二十話 会合だよ
会合が始まったよ。まずは挨拶だね。商会同士の挨拶は終わってからだと、父さんは言ってたね。
僕は、父さんに連れられ、先ず、アシリアの領主様に挨拶に言ったよ。
僕は、アシリア家のフェルト様にお会いするのは初めてだよ。でも、フェルト様のお顔は怖い顔して、そっぽをを向いていたね。だから、お辞儀をしただけにしたよ。
父さんは、嫡男が成人のあかつきには、アメリアに戻すから、と話をしたよ。
でもね、フェルト様はね、すぐに、本拠を置かないのなら、香辛料組合の商権をパール商会に譲れと、無愛想に、顔を叛けたまま言われたよ。
それで、父さんはね、パール商会では他の組合員が納得しないし、ファンタンは譲る積もりは無い、と答えて、直ぐに辞去したよ。
僕は、ずっと下を向いていたけど、父さんに引かれて去ったよ。
父さんはとても怒っていたように思ったよ。
・・・フェルト様は大人げないよね。さすがにウォーター・ファンタンの息子であっても、子供なんだよ、泣くぞ・・・
次に、レンティアのスタナ様に挨拶したよ。
スタナ様は、僕の瞳を覗き込んだよ。
『ご両親が、ご顕在で何より。』と喜んでくれたよ。
『これで、妾の懸念材料も晴れた。』と言われたよ。
だから、僕は、伝えたよ。
小さな声で、スタナ様だけに聞こえるようにね。
『スタナ様、ご懸念は中央で御座います。』と。
『な、何と・・・』と、目を剥かれたよ。
スタナ様は、僕をじっと見ているよ。
・・・スタナ様は、僕の事を心配していたのかな。
ゴルシアのユーリー様にも挨拶したよ。
ユーリー様も、父さん母さんの無事を喜んでくれたよ。スル村の屋台には香辛料を安く提供しているから、安心してくれと言われたよ。
ベルンのバリアス様は、父さんに、怪我人を治療してくれた事、砦の制圧の助言をくれた事を感謝していると、父さんに話してくれたよ。後で息子を紹介してくれるって言っていたよ。
父さんは制圧の言葉で、顔色が変わりかかったよ。でも、助言の言葉で元に戻っていたよ。
・・・父さん、どうしたのかな・・・
フーラン家のご当主はドネル様と言われるんだって。
初めましてと、子供らしく挨拶したよ。
ドネル様は、僕の頭を撫でて、ありがとう、感謝しているよ、と言ってくれたね。とても優しいお顔だったよ。
父さんは僕の頭を撫でると、代表の席に行ったよ。
僕は母さんの傍らに戻ったよ。
母さんは、心配そうに僕を見ていたけど、僕が笑うと、微笑んでくれたよ。
会合での領主様への挨拶も、それぞれの時間が終わったね。で、議題の討議が始まったよ。
第一の討議は、フーランの商権の件だよ。
モルドス、ゲッティ、マントス、チェストの商会の順番で意見を述べたよ。趣旨は、一つの商会が二つの商権を持ったことはないから、認められない、新たな商会が決まる迄、組合長管理にすべきだと。
皆、同じ事を言うんだね。
それと、ササビー帝国が如何思うか、と言うことをモルドス商会は言っていたよね。ササビー帝国は香辛料の道があるだけだけどね。
・・・背後に帝国が居ると言いたいのかな・・・
他の商会は意見をのべなかったよ。
で、父さんの番だね。
父さんは、まず、何故、組合長預かりと言われるのか、理解できない。と、述べたよ。
『最近のケイロス家は、明らかにフーラン家に圧を掛けているように思いますが。それと、我らがケイロス家に拘束され、労働を課された件、ナント商会を通して、ケイロス家への説明と謝罪を求めているが、今迄、返事はありませぬぞ。まず、そのご返答を頂きたい。ナント殿、如何かな?』
『その件に付いては、申し入れをしているが、ご返事が未だ頂けず、あい済まぬな。』と、ナント様がにやついているよ。
僕は母さんの傍らに座って、それを見ていたよ。
・・・感じ悪いね・・・
『成程、ナント殿は組合長としての責務を果たす事が出来ぬと。では、ここで組合長の弾劾と、更迭の動議を申し出を致しましょう。何せ、多くの商人が半年も強制労働されていたのに見て見ぬ振り。まして、言葉ひとつ、あい済まぬ、で済まされようとは。組合長の能力及び信頼に、疑問を持たざるを負えませぬ。勿論、商業組合本部にもケイロス領内の商会全ての、信頼の調査をお願い致しておりますよ。』と、父さんが話したよ。
ナント様は苦虫を潰した顔をしているよ。
場内はざわついているけど、誰も何も言わないね。
『副会長殿は如何お考えですか?動議についての採決をお願い致したいが。』と、父さんは、モルドス様に話を向けたよ。
