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三十二話 招待状だよ

『すまんな、セルロイ殿にグレース殿、それにグレン殿もな。』応接間の椅子に座って、スタナ様が言われるよ。その後に衛士長殿も座って居られるよ。最初は立つと仰られていたよ。でも、それではイレーネが座れないから、イレーネが座れないなら、僕は同席出来ないと申し上げたよ。

それでスタナ様が、座れ、と指示して下さったよ。だって、イレーネは帯剣していないからね。それに、僕の乳母を立たせるなんて出来ないよ。

私的なのに、と僕はちょっと不満だったよ。スタナ様は笑っていたけどね。スタナ様の衛士長の方は顔が固いよ。


スタナ様はお茶を飲みながら、話を始められたよ。

『ファンタン家の方は、赤い目について、どこ迄ご存知かな?』

父さんはアーチンソンの話をしたよ。

『成る程、アーチンソンの者か・・・彼らは確かに古いし、昔の記録を持っておるからな・・・』

『しかし、姫を使って皇太子を止められるかな・・・』

とスタナ様が呟かれたよ。

更に、言われるよ。

『魔力とか、能力と言われる物の多くは秘密になって、誰がどんな能力を持って、使っているかは、あまり知られていない。しかし、一般の人々の能力はそれ程強くはないし、紫の雲自体も昔に比べ少なくなっているから、いずれ能力自体無くなるだろうと言われておる。が、能力の中で一番恐れられているのが、魔神使いじゃ。本来、魔神は殆んど現れない。たから、赤い目が現れるのは、魔神使いが動いていると、考えられておる。そして、その赤い目を魔神にまで誘導していくのが、魔神使いじゃ。』


『で、二十家の誓約の中で生まれる赤い目についてはそれ程の危機感はないが、それがササビーであれば、話が変わってくる。アーチンソンが慌てているのもそこよ。ササビーの赤い目を止める手立てが、今はない。何故なら、魔神使いが傍で誘導して行く故にな・・・』


『そこで、申し訳ないが、坊殿には、ササビーの戴冠式に出席頂けないか。坊殿は皇太子に気に入られているようだ。それに、コウシの件もある。なんとか皇太子を平常に戻して頂けないか?』

『しかし、グレンには皇太子からの招待状は来ておりませんが。』と、父さんが言うよ。

『うん、その招待状だが、我が娘の所に来た招待状に同封されておった。我が娘は、皇太子とは少々面識があった故な。わが娘も、知恵憑きと言えば、何故皇太子と面識があるかは、分かるであろう。しかし、今は病んでおる。二割の者は、その頭の有り様に耐えられん者がおる・・・我らの様な者には理解が出来ん故、どうする事も出来ぬ。』と、スタナ様は、悲しそうな顔で僕を見たよ。


父さんも母さんも、そしてイレーネも僕を見たよ。

『グレンは、どうなの?』と、母さんが聞くよ。

『母さん。どうなのって聞かれても。分からないよ。だって、僕は、その時代に興味がないから、考えなかったよ。僕は、この時代で考える事がたくさんあって、直ぐに疲れて寝てしまうしね。だから、今ではもう一つの世なんて、思い出せないし、もう一人の僕も、たまに呟くくらいだから、気にした事はないんだ。僕が気にするのは、父さん母さん、それにイレーネの事だよ。きっと、病になる人は、手に触れる物に関心が向か無かったんだね。だから、頭の中に入り込んでしまったと思うんだ。僕は、物を弄るのが大好きだからね。』と、皆を見回しながら言ったよ。


『坊殿は、頭の声が気にならないのかな。』と、スタナ様が聞くよ。

『うーん、僕は赤ちゃんの頃に、鬼っ子と言われて、叩かれてたから。その時に、ああしろ、こうしろって、言っていたけど、あまりに酷い事を言うから聞かないようにしたんだ。だから、そう言う時には出て来なくなったし、今はこの時代の事を考えているから、頭の僕には分からないから出てこないんだと思うよ。』


『そうか、確かに、坊殿は、若いのに忙しいからな。それに構っている暇など無いのじゃな。』と、スタナ様が微笑むよ。


『これが、同封されていた招待状じゃ。開封はしておらんから、中に何が書いてあるかは知らんぞ。』と言って、スタナ様が、父さんに文を渡してくれたよ。


父さんが開封し、文を読んだよ。そして母さんに渡して、母さんも読んだよ。母さんは文をイレーネに渡したよ。イレーネは、ちょっと戸惑ったけど、母さんが頷くのを見て、文を読んだよ。そして、僕に渡してくれたよ。で、僕は声に出して読む事にしたよ。


『ファンタン家のご当主、並びにご夫人、そしてご令息、先日は、久々に、楽しい一時を過ごさせて頂いた。誠に、感謝致す。この様な形で文を差し上げる事は不本意であり、失礼と思うがご容赦願いたい。

スタナ様のご令嬢とは些か縁も有り、ご招待申し上げた。ファンタン家のご令息とは、言伝のみであったが、是非、この機会にご縁を結びたく、我が戴冠式にご招待申し上げる。是非のご参加をお願い致したい。

ファイゼル・エステレロ・ササビー


追記 ご令息は、五歳であると、お聞きする。よって、ご当主、ご夫人のご出席を願うのは筋であるが、当方及び周辺の情勢を鑑み、ご令息のみのご招待とさせて頂いた。ご令息の身と心には、我が身と心をもって、万全の配慮を行なう故、ご安心頂きたい。』

