二十七話 護衛者さんに会ったよ
昨日、父さんと話をして、もやもやも、すっきりして、ゆっくり眠れたよ。
朝食は、父さんと部屋で食べたよ。
でもね、引っ切り無しに来客の連絡が、父さんに来ているんだ。
『ふー、グレン。ごめんよ。今日も、お客と会っていないといけないみたいだよ。グレンはどうする?』
『うん、父さん。僕の事は心配しなくて良いよ。久しぶりに友達に会いに行ってみるよ。もし、居たら遊んでくるね。居なければ、戻って来て、ここで本でも読んでいるから』
『そうか・・・、グレンなら大丈夫と思うけど、気を付けるんだよ。パール商会の連中が、隠れているかも知れないからね。』
父さんは、朝食を済ますと、僕を心配そうに、微笑んでから、部屋を出て行ったよ。
僕は、父さんを見送ってから、まだ、眠たかったから、また一眠りしたよ。
僕は、昼の一刻前に、受付の大広間に下りたよ。昨日と違って人がたくさんいたよ。皆、椅子に座って、書類を広げているね。
受付に行くと、館主さんの長男の方が、僕の話を聞いてくれたよ。僕は、父へ伝言をお願いしたのと、馬車を貸して欲しいと頼んだよ。
で、昔に住んで居た付近まで、馬車で送って貰ったよ。
僕達が住んでいた家は、建て替えられていて、最初は気がつかなかったよ。
庭の広い、小さな白い家になっていたよ。
綺麗な黄色い花が咲いている花壇が、並んでいるね。
次に雑貨店のヴェイドと衣装店のロザリーの家に行ったよ。僕の元の家からは、三軒目なんだよ。二人の家は隣り合わせなんだ。
でもね、両家とも閉めきってあったよ。庭の花も無くて、土だけだね。売却の札はなかったけどね。ヴェイドとロザリ―の両親もアメリアから移ったのかな。
残るはニックの家だね。ニックの家は通り二つ奥の角なんだ。少し歩いたよ。昔はよく歩いた道だよ。でもね、生活が感じられない気がしたよ。住んでいる人が少ないのかな。
ニックの家は角だから、家の手前から様子が見えるんだ。人が二人、入って行ったね。女の人かな。
念の為、家の標札を確認したよ。汚れて居たけど、シンドリーってあったね。昔と同じだね。
今は、シンドリーさんは衛士長だから、色々忙しいだろうと思って、ニックが出て来ないか、はす向かいの家の玄関の階段に、座らせてもらい、待つことにしたよ。この家も住んでいないのかな。人の気配がないね。
一刻程待ったけど、ニックは出て来なかったよ。その代わり、大人の人が更に三人一緒に入って、違う人が三人一緒に二組出ていったよ。女の人も二人入って、同じ人々が、男の人―人を加えて出ていったね。
僕はニックと遊ぶのを諦めたよ。疲れるけど、歩いてパレス館に戻る事にしたよ。
僕の馬も、馬車も目立つから出せないんだ。着ている衣装は目立たない灰色の上下で上はフード付きにしているからファンタンの息子だってばれないよね。、二刻もあればパレス館に着くからね。
住宅街から大通りに出たよ。子供の足だから、一刻掛かったよ。ここから一刻だね。バレス館の周りは森か広がっているから、森を目指して歩くよ。
『おい、あの小僧。ファンタンじゃねえか?』
『違うだろ。ファンタンの小僧が一人で歩くか・・・』
『嫌、あの肩掛けの物入れを見ろ。あれは門で見た馬車の中の小僧がしていたのと同じだ。高そうだなって見てたんだよ』
と、声が聞こえるよ。横道の店の脇からだね。
・・・しまったな、鞄か・・・メルメドは目立つよね・・・さてどうするか・・・
でも、何処かで聞いた声だよ。だみ声だね。街の門だったかな。
『おい、どうする?』
『ああ、捕まえて連れていけば、金になるぞ。』
『もし駄目でも、東に売るか、身代金だな。』
・・・聞こえてるけど、馬鹿なのか・・・
『大通りでは無理だ、人目が多いからな。』
・・・さて、どこで襲うつもりかな・・・
このまま、パレス館に行くと、途中で森があるよ。危ないよね。メアリーとキンバリーは目立つし、一応、衛士だから、争うのは不味いよね。
では組合に行って、護衛でも雇おうかな。それも、多分、駄目だよね。
取り敢えずお腹が空いたよ。広場の屋台だよね。方角が違うから、諦めてくれないかな。広場に向かって歩くよ。
広場まで無事で来れたよ。一人だったから、どきどきしているよ。
広場は落ち着いているね。というか、閑散としているね。それでも、人目があるから平気かな。少しだけほっとしたよ。
石碑を探してみたよ。やはり、不思議だね、石碑が無いよ。父さんが言ってた通りだね。用が済んだら消えるんだね。
広場の周りの屋台を回ったよ。屋台は少ないね。いくつか買ったよ、汁物と、丼物だね。麺も買ったよ。
