思うよ。それに、毒針対策だからね。もし、王国領内で、怪我でもしたら、困ったことになるからね。一番の問題は、僕が、好きに出掛けられなくなる事だよ。』

イレーネは、物凄く文句を言いたそうだけど、僕は気付かない振りをしたよ。


馬車には、スタナ様が座っていたよ。

『ほう。イレーネはメアリー仕様か、皇太子用じゃな。』と言われたよ。

それでイレーネの機嫌も、すこし直ったよ。

イレーネは、僕の言葉を疑っていたんだね。

僕は悲しいよ、イレーネ。


城を出たよ。

昼過ぎに国境に着くから、寝ていればいいよって言われたよ。でもね、動いている馬車で寝るのは大変だよね。軽装と言っても、鎧を着けているしね。


暫く走ったよ。ラスの村だって。田園の中だね。村の中を抜けていくんだね・・・

人が街角の左右に集まっているよ。どうしたのかな。馬車を止めるよ。衛士の方が様子を確認しているね。

怪我人が居るのだけど、熱が出て、傷口が緑なんだって。

王妃の馬車に気が付いて、村の人が治療して貰う為に、慌てて出て来たんだね。


馬車の回りと、村の出入り口を、衛士の方々が固めているよ。更に、三人一組で巡回を始めたよ。

王国ともなれば流石だね。衛士長の方は優秀なんだね。


衛士長が王妃に治療の許可を貰いに来たよ。で、治療に当たる事になったね。ただ、その人は家で発症して、理由が不明なんだって。

『坊、済まんが少し停まる。』と、スタナ様が詫びられたよ。

『勿論、大丈夫ですよ。』と応えたよ。


また、バンチュウラかな、外に出ると狙われるよね。

外に出たいけど。

『坊。馬車から降りるか?外は美しいぞ。』とスタナ様が言われるよ。

『スタナ様。私が姿を見せると、騒ぎが大きくなりそうなので、止めておきます。スタナ様もご用心を。』と言ったよ。

スタナ様の顔色が変わったよ。

『何故、そう思う?』

『村民の傷口は緑と聞きお呼び致しました。それは、もしかしたらバンチュウラの棘の毒ではないかと。バンチュウラであれば、この辺りで自生はなく、植物使いによるものかと。』と話したよ。

『それは、ベルンの砦と同様という事か?』

『はい。』

『誰かある?』と、呼ばれたよ。


スタナ様、様子を詳しく訊かれ、対処が出来るかも尋ねられていたよ。

『坊の言う通りじゃ・・・幸い、医療班もおった所以、治療は済んだ。今、不信者を探しておる。』

『もう去ったかも知れませんね。』と僕は言ったよ。

『確かに、そうじゃな。対処されたら、意味がないからの。』


『用意出来次第出発じゃ。』と、スタナ様がお付きの方に言われるよ。

村を出る時に、村の人たちが出てきて感謝されていたよ。スタナ様は、窓から顔を出され声を掛けておられたね。スタナ様は怖くないのかな。

『この程度で怯んでおったら王妃など辞めたほうがよいわ。』と言っていたね。

為政者は大変なんだと思ったよ。


『坊は、毒にも詳しいの?だから、これを着せたのね。』と、イレーネが言うよ。

『母さんから貰った難しい書物に書いてあるからね。それを全て読む為に、古代表意文字も学んだんだ。』


馬車は進んでいくよ。レンティア王国領の狭い所に入ったね。北はエレゲン、南はハロルドだね。この辺りは平地と灌木だね。

と、先行の方々が戻って来たよ。スタナ様に報告しているよ。


『坊。この先、我が領地は遮断されておるようじゃ。ぬかったわ。』顔が怒っているね。

スタナ様、とても怖いよ。

『直ぐには、処置出来ん、相当な量らしい。で、共有地に入る事になる・・・』と僕を見るよ。

『やっと、具体的な相手の正体が判るのは、良い事ですよね。楽しみです。』と、にこりと返したよ。


『坊は、何事にも自信たっぷりじゃな。』とスタナ様に呆れられたよ。

『スタナ様。僕は五歳ですよ。子供にひどい事はしないと思うんです。だから、お手出しは無用に願いますよ。色々、問題もありましょうし。クックックッ』と、楽しそうに笑ったよ。

スタナ様は、じっと僕を見た後、何か考えられているよ。


『坊、私一人で大丈夫かしら?』とイレーネが訊くよ。

『イレーネ。大丈夫だよ、直ぐにキンバリーとメアリーを呼ぶからね。』と、微笑んだよ。

スタナ様が不信の目で僕を見ているよ。


その間にも、レンティア領内を、ササビー帝国に向かって馬車は進むよ。

目の前に、街道が、大量の土砂、木々で塞がれているのが現れるよ。

・・・退かせない事は無いけど、無理は良くないよね。・・・


『坊、共有地を通るぞ。』

スタナ様が指示を出すよ。

馬車は遮蔽物を右に避けて、整地されていない土地に入るよ。馬は大変そうだね。なかなか進めないね。左側の少し先には灌木が続いているよ。何か潜んでいそうだね。


『イレーネ、馬車から降りるよ。』

『スタナ様、ここまで、有難う御座いました。ここで失礼致しますね。』と、僕は言うと、礼をして降りたよ。イレーネも続くよ。

スタナ様は何か言いたそうだったけど、何も言わず、頷き、手を上げたね。


『イレーネ、歩けるかい。』

『坊、歩くのは大丈夫よ。』

『うん、では、あの先までがんばろう。』

僕は、イレーネと手を繋いで歩いたよ。


あと少しで、レンティアの街道に戻れる所まで来たよ。

『おい、坊主、何処行くつもりだ。これ以上は行かせないよ。』と左側から、女の人の声がするね。

でも、僕は歩くのも大変だし、面倒なので、相手にせずに歩いたよ。


と、僕達二人を遮るように、僕らの前に移動してくるよ。その皆が同じ様に、黒の鎧、その上に着る、黒の袖なしで上からかぶる布の衣装、昔の正教会騎士団の装いかな。前に赤で神奉の剣の模様だね。二十五人程いるよ。


