表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/48

二十六話 イルノア家だよ

アメリアの広場にいるよ。

アシリアの当主の言葉に父さんが返すよ。

『アシリア殿。誰に、何を言われたのか知りませぬが、誓約はあなたの家にも伝わっておりましょう。塩、香辛料の事などに関わりはありませぬ。』


『あなたが誓約を違えられた。ただ、其れだけの事であります。あなたが誓約を違えられていないと申されるのであれば、あの石碑に示されれば良い。判断致すのは、誓約であり、石碑であります。私でもなければ他の何れの人々でも有りませぬ。私が如何に騒ごうが、石碑が現れねば、誰も歯牙にもかけませぬ。石碑が現れたからこそ皆が集まっているのです。』


広場はとても静かだね。父さんの淡々とした声だけが響き渡っているよ。アシリア様は目が虚ろだよ。


『石碑には誓約が印されております。読みあげます。』


『この地は、誓約の下にある限り、彼の者及び彼の者の血を受け継ぐ者が、領主として、治める事をよしとする。


一つ、領主は、望まぬ無辜の民の命を、削る事も、散らす 事もならぬ。

ーつ、領主は、望まぬ無辜の民に、強要してはならぬ。

ーつ、領主は、真似たる者を置いてはならぬ。

ーつ、領主は 上記の事を行う者を止め、この地より去ら せねばならぬ。

ーつ、領主は すべき事を他の者に任せてはならぬ。


以上、この地を領する者との誓約である。

この誓約の下に有らぬ時、民は定められる次領主に従い、安穏たるべし。尚、安穏足らざらん時、誓約は終え、この地は永遠に安穏足らざらん地とす。』


『アシリア殿、これが古へより伝えられる誓約であります。石碑に手を添え、確認されるがよろしい。石碑がアシリア殿を引き続き、領主と認めれば、アシリア殿が為されている事に、皆も納得致しましょう。』と、父さんが言うよ。


アシリア様の目が虚ろだよ。誰かが、アシリア様に囁いているよ。

『ああ、槍を投じろ。』

アシリア様の側の信徒が槍を投げるよ。

その槍が、父さんや僕のいる馬車目掛けて飛んでくるよ。

僕は、心死に空中の槍を止めたよ。

でもね、何本か抜けたんだ。

その槍は父さんの頭の上で止まったね。

きっと、広場の少なからぬ人が、皆で止めてくれたんだね。有り難う。


僕は、その三本の槍を含めて、素早く槍を纏めると、投げた信徒たちの前の地面に、一列に突き立てたよ。


静寂に包まれていた広場が、投げられた槍に、皆が息を飲んだよ。そして、返され地に刺さる槍に、辺りがどよめいたよ。どよめきが大きく広がるよ。


そして、どよめく声が、歓声がに変わるよ。

『変わったぞ。』

『アシリアの紋が消えたぞ。』

『イルノア家だ、次はイルノアだ・・・』と。

僕は、石碑をみたよ。不思議だね。家紋が変わっているね。

そして、アシリア様を見たよ。

一人だね。側にいた信徒がいないよ。薄情な人たちだね。

広場は、去る人、石碑に向かう人、ごった返し始めたよ。


父さんは、馬車を降りると、急いでアシリア様の元へ行こうとしているよ。人が多いね。

アシリア様は、石碑に刻まれている、新たな家紋を見ているよ。ただ見詰めているね。そして、一筋、涙を零されたよ。

父さんは、人混みの中、衛士の方々に守られながらアシリア様に辿り着いたよ。


『アシリア殿、家名が変わる事を知らぬ筈がありませんでしょうに。半年前迄は立派なご領主であられましたのに、何があったのでございますか。』騒ぎの中、父さんが訊いているよ。


