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三十三話 レスタスに行ったよ

―――――― アーチンソンの男 ――――――

しつこい、どこまで追ってくる積もりだ。仕方ない。少し、待つか・・・


『おい、俺に用か?』

『これは、これは、またお会い致しましたね。』

『追って来ておいて、お会いしましたはないだろう。』

『たまたま、同じ方向だったに過ぎませんよ。』と、相手は笑う。

不快な笑いだ。来ているものまでぎらぎらで悪趣味だ。

あの坊の姿を見て学べといいたい。


『ご首尾はいかがでございましたか?』

『首尾とは何だ?何も受けてないぞ。偃月刀の女にも会え無かったしな。面なら、くれるという子供はいたがな。それで良かったか?』

『面など、それこそ、子供の使いではありませぬよ。面・・・』


『その子供とはどの様な?お付きはおりましたか?』

着てる物など、どうでもいいか・・・

『灰色の上下だった。お付きは居たぞ。イレーネと呼んでいたかな・・・。それこそ、凄腕だ。』

『イレーネと・・・』

・・・にやりと男が笑ったか・・・知っているのか・・・まあ、俺には、関わりは、もう無いしな。


『これからどちらへ?』と、また、笑いやがる。

『お前の余計な事のお陰で、無駄足だ。帰る事にした。次に、俺等に関わったら、どうなるか・・・知らんぞ。』

俺は、商人を見ずに歩く事にした。


もう、俺に、用は無いようだ。商人は付いて来ない。

―――ー――――――――


レンティアの領都レスタスに来たよ。

二回目だね。前回の時は夜に通過したんだ。だから、よく見ていないんだよね。


街の中は水路が多いんだね。石の橋があちらこちらを渡っているよ。イレーネも、レスタスは初めてだって、興味深げに見ているよ。


領都なのに、特に門はないんだ。

水路を見ながら、街道を、白と薄い灰色の馬車を走らせてきたよ。石造りの家が、ぽつぽつ、稲穂かな・・・の間に建っていたね。それがいつの間にか家の並ぶ地域に入っていたよ。橋を幾つか渡ったよ。そしたら、とても広い広場の脇を通っていたんだ。だから、馬車を、広場の目立たない所に停めて、街道沿いの屋台を見て回ったよ。


米にふわふわの卵料理が乗ったのがあったよ。僕はそれを買ったよ。イレーネは何時も通り肉料理だね。卓の長椅子に座って食べているよ。

街並が綺麗だね。煉瓦造りの、水路と道の白っぽさと建物の赤っぽさが、美しいよね。


白髪を後に撫で付けた肩迄ある、黒い服の老年の方が、目線の隅で近付いて来たのが分かったよ。横に立たれて、言われたよ。

『ファンタン家のご令息で御座いましょうか?』と。

『はい。そうですが、どちら様でしょうか?』と聞いたよ。

『スタナ様の家令をしております。ノーベルスタインと申します。お迎えに上がりました。』と、にこやかに、言われるよ。

『とても美しい街なので、もう少し、こうしていたいのですが・・・』と、言ってみたよ。

その間に、馬車を仕舞ったよ。

『ご希望に沿える場所は、スタナ様の住まいにもありますので、是非。』と言われたよ。


家令さんの馬車に乗せて貰ったよ。馬車はと聞かれたので、帰らせた、と答えたよ。何せ、スタナ様が、国境まで送って下さり、皇太子が向かえに来て下さるとの事、そのように言っても、可笑しくないよね。


確かに大きな城が見えて来たよ。

・・・ノイシュヴァンシュタイン城だ・・・

って頭の中に浮かんだよ。何だろうね。


三階まで、小さな部屋に入って、上がったよ。

・・・エレベーターかよ・・・

と、浮かぶよ。

イレーネは驚いていたね。

扉が開いたよ。廊下に出たよ。そこから一つの扉に案内されるよ。家令さんが開けてくれたよ。入ったよ。客間かな。広いね。それぞれの壁に絵が飾ってあるね。床の敷物もふわふわだよ。