『おい、聞こえなかったか。これより先には行かせんぞ。』と、先頭のお姉さん、剣を構えるよ。抜き身だね。

神奉の剣だね。

『へえ、千年の前のままなんだね。でも、正体がばれてしまっていいのかな。僕の父さんのご先祖様はアスタロトだよ。約束破ってるけど、いいの?クックックッ』と、笑って聞いたよ。


『口の減らない坊主だ。親と二度と会えないからいいんだよ。』と、先頭の三人の姉さんの一人が言って笑うよ。

『イレーネ、あんた、不思議な格好してるね。正教会から逃げて可笑しくなったかい。』と、もう一人の女の人が言うよ。

イレーネは睨んでいるけど、何も言わないね。

『ひどい事言うよね。自分たちだって烏みたいなのにね。イレーネ、脱いで投げておくれ。仕舞うから。』と、僕は言うよ。

イレーネは、三人から目を離さず、衣装を脱ぐと、上に投げたよ。僕はそれを仕舞ったよ。

三人と正教会の人達は、衣装が消えたのに驚いたね。

イレーネのその下には白銀の袖無しの全身用の軽装の鎧だよ。

それを見ても、三人は驚いたみたいだね。

気を取り直した三人のうち一人が薄ら笑いを浮かべて言うよ。

『イレーネ、一番弱かったあんたが、私ら三人、相手に出来るのかい?まして、そんな飾りばかりの剣でね。』

他の二人は同じ様な薄ら笑いだね。


『偉そうな三人のお姉さん、大丈夫?そんなに偉そうにしている割には、後にいるのに気がつかないの?そんなんで相手出来るかな?なんなら、許してあげるから、さっさとカンジナビアに帰ったら?』と僕は言ったよ。


『くそ生意気な小僧だ。』と一人の女性が言うよ。

そして、三人は自分たちの背後を見るよ。

正教会の他の皆も、背後を振り返るよ。驚いているね。

『いつの間に・・・』と声が聞こえるよ。


馬車がいるよ。白と灰色だね。馬もいるよ。白と黒、そして白と黒の馬鎧だね。その前に、キンバリーとメアリーだよ。

キンバリーは、黒のハットに白い面、黒のロングジャケットにグレーのズボン、革のロングブーツに中剣を構えるよ。

メアリーは、イレーネが投げた衣装に似た、薄桃に白の花柄模様の舞踏会衣装を纏って、後ろで太く編んだまっ白な髪、青の石、赤の石で飾った白い面を付け、両手で握った、偃月刀を持って立ってるよ。


正教会の者たちがざわついているよ。

『ねえ、お姉さんたち、偃月刀使いの首が欲しいんでしょう。呼んであげたよ。さて、誰が取れるかな。』と、僕は煽ったよ。


後にいた、正教会の人たちが、キンバリーとメアリーにかかって行くよ。

随分、熱り立っているけど、大丈夫?。

キンバリーとメアリーの振りは早いよ。神奉の剣を払い、・・・神奉の剣が割れるよ・・・その人の胴を打っていくよ。振り払う事、それぞれに五、六回。打ち掛かって来た神奉の剣を払い割って、それを持っていた打ち手を払い飛ばすよ。

あっと言う間だね。メアリーの衣装が舞う姿は、まるで花が飛んでいるようで、美しかったね。

残ったのは先頭の三人の女性だね。


イレーネの相手に、加勢ををさせないように、メアリーとキンバリーを立たせるよ。

僕は馬車の傍らへ歩くよ。


イレーネは先頭のお姉さんへと歩を進めるよ。

そのお姉さん、

『お前の前の相棒と同じ様に送ってやるよ。あの時は勘弁してやったのに、イレーネも逝きたいらしいね。じゃ、此処で逝きな。』って。

そのお姉さん、顔が怖いよ


大振りで剣を振るよ。確かに早いね。神奉の剣の使い方だね。でもね、イレーネの片刃の中剣はもっと早いし、それに、小さく鋭いよ。。剣の峰で神奉の剣を払うよ。


『ニキ。やはりお前か。人の命を簡単に取るなんて。神になったつもりか?神でもしないぞ。』

『ふん、神に逆らう奴をやって何が悪い?』と剣を振るよ。

イレーネはその剣を躱すよ。


『神の為と言うな。神の所為にするな。神を口にするな。自分らの為だろう、この、不敬者が・・・。』と、イレーネが怒っているよ。

『・・・うるさい。』

ニキと呼ばれた女性が剣を大きく振うよ。イレーネが剣を叩き、懐に入るよ。

そして、返す振りで胴を打つよ。一撃で終わりだね。神奉の剣も柄から折れていたよ。


『な、何でそんなに強くなったの?』と、女性の一人が驚いた様に訊くよ。

『あんたらみたいに、知っているのに、知らない振りして、腐った所に居るような事を、しなかったからよ。』と、イレーネが吐き捨てるように言うよ。


僕は、隠れていた、ぎらぎらのが人が、去って行くのを見ながら言うよ。

『イレーネ、行こう。少し遅くなったよ。急がないとね。』

僕は、離れた所で見ていた、衛士長のバノン殿に手を振ったよ。そして、馬車へ乗り込んだよ。

イレーネも、馬車に乗り込んで来たね。


三十四話 完
















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