屋台の前の卓に座っている人を見るよ。誰に声を掛けるかな。
卓にすわって、所在無げにしている人で、やはり、剣を持っている人が安心かな。
一人しかいないね。赤い髪の女性だね。討伐者さんを思い出すよ。討伐者さん、元気かな。
『お姉さん、座っても良いですか?良ければ、一緒にたベませんか?』と、俯いている女性に声を掛けたよ。
『いいのかい。あたしなんかに声を掛けて・・・』と、女性の剣士さんが言うよ。
顔が見えないね。俯いたままだよ。
『ええ、話し相手でも構いませんよ。お好きなのをどうぞ』
『では、遠慮なく、貰うよ』とお姉さん。
丼物と汁物を選んで食べ始めるよ。
僕も麺を食べるよ。
『姉さん、腕は中級ですか?』と、剣を見ながら訊くよ。
『ああ、中級の上くらいかな。』
『凄いんですね。』と、周りを見渡すよ。
衛士さんは居ないよね。でも、制服とは限らないけど念の為、辺りを見たよ。
『衛士さんとはどちらが強いですか?』
『アメリアの衛士なんて糞みたいなものさ。領主の護衛とかは凄腕だけどね。それは、ほんの一部だよ。』吐き捨てるように言うよ。
・・・何かあったのかな・・・
この剣士さん、剣は良いものを使っているね。しかし、布の衣裳だね。肩も覆っていないし、胸も半分露わだね。下も短いパンツで、腿が出ているよ。組合とは関係ないのかな。若いよね。
『姉さん、組合で仕事を探さないんですか?』
『ああ、今はちょっとね。雇用なら探しているけどね。女だし、こんなんだから・・・』
姉さん、暗いよね。話が続かないよ。困ったね。有り来たりで行くよ。
『姉さん、どこかでお会いした事ありますか?』
『多分無いよ。子供は好きじゃない。一人を除いてはね。』
『それは、お子さんですか?』と、うっかり訊いてしまったよ。
『子供はいないよ。世話になった人の子供だよ。賢そうだったから。』
姉さん、普通に答えてくれたよ。
『散々良くして貰ったのに、馬鹿な奴らだ。だから、馬鹿は嫌いだよ。』
姉さん、呟くように言うよ。
『お陰で、あたしまで人でなくなっちまったよ・・・』と姉さんさんが啜り泣いているよ。
何かいけない事を訊いたかな。
『ごめんよ。坊。』と、剣士さんが泣を拭うよ。
『お姉さん、ごめんなさい。辛い事があったんですね。』
その言葉を聞いたお姉さん、顔を上げたよ。僕の顔をじっと見たよ。それから鞄もね。
そして、口を抑え、目を見開いたよ。
『坊、ごめんよ、ごめんよ。坊のお父さんをあんな目に合わせて・・・知ら無かったんだよ・・・』
と、お姉さんがまた泣き始めたよ。
お姉さん、泣きやまないよ。
仕方ないから、お姉さんにくっ付いて、お姉さんの腿を撫でてあげたよ。お姉さんの背中とか、届かないからね。
で、僕は言ったよ。
『お姉さん、僕はお姉さんを知りません。ですから何があったか分かりません。でも、父は、僕に言うんです。起こった事は、必ず自分に素があるんだよ。取った行動とか判断にね。だから人の所為ではないよ。自分の所為だから、そこを間違えてはいけないよって。だから、父さんはお姉さんたちの所為とは、これっぽっちも考えていないですよ。だから、そんなに泣かないで下さい。お願いします。』と頭も下げたよ。
お姉さんは、僕の言葉を聞いて、涙を拭いて、説明してくれたよ。
『あたしら、ファンタン商会の護衛をするようになって、長いんだよ。でね、料金もそうだけど、色々世話になってたんだ。なのにケイロスで捕まってさ。馬鹿共が居なければ捕まるはずなんかなかったんだ。おかしいと思っていたんだ。それに馬鹿共が協力してたなんてね。
それを知ったのは、フーリンゲンで別れてアメリアへ戻ったのさ。でね、リーダーが探してきたのがパール商会の荷の護衛だよ。エレゲンのモロという村まで行ってね、荷を受けとってアメリアまで戻る仕事さ。料金は良かったよ。荷の護衛にしては高額だから、変だとは思ったよ。でもね、後払いだけど、手付金が出たから安心して行ったよ。
モロまでは平穏無事だよ。山道を通って行ったけどね。帰りのジュントの山奥の地でね、山賊のいない地の筈なんだよ、でも、賊に襲われて、三人は逝っちまったよ。
衛士上がりだから、三人とも剣の腕は大した事なくてね。それで、腕を買われて、仲間に入れてくれていたんだ。特に仲いい訳でもないし、女というのを隠してもいたから、仕事だけの付き合いなんだよ。だから、休憩の時は離れているし、で、あの時も理由があってちょっと離れていたんだよ。何かの音がして、慌てて行ったよ。隠れて様子を見たさ。もう、三人は倒れていてね、近くに荷の商人と賊らしき奴らが、笑って話してたよ。』