スタナ様が立って待ってくれているよ。


『やはり、坊は早く来たな。』と、スタナ様は笑っているよ。

『はい。美しい町並を、のんびり眺めたく。』と申しあげたよ。

『そうか、しかし、のんびりとはいかんな。まあ、茶でも飲みやれ。』と座ったよ。


茶を飲んで少し、話したよ。アメリアの商人の事とか訊かれたよ。

パール商会は建物の名義も変わっていて、跡形も無くなっていた事を話したよ。

『そうか、中々に厄介であるな。』とスタナ様は言われたよ。


『坊は、我が娘に会いたいのであろう。良いぞ。済まぬが、イレーネはここで待っておれ。』と、言われて、立ち上がられたよ。

僕とイレーネも立ち上がったよ。僕はイレーネを見て頷いたよ。イレーネは会釈して、座ったよ。


スタナ様は廊下に出たよ。廊下の突き当たりを曲がって歩いて行くよ。僕も付いて行くよ。別の小部屋に入ったね。上っていくよ。扉をが開くよ。廊下だね。廊下の先に扉だね。スタナ様がその扉に入って行くよ。僕も続くよ。


広い部屋だね。窓も広いよ開いているよ。別に扉もあるね。

寝台は部屋の中央、少々、窓よりだね。寝台から窓の外が見えるように向いているね。

外は青い空と薄い紫の雲が見えるね。


僕は、スタナ様を見たよ。スタナ様が僕を見て頷かれるよ。

僕は、寝台の傍らへと寄っていったよ。

女性が半身を起こされ、窓の外を見ているよ。いや、顔と目は向いているけど、目の焦点は合っていないね。十八歳かな。皇太子と近いから、知り合いだったんだね。お顔はスタナ様に似ておられる目の大きな美しいお顔だね。人形のようだね。

・・・ダークネス ・・・

えっ、何を言ってるの、僕の頭。


うーん、困ったね。どうしたらいいのかな。

・・・両手で右手を握って、右の掌に指で刺激を与える、そして、心で掌の刺激と一緒に話かける・・・

浮かんだ事をしてみたよ。


目を瞑って、集中するよ。指の先、女性の手に言葉を送るよ。

・・・お姉さん、お姉さん、聞こえるかな。聞こえたら返事をお願い・・・

・・・お姉さん、聞こえるかな。聞こえたら返事をお願い・・・

・・・お姉さん、聞こえたら、返事をお願い・・・

指で刺激を与え続けるよ。


――― 私に声を掛けるあなたは誰?

小さな声が、頭に浮かぶよ。


――― お姉さんなら分かるでしょう。僕は五歳だけど、 お姉さんと同じ知恵憑きだよ


――― その、五歳の僕が、私に何の用なの?

・・・声が震えていて悲しそうだね。泣いているのかな・・・


――― うん、僕はね、まだ五歳なんだ、だからね、や りたい事がたくさん有るんだ。父さん母さんと おいしい物を食べたり、笑ったり、お風呂に入 ったりね。それから本を読んだり、馬車や船に 乗ったりしたいんだ。お姉さんは大きな船に乗 った事はあるの?


――― 大きな船はないわ・・・

・・・まだ、声は、震えているよ・・・


――― そうなの、僕は二度あるよ。大きいから揺れ無い んだ。お姉さんも一度は乗ってみたらいいよ。 それでね、僕がお姉さんみたいになってしまっ たら、僕の父さん母さんはとても悲しむんだ。 だって父さん母さんの子供だからね。 そして、僕は父さん母さんが悲しむのが、一番 辛いんだ。知恵憑きの僕を唯一可愛がってくれ るんだよ。お姉さんもそうでしょう。

だからね、お姉さんがこうなった理由を教えて 欲しいんだ。

もし、教えて貰えたら、ここにいるお姉さんに は、話をしに来る事しか出来ないけど、なるべ く話をしに来るよ。お姉さんも、一人で淋しい でしょう?