僕は、読み上げ終わったよ。


父さんも母さんも微妙な顔だね。内容が不思議だよ。帝国の権力者とは思えないよね。文の届け方もね。

スタナ様も訝しげだね。

皆それぞれ考えているよ。


『グレンはどうしたい?』と、父さんが訊くよ。

『父さん母さん、出来れば行こうと思っているんだ。でも、父さん母さんが駄目と言うなら、父さん母さんの言う通りにするよ。』と、僕は言ったよ。


『グレンは、心配はしてないの?』と、母さんが心配顔で訊くよ。

『勿論、イレーネには付いてきて貰うし、僕には、キンバリーもメアリーもいるからね。それに、皇太子が安心と言うからには、ササビーでは何も起こらないよ。起こるなら途中だと思うよ。』と、答えたよ。

『グレン。それはどういう事だい?』と父さんが訊くよ。

『だって、ササビーに安全に入る道がないんだよ。すべて五家と二家に封じられているからね。船と言う訳にいかないでしょう。』


『それなら大丈夫じゃ。レンティアの西は、ササビーと接っしているぞ。狭いがな。だから、妾が送ってやる。すれば、手は出して来んはず。』スタナ様が言うよ。

『ヘーえ、そうなの?父さん知っていた?』

『それは、父さんも知らなかったよ。』


その後、父さんと母さん、スタナ様とで、細かい打ち合わせをしていたよ。イレーネと僕は席を外したよ。何せ、お昼寝の時間だからね。

スタナ様は、僕が寝ている間に帰られたよ。起こすのは忍びないって言われたので、僕は起こされなかったよ。


イレーネは、お昼寝が終えたらキンバリーと打ち合いたいって言うんだ。剣に慣れる為だって。剣の形が違うと、狙いが微妙にずれるんだって。何せ、イレーネの剣は先端の手前の左右が尖って出ているんだよね。少しでも、相手に傷を付ける工夫なんだって。


夕食が終わったよ。

父さん母さんとイレーネが話をしているよ。

僕は興味がないから参加しなかったよ。それより、スタナ様の令嬢の事を考えたよ。少し、興味があるんだ。僕と同じ知恵憑きとはね。道理で、スタナ様に、一目で知られていた気がしたんだよ。出来ればその令嬢に会ってみたいと思ったよ。

で、父さん母さんに話したよ。


『父さん母さん、スタナ様の娘さんに会ってみたいんだ。一日早く行っても大丈夫だよね。』と、父さんと母さんを見たよ。

『それは大丈夫だけど、スタナ様が会わせてくれるか分からないわよ。』と母さん。

『うん、でもね、もしかしたら、原因が分かるかも知れないよ。それにレスタスの街は古いんでしょう。ゆっくり見てみたいんだ。』と僕は言ったよ。

『まあ、いいんじゃない。』と、父さんが笑うよ。


出発まで、七日あるよ。

僕はファンタン家模様の馬車と白い馬車の改良をしてもらったよ。前と後、側面と底に念の為、薄い鉄を貼ってもらったのと、車軸にゴムを入れてもらったよ。


イレーネの相手もたくさんしたよ。

神奉の剣について、イレーネが怒っていたよ。真っ直ぐの剣であれば、相手に軽傷で済ませられるのに、神奉の剣は深手になってしまうと。この剣の忌み嫌われる訳だと。それで、キンバリーが神奉の剣を持たされて、イレーネに相手させられたよ。それも、何度も、何度もだよ。何故かな。


レンティアに向かう日の朝だよ。

皆で、朝食だよ。食べながら話すよ。

『母さん、なんだか、悲しい顔してるように見えるけど、どうかしたの?』と、ぼくが言うよ。

『グレンがいないのはとても寂しいわ。会わないうちに、どんどん大きく成るのよ。それも、悲しいわ。』と、母さんが言うよ。

『ふー。父さん、僕は大きくなっているかな。大きくなっていれば嬉しいけど。全然変わっていない気がするんだ。どう思う?』と、父さんにきいたよ。

『な、なんでそう思うんだい?』と、父さんが慌てているね。

『だって、この服、シノさんに合わせて貰って、とても気に入って、よく着ているけど、もう一年近く経つのに、短くならないんだ。』

『一年ではそんなに変わらないよ。』と、父さんが言ったよ。

『そうよ。伸びる時はあっという間に伸びるのよ。』と、母さんも、頷いて、言うよ。

・・・ほんとかなぁ、まあ、良いか・・・


『父さん母さん。僕が戻るまでイルリアにいるの?それとも、フーリンゲンに戻っているの?』と念の為に聞いたよ。

『それは、教えておかないとね。』と、父さんは母さんを見たよ。

『あっ、母さん、言うのを忘れていたわ。三日後に、セルの村にジョン爺の船が来るわ。それで、フーリンゲンに戻るわ。エルザとエリスに任せているからね。』と、母さん。

・・・母さん、それ、凄く、大事な事だよね・・・

僕は、じっと母さんを見るよ。

母さんは、僕に目を合わせないよ。


『・・・父さんは、様子次第だけど・・・多分、母さんと一緒に行動するつもりだよ・・・』と、父さんは、母さんと僕を気にしながら話すよ。


・・・そうか、僕の忘れっぽいのは、母さんから来たんだ・・・


三十二話 完













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