『三人の処分が出来て良かったってね。これでケイロスの事や情報洩れの裏が知られずに済んだって。もう一人が戻ってきても、帰ってから、薬の荷を運んだって押し付ければいいだろって笑ってたよ。他にも色々話しをしていたよ・・・お陰で、私は、組合に戻れなくなったのさ。戻ると、捕まるのは分かったからね。』
と、姉さんは悔しそうに言うよ。
『でも、姉さん。ケイロスで会った護衛さん達は皆男の人だったよ。それに、もしそうだったとしても、こんな大きな胸は隠せないよ。』と、人指し指で突いてみたよ。
姉さんは少し困った顔をして、僕の手を取って、姉さんの胸に押し付けたよ。とても柔らかいよ。
『本物だろう。これを隠すのは無理だけど、腹とかを増やせば、大丈夫さ』と、説明してくれたよ。
そう言えば、一人、ふくよかな人がいたんだ。でも姉さんほど美しくはなかったんだ。
僕は、その事を姉さんに言ったよ。そしたら、僕の頭を撫でてくれたね。
理由はね、顔色を悪くして、口の中に含み物を入れ、歯を差すとも言ってたよ。
姉さんの事情は分かったよ。とても辛い出来事や想いをしていたんだね。姉さんの様子を見て少し悲しくなったよ。それに、僕はやはり子供なんだって思ったよ。だって、女の人が、仕事をするのに、そんな扱いを受けるなんて、知らなかったよ。とてもおかしい事だよね。だから、あの討伐者さんも、一人で仕事をしていたのかな。
で、もう一度姉さんに伝えたんだ。
ファンタンはもともとケイロスに狙われていたから、父さん母さんは、姉さんの所為とは思わないし、そもそも、姉さんは知らなかったから、大丈夫だよ、本当に気にしないでねって。姉さんは少し安心したみたいだね。やっと笑ってくれたよ。
次に、僕が姉さんに、僕の事情を話したよ。衛士の人たちに狙われていて、今もどこからか見ているってね。
お姉さんは驚いていたよ。
お姉さんは、お付きの二人を呼んでくると言ってくれたよ。でもね、多くの街の人の前で、二人が剣や偃月刀を抜いて、衛士さんと争うのは不味いよね。拐かしの証拠も無いしね。
それに、そろそろ夕方だよ。父さんが心配していたらと思うと冷や汗が出るんだ。早く戻らないとね。それで良い案が浮かんだよ。
『僕は早く、何事もなくパレス館に戻りたいだけなんだ。でも、一人だと間違いなく、襲われると思うんだ。でも、怪我人や死人を出す訳にいかないから、一緒にパレス館まで行ってくれる人を探しているんだ。で、その依頼をお姉さんにお願いしたいんだ。子供の僕が依頼するより、大人のお姉さんが依頼したほうが人が集まると思うんだ。そうすれば、お姉さんも、一人だと、勝手に護衛を受けたとか、組合にいちゃもんつけられないと思うよ。また、もし姉さんが良ければ、ファンタンで雇うよ。僕が姉さんを雇用する訳にいかないから、父さんに会ってからなら問題ないよね。雇用なら組合は関係なくなるから。』と、姉さんにお願いしたよ。
すると、姉さんは、少し嬉しそうに頷いてくれて、皆に声を掛けて、回ってくれたよ。
そしたら、とても多くの人が集まってくれたんだ。
それで急いで、パレス館に向かったよ。姉さんは僕と手を繋いで歩いてくれたよ。姉さんの左手はとても柔らかいね。右手は硬そうだけど。
衛士の人が、後を付いて来ていたみたいだけど、手は出され無かったよ。
パレス館の入口では、多くの人が居るね。父さんもいるよ。姉さんは、その様子から僕を見て、
『もう、大丈夫ね。』と言ったよ。
そして皆を連れて広場へ戻って行ったよ。これから、皆に腹一杯食べて貰うねって、言ってね。
『グレン。遅かったね。何かあったかい。』と父さんが、穏やかに訊いてくれるよ。
父さんは、どんな時でも、落ち着いているね。父さんを見ると、とても安心するよ。
『父さん、心配掛けてごめんなさい。仕事の邪魔をしちゃったよ。ごめんなさい。』
『僕は、大丈夫だよ。珍しい人に会ったよ。後で話すね。』
『そうかい。それに仕事より、父さん母さんにとって、グレンが一番だからね。何事も無いなら、いいんだよ。』
『そうだ。シンドリーさんは、引越したって、だから、今の家に住んでいないって言っていたよ。』と、父さんと歩きながら話すよ。
僕も、シンドリーさんの元の家で見た事を話したよ。
そして、
『ヴェイドとロザリ―の家も、長く住んでいないみたいだったよ。』と、伝えたよ。
父さんは、
『もう少し掛かるんだ。ごめんね。』って言って打ち合わせの部屋に向かったよ。
僕は、部屋に戻って風呂に入る前に、直ぐに寝てしまったよ。長く歩いて疲れていたのかな。
二十七話 完