『パール商会に嵌めらたとは・・・愚かであった・・・』と、石碑を見詰めたまま言われ、そして、広場を去っていかれたよ。衛士の一部の方が守って行かれたね。


父さんが人混みの中、馬車に戻って来たよ。

『グレンだよね。槍を止めてくれたのは?』

『うん・・・』

『ありがとうね。』と、父さんは笑ってくれたよ。でも何か考えているね。


『グレン。アシリア殿の顔を見たかい?』

『うん、随分と顔色が悪かったけど、お病気なのかな?』

『多分、パール商会に病気にさせられたんだよ。』

『そうなの、酷いね。』

『だから、これからは、父さんもグレンも食べ物には気を付けないとね。』

『わかったよ、父さん。』


父さんは何人かの人と話をしたよ。

それから、僕と父さんは、広場のお祭り騒ぎの中、パレス館に向かったよ。

馬車の色が、アメリアの街では知られていないから、気付かれずに、パレス館の入口まで行けたよ。

パレス館の入口も客はいないよね。やはり、街への出入を制限していたからだね。

パレス館の中に一歩入ったよ。大広間が見渡せるね。受付前の大広間は、客がいないと余計広く感じるよね。

それから、大広間の敷かれている織物を、見たよ。桃色、金、銀の大輪の花が薄緑の葉とともに、幾つも、幾つも織られていたんだね。。

『父さん、とても静かだね。それと、敷物の模様が美しいよね。見れて良かったよ。』

『確かに、綺麗だね。・・・でもパレス館でも客はいないんだね』と、父さんが言うよ。

父さんも、客の事を思ったんだね。


受付の前に館主様とご長男の方が迎えに出て来ててくれたよ。

館主の長男の方は、父さんと少し話をして、そして、すぐに部屋に案内してくれたんだ。

『お腹空いただろう。今、部屋に持って来て貰らうからね。直ぐに客がくると思うんだ。グレンはどうする?』

『父さん、僕は疲れたから、部屋にいてもいいかな。』

『勿論だよ。父さんは、下に降りたら、夜遅く迄戻れないと思うんだ。先に寝てていいからね。』


『父さん、先程話ししていたのは誰かな、見た事があると思うんだ?』

『うん、ニックを覚えているかい?彼のお父さんだよ。今は、衛士長をしているんだよ。だからね、パール商会の話をしたんだ。急いで調べると言っていたよ。』

『そっか、ニックのお父さんか、また、ニックと遊べるかな。』

『落ち着けば、大丈夫だよ。』と、父さんが笑ったよ。


僕は、父さんが戻って来たのに気が付いたよ。

父さんはお酒をお付き合い程度にしか飲まないからね、夜遅くでも、しっかりしているんだ。

『父さん、忙しそうだね。』と、声を掛けたよ。

『グレン、起きてたのかい?疲れが取れないよ。』

『ううん。今、丁度目が覚めたんだ。』

『そうか、じゃ、次は朝まで寝るんだよ。』

僕は下を向いたまま言ったよ。

『父さん、僕は明日、フーリンゲンに帰ろうと思うんだ。いいかな?』

父さんが僕の顔をじっと見るよ。


『グレンが帰りたいと言うなら、帰ってもいいけど・・・何故、そう思ったのか、聞いてもいいかい?』と、父さんが言うよ。

『・・・うん、父さんは今、色々と忙しいよね。だから、僕が側に居ると、その事に集中出来ないと思うんだ。父さんのお仲間に気を付かわれる事になって邪魔してしまっていると思うんだ・・・』


『そんな事ないぞ、グレンは頭がいいから、話してくれる事はとても、参考になるよ。それに、昼間だって、飛んで来た槍を止めてくれたじゃないか。もし父さんに当ったり、他の人に当って死んだり、怪我をした人が出ていたら大変な事になっていたんだよ。』


『でもね、父さん、全部、僕が止めたんじゃないんだよ。三本だけ、父さんの頭の上で止まっていたよね。あれは誰かが止めてくれたお陰で、僕が槍を纏められたんだよ。あの後から思ったんだよ。僕は、もしかしたら勝手な事をしたんじゃないか、誰かの計算を台無しにしたんじゃないかって・・・もしそうだったら・・・ごめんなさい、父さん。』


『僕は、やっぱり、賢しらな子供なんだと思ったんだ。だから、大事な事の邪魔にならないように、母さんの元に居ようと思ったんだ。』と、僕は、悲しくて泣きそうになったけど、何とか言えたよ。


『グレン、父さんの頭の上で止まった三本の槍の事だけど、グレンは誰かが止めてくれたと言ったけど、父さんはそう思わなかったよ。あの三本は間違い無く、父さんに向かってくると思って、一瞬、体が強張ったよ。そしたら、グレンが、直ぐに移動させてくれたよね。あれで、相手はグレンの力のほうが強いから、父さんを狙うのを諦めたんだよ。』と、父さんが言ったよ。


『そ、そうなのかな・・・』

『うん、それに、父さんも母さんもグレンの事は信頼しているから、決まった事を隠したり、黙っていたりしないからね。グレンはいいと思う事を自信を持ってやっていいんだよ。今回だって、仲間はグレンだけだったんだよ。』と、父さんは言うよ。


『それに、今帰ったら、母さんと行き違いになると思うんだ。』と、父さんは笑顔で言うよ。

『えっ、母さん来るの?』と、僕は驚いたよ。

『母さんは一緒に行けないとは言ったけど、待ってる

とは言わなかったからね。だから、来る積もりなんだと思うよ。

まして、これからのアシリアは当主が変わったから、商売人が見逃せない程のお金が動くんだよ。母さんがそれを放っとくと思うかい。アシリアはファンタンの商売の地だからね、当然、その仕切りはファンタンがすると、全ての商会が考えているよ。でも、父さんには商売の仕切りが出来無いから、母さん待ちなんだ。』と、父さんが、首を竦めるよ。


『分かったよ。父さん。僕が勘違いしていたよ。また、頑張るね。』と、零れそうになった涙を拭いたよ。


『グレン、頼むね。でも良かったよ。今回の件で誰も大きな怪我も死人も出なくて、領主の交替が出来るのはね。あそこで、槍を投げるとは、二十家の地の人間はそんな事はしないよ。もし、父さんなり、周りの人々が血を流すような事態になっていたら、信徒との争乱になっていたよね。すると、誓約がどうなるかの確証はないけど、誓約が消えるかも知れなかったよね。それが目的かなって。』


『グレンも良かったよ。槍を地面に突き刺してくれて、

父さん、一瞬、冷やっとしたよ。相手が怪我したらって。』

『うん、海賊相手にした時も、母さんに心配されたから言ったよ。するつもりもないし、しなかったし、した事もないって。』

『そうか、そうか。そうだよ。』と、父さんが嬉しそうに、僕の頭を撫でてくれたよ。


父さんと寝たよ。安心して眠りに就けたよ。


二十六話 完







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