それで良ければ、訳を教えて貰いたいんだ。 この後、皇太子のお兄さんにも、会いに行くつ もりなんだよ。


――― ファイゼルに会いに行くの?それは良くないわ。 ファイゼルの傍らには、魔神使いがいるのよ。

魔神使いはね。魔神も知恵憑きの者も操れるの よ。

・・・気が入ったね。少し、良かったよ・・・


――― お姉さん。それは間違いだよ。知恵憑きの者同士 ならともかく、たかが魔神のいない魔神使いに、

知恵憑きの僕たちが負ける訳はないよ。

魔神がいれば、兎も角、魔神はまだいないから ね。お姉さんも本当は分かっているでしょう。


――― でもね。とっても怖いの母様に何かあったらと 思うと・・・

・・・何を言われたのかな、また、怯えている ね・・・

――― そうだよね。僕も父さん母さんに何かあったらと 思うと、とても怖いよ。でもね、皇太子のお兄 さんが魔神になってしまうと、他の知恵憑きの 人たちも悪く言われるし、僕たちを生んでくれ た父さん母さんたちまで悪く言われてしまうか らね。

そんな嫌な思いはして欲しくないんだよ。だか

ら、僕は皇太子のお兄さんを止めないといけな いんだ。

僕は、そろそろ、行くけど、お姉さんはどうす るの?ここに居るの?いつまでも居られないの は解るよね・・・

隠れていても、何も解決しないんだ、自分が動 かないとね。


――― 出たいとは思うけど、出れないの。何度も試め したわ。


――― 大丈夫だよ。だって、ここは、お姉さんが、造り 上げた、魔神使いを避けるための世界なんだよ。 だから、大丈夫だよ。僕と一緒に、行くよ。


暗いからね、よく見てね。僕の手が見える? 目 を凝らしてね。ぷくぷくした小さい手だよ。見え たら、しっかり握ってね。次に、僕の姿が見える かな?赤に金の縁取りのズボンに白いシャツだ よ。見えた?では、歩いて行くよ。しっかり後を 付いて来てね。


母様・・・ごめんなさい・・・心配かけて・・・

何だか眠いよ。声が遠いよ。


ここは、客間だね。イレーネの腿の上だよ。

『イレーネ。途中で寝てしまったよ。娘さんはどうしたかな・・・』

『坊、大丈夫よ。無事に、普通に話す事が出来てるって。随分時間が掛って心配したけど。スタナ様は大層喜んでいたわ。』

『そう・・・。あそこは時間の感覚が無かったんだ。もう、二度とやりたくないよ。とても疲れるんだ。悪いけど、もう一眠りするね。』


僕は目が覚めたよ。すっきりした気分だね。イレーネの腿から、起き上がったよ。

『イレーネ。ごめんよ。疲れただろう。』

『坊、大丈夫よ。スタナ様が途中で、変わって下さったから。』

『スタナ様が・・・』

『ええ、坊には、世話に成ってばかりだからって。』

『興味本位で首を突っ込むと、苦労すると言う事だね。』

『でも、人の役に立っているわ。』

『・・・うん・・・、僕はお腹空いたよ。遅くなってしまったから、屋台に行こうかな。』

『スタナ様がお待ちよ。一緒に食べよう、って。』


『坊、大変世話になった。この通りじゃ。』と頭を下げられたよ。』

『その様な・・・たまたま、だと思います。僕は、五歳ですから。』と言ったよ。

『うむ。五歳の坊に能力を使わせて忍びない。成長が心配じゃ。しかし、たくさん寝れば成長も出来る・・・』

『え・・・』

僕は、驚いたよ。思わず言葉が出たよ

イレーネも驚いた顔をしているよ。


その事を、食事を頂きながら詳しく聞いたよ。

『知恵憑きの子供は能力が高い。だけど、若い内から使うと発育に影響が大きいと言われておる。だから、千年前は、十二歳迄は、それ程使わせなかったとある。しかし、それでも使っている場合には、睡眠、それも昼に睡眠させ、夜に活動させたと。今は、知恵憑きの者が少なく、伝承も伝わっていない。おそらく我が家だけであるな。』と、スタナ様が話してくれたよ。


『どうした坊、溜め息などついて?』と訊かれたよ。

『五歳にしては小さいな、って思っていたら、やはりと思うと、つい・・・』

『大丈夫じゃ。昼にたくさん寝れば良い。陽に当たるでないぞ。』

イレーネは、僕を見ないよ。


・・・まるで、もやしだな・・・

もやし?

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