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二十ニ話 航海だよ

会合から、日が変わったよ。

領家の当主は昨日のうちに、会場を去ったよ。


新たな組合の会合が、元の本部で行われたよ。

参加者は十一の商会だよ。ズーレン商会も入れてあげたみたいだよ。

・・・ゴルシア家の希望かな?・・・


元の香辛料組合の本部は参加商会のベネッタのベネトルト商会の所有だから、そのまま本部にするんだって。

代表はロジャース様だよ。ただね、皆、仲良く、商人の本道を守ろうね、協力も忘れずにね、ってさ。それで解散さ。


帰るのに、荷物の片付けと、ごみの処理を、皆でしているよ。

荷物の片付けは、僕が仕舞っているだけだけどね。


ごみをまとめながら、父さんが言うよ。

『母さんとグレンのお陰で上手く話す事が出来て良かったよ。ファンタンとして恥をかかずに済んだしね。

・・・でも、母さんが、組合を解散しろと言った時は驚いたよ。長く、続いてきた仕組みだからね。父さんでは考えもしなかったよ。それも、グレンの聞いてきた噂話でそう言うから、余計にね。・・・新しい組合にもなったし、母さんの言う通りになったよ。』


『そんな事ないわ、父さんは、ああいう場で話をさせたら、堂々としているし、話の内容は良く分かるし、母さんより説得上手なのよ。』と母さんが僕を見てにっこりしたよ。


『あはは、少ししゃべり過ぎて、グレンに止められたけどね・・・』と、父さんは笑うよ。

『ごめんね、父さん。朝早かったから、お腹が空いていたんだ。』と、済まなそうに言ったよ。

『あはは、そうか・・・』と、父さんは笑っているね。


『ねえ、父さん母さん。香辛料はどうなるの?』と、僕は、疑問に思った事を訊いたよ。

『ファンタン商会は、ベネッタのベネトルト商会、カンターのキルト商会、タイランのタイロス商会と、協同で農園を経営しているから、変わりはないわ。一緒の商会にも供給出来るしね。他の商会は、これから、自分たちで調達するのではないかしら。香辛料の種類や格で比べれば落ちるでしょうけど。』と、母さんが教えてくれたよ。


『領主はどう思っているの?』

『領主と商会の結びつき次第でしょ。ケイロスとナント、モルドレンとモルドスは一族よ。他は、我々に頼んでくるかも知れないわね。』と、母さんは不機嫌そうだね。

・・・ケイロスの名が出たからかな・・・


借りていた場所も綺麗になったよ。いよいよ出発だね。

僕は、御者台から父さん母さん達を見ているよ。

でも、父さん母さんもエルザ姉、エリス姉も困っているよ。帰り道をどうするかだよね。やはり、ケイロス領は通りたくないよね。


海路なら、ベネッタから船に乗るか、カンター領のカレントから船に乗るかだよね。でもね、父さんが船は嫌だって言うんだ。

黙っていたけど、僕も、中小の船だったらどうしようって思ったよ。

陸路なら、カンター領から北のモティ領に入り、西のゴルシア領に迂回して、べルン領から帰るかだよね。多分十五日程だよね。


馬車でベネッタの港に行ったよ。父さんを説得してね。

フーリンゲンへの船が無いのであれば、カンター領へ移動だね。

多くの船が寄港しているよ。

船舶会館が見えるよ。


『父さん、船があれば乗るの?』と父さんに聞いたよ。

『ああ、船を見てみないと何とも言えないね・・・』と、父さんは情けない顔で言うよ。

母さんは、珍しく苦笑しているよ。エルザ姉とエリス姉は困った顔だね。


ベネッタの船舶会館は平屋だけど、大きいんだね。馬車留めに停めて、皆で会館内に向かったよ。

会館に入って、受付で、父さんが聞いたよ。

『済まないが、フーリンゲンに向かう船の予定を知りたいが?』と。

『はい、先程、入港致しました。名前はファンタン号でございます。左最奥の桟橋ですよ。予定は、お急ぎであれば、直接お訊き頂けますか。』と管理所の職員が教えてくれたよ。

・・・ファンタン号?ジョン爺かな・・・


『そうか、有難う・・・』と、父さんは返したよ。

母さんも、エルザ姉、エリス姉も気がついたんだね、三人はほっとして、嬉しそうだよ。

父さんは、不思議そうに、喜んでいる母さんを見ているよ。何か気がついたのかな。


船舶会館を出て、港の左の桟橋に向かうよ。

大きな船が見えるよ。僕が拾った大型船とは、塗装と甲板上の造作が変わっているね、でもね、大きさは一緒だね。


大型船が停泊している桟橋にきたよ。目の前の大型船の船腹は横に黒色と赤色で塗られているよ。赤が下で、七割だよ。黒の部分にファンタン号と書かれているよ。そして、フーラン家の紋章とファンタン家の馬車が船首の左右に描かれているんだね。


『随分と大きい船だね。これなら揺れないから、病気にならないかな。』と、父さんは船を見上げながら言ったよ。

僕達も頷いたよ。

父さんはファンタンの馬車に気が付かなかったのかな。何も言わないね。


降ろしてある階段を登って船の甲板に行ったよ。

人がいるね・・・おっ、ジョン爺だよ。

『坊とグレース達か、よくわかったな。』と、ジョン爺が笑いながら、近づいて来たね。

『フーリンゲンに帰るのか?それなら、出航は明後日になるが・・・。いいか?』

『ジョン爺、私の主人よ。』と母さんが父さんを紹介したね。

『そうか、初めてだな。旦那、よろしくな。皆は俺の事をジョン爺と呼ぶぞ。旦那もそう呼んでくれ。』と、ジョン爺。

『あはは、旦那か。ではジョン爺と呼ばせて貰うよ。』と、父さんも笑うよ。


『ジョン爺、済まないが、フーリンゲンまで載せて欲しいんだ。頼めるかな?勿論、料金は払わせて貰うよ。』

『旦那、何いってんだ。この船はファンタン家の物でもあるじゃないか。我等は、借りているだけだよ。料金は必要ないよ、部屋もあるから好きに使ってくれ。』


『そ、そうか。分かったよ。世話になるね。』と、父さんは、僕と母さんを交互に見るよ。

母さんは、微笑んでいるね。僕も母さんの真似をして、微笑んだよ。

『まあ、母さんが知っているなら、いいか・・・』と、父さんは、苦笑したんだ。


『坊、後で少しいいか?』と、ジョン爺が僕に言ったよ。

『うん、船を見せて貰ったら、操舵室に行くね。』

『ああ、頼む。』


父さんにとっては、船は珍しいんだね。色々な所を興味深げに見ていたよ。そして、部屋に行って驚いていたよ。

家にいるのと変わらないねって。

・・・僕も、二回目なのに、よく知っている気がするよ・・・


僕は父さん母さんと分かれて操舵室に行ったよ。

『ジョン爺、どうかしたの?』と声を掛けたよ。

『ああ、坊。坊は、前に会った時にな、海流や海風、海深の事を言っておったろ、だから詳しいのかと思ったんじゃ。儂らが詳しいのは沿岸周辺だけだからな。沿岸では操船が仲々難しいから、沖合を回って見たいんだ。』と、ジョン爺が言うよ。

『うん、多分沖合のなら乗ってたと、思うんだ。』

と言って、古い茶色の本を、取り出したよ。


『ほう、古い本を持っているな。』と、ジョン爺が感心するよ。

『家にあったんだ。多分、母さんが持って来た本だよ。』と僕は本を捲るよ。

『あっ、ここだね。此処を写したらいいよ。』

『なる程な。詳しく、描かれてるな。じゃあ、移させてもらうぞ』と、ジョン爺は嬉しそうに笑ったよ。


『これなら、チャンダーに行くのも早いね。』

『そうだな。海を行ければ安全だしな。』

『じゃあ、あと二隻は必要かな。』

『ああ。もう造り始めてるぞ。グレースが、金を集めてくれたからな。』と、嬉しそうだね、ジョン爺。

『凄いね。母さんはやる事も早いんだ・・・』

『ファンタンだからな。』

・・・ファンタンだからか・・・


船は荷を降ろすのに一日、積むのに一日、そしてベネッタの港を出発したよ。

沿岸を進めれば良いけれど、海流や海の向き、海の深さから、来る時は早く楽であったけど、帰りは大変なんだって。

ジョン爺が言うには、大型船で沖を運行するのは初だから、能力の有る者を乗せてきたけど、坊に会えて良かったって言われたよ。

・・・喜んでいいのかな・・・


船は快調に進むよ。風も、海流もファンタン島方面に向かっているよ。

行程の半分来たよ。

皆で、甲板から椅子に座って、海を見ているよ。

水面を飛ぶ魚や、跳ねる痩せた豚さんとかいるよね。

ジョン爺も操舵室から降りて来ているよ。


『ジョン爺、あの黒いのは何かしら?』と母さんが言うよ。

ジョン爺も、黒い小山を見て、固まっているよ。

・・・えっ、鯨かな、大きいわ・・・

と僕の知識が浮かぶよ。


『ジョン爺、まずくない?』と僕が言うよ。

『おい、速度落せ。回避だ、回避。』とジョン爺が怒鳴るよ。

しかし、急には止まれないよ。回避もゆっくりだよ。どんどん近づいていくよ。


大きな口が開いたよ。船を飲み込む積もりだよ。海の水が口の中に流れ込んでいくよ。操作が効いていないよ。

『ぼ、坊、浮かしてくれ。』とジョン爺が叫ぶよ。

・・・おい、急に、何いうのかな、ジョン爺は・・・


必死に浮かせたよ。黒い大きく開いた口が目の前だよ。更に持ち上げたよ。大きく開いた口の中の赤い色を見ながら超えていくよ。何とか超えれたよ。


黒い大きな生き物から少し離れたよ。

大きな船をゆっくり、ゆっくり、降ろしていくよ、水面に。それでも波は立つよ。大きな波が。

黒い大きな生き物は、何事も無かったように浮いてるよ。

皆は其々、良かった、とか、危なかった、と話しているね。

ぼくも冷や汗が流れたよ。


僕は父さんを見たよ。父さんは、椅子の背を倒して、寝ているよ。

『母さん。父さんはずっと寝ていたの?』

『ええ、そうみたいね。』と、母さんは笑ったよ。

『良かったよ。もし、父さんが起きていたら、母さんを危険な目に合わせたって、ジョン爺は嫌われるし、僕と母さんはジョン爺に会わせてもらえなくなるよ。それに二度と舟に乗せて貰えなくなると思うんだ。』

『うーん・・・』母さんは唸るよ。

エルザ姉もエリス姉も頷いているよ。


『・・・そうね、父さんは母さんの事になると、とても心配性になるのよね。グレンはよく見てるわね。でも、父さんに起きた事を黙っている訳にいかないわよ。』と母さんが僕を見るよ。


『あはは、母さんが黙っていると言ったら、どうしょうかと思ったよ。父さんは、まだ寝ていなければいけなかったからね。・・・起きれて良かったよ。』と、父さんが微笑んでいるよ。


『父さんだって、あんな騒ぎの中で寝ていられないぞ。もし、ぶつかったらどうしようかって、必死に、考えていたんだよ。でも、グレンがどうにかしてくれるって分かったからね。安心して寝た振りしてたんだよ。』


『それに、自分たちの身に起こった事を人の所為にはしないぞ。自分たちの判断、や行動の結果だからね。まあ、母さんやグレンの事になると見境いなくなるかも知れないけどね・・・あはは』

『ごめんなさい、父さん。また、賢しらな事言っちゃって・・・』

『いいよ、グレン』

父さんは、僕の頭を撫でて、許してくれたよ。


ジョン爺も他の船員の人達も、飛ぶ魚や跳ねる豚に似た生き物も、まして、あんな大きな黒い生き物は見た事ないって。だから、見張り台を作って、人を置くって言ってたよ。

・・・海は安全な訳じゃないんだよ・・・

と、僕の知識が浮かび上がるよ。


二十二話 完

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