『そ、その事は・・・ササビー帝国が何と言うか・・・』とモルドス様が慌てたよ。
『先程より、モルドス殿はササビー帝国の名をしきりに出されておるが、私には何を仰りたいのか、とんと解りませぬ。具体的にどう影響するのか、お聞かせ頂けると有難いが?』と、父さんは、モルドス殿を、じっと見ているね。
暫く時間が経ったよ。
『・・・』モルドス殿は何も言われないよ。
顔を、父さんから叛けたままだね。口はヘの字だね。
『まあ、何も聞いても、まともに答えて頂けぬ。まして、規則に則った動議も採決しようとされぬ。これでは、もう組合としての、体をなしておりませぬぞ。
致し方在りませんが、今日を持って、組合を解散しようでは在りませんか?他の商会の皆様、如何でこざいましょうや?』と、父さんが行ったよ。
一部の方々がざわついているね。
それに構わず、
『この体たらくでは解散も止む負えませんな。』とロジャース様が賛成されたよ。
『我が商会もこの度は随分と損害を受けた。それを助けて頂けぬような組合は解散して、組み直すべきであると思う。解散に賛成だな。』と、ベルン領のハーバー様も賛成され、他の七つの商会も賛成する意見を言われたよ。
賛成が四割を超えたので、自動的に組合は解散なんだって。
残った商会の方々が、賛成された商会の方々を、翻意するよう、必死に説得されていたね。
で、ロジャース様が父さんに聞いたよ。
『ケイロスは別と致しても、四商会においては、いかがお考えかな?ファンタン殿は』
『はい。商会の同士の付き合いに含むものありません。我らは、商人でありますから、商売にはあっての約束はお守り頂いておりました。しかし、この五つの商会は領家も含め、今後荒れることに成りましょう。そのような商会と付き合っても、利が薄いだけで無く、下手すれば、没落に巻き込まれ、多大な損害を被る事になりかねません。よって、お付き合いは如何なものかと。』と、父さんが説明したね。
『それは何故に?』と、ロジャース様
『ササビー帝国では近頃、皇太子による血の祝宴が終ったと、続いて血の粛清が始まると噂されております。そして、皇太子の目が赤いとも。』と、ロジャース様を見られたよ。
ロジャース様は何の事か分からず、首を傾げていられる。
『そ、それは真か・・・』と、スタナ様が呟かれたのが聞こえたよ。ロジャース様がスタナ様を見られたよ。
スタナ様は顔を落とされ、首を振られているよ。
『おそらく、皇太子が復讐を始められた、つまり前王夫妻を弑た者達、それに関わった者達を同じ扱いに、という事で御座いましょう。五つの商会は、王弟であった頃の王を、随分と支援されていたようでありますね。』と、父さんが話すよ。
それを聞いた、五つの商会の方々は顔を見合わせ、何か話しているね。
『そんな馬鹿な・・・あの王が・・・』と言われたのが聞こえたよ。
三つの商会の方々が北叟笑んでいるね。
それを、他の商会の方々が見ていたのを、僕には、分かったね。
『ケイロン家のご当主は、ササビーの皇太子のある事に気が付かれ、生き残る道を探られたのでありましょう。それが、フーラン家とベルン家を手に入れ、そして、残り十七の家を動かし、帝国と対峙しようと考えられたのでしょう。』と父さんは話してるよ
僕は、ナント様を見たよ。ナント様は知っていたのか、苦虫を噛み潰したような顔だね。
人の気配が慌ただしいね。
入口に人が立たれたね。四、五人だね。
急に現れた内の一人が言われる、
『それは、全て推測であろう?その証拠はあるかな?』
・・・誰だろう、知らないな・・・
『何処の領家のご当主様か存じ上げませぬが、我等は、たかが商人でございます。商人は情報を精査し、つなぎ合わせ、そして自分たちの立ち位置を決定するにすぎません。それで、利益を最大に、または損害を最小にする、そうやって生き延びて来たのでございます。その為の証拠など、必要ありましょうか?その判断の結果、五つの商会と係わり合うのは、御免蒙りたい、と云うことでありますが。』と、父さんが質問した人に言ったよ。
その人が答えるよ。
『我等が潰れると申すか?』
父さんは、その人の方に向くよ。
『荒れるとは申しましたが、潰れるとは申しておりませぬ。我等商人は、支払い可能な方々と、お付き合いしたいとは思いますが・・・資金のない方々とは、交渉もいたしませぬ。』と父さんが返すよ。
中央に向き直った父さんが続けるよ。
『次いでで御座いますが、三つの商会のお話を致しましょう。ブランダ、サンディ、トゥーンにつきまして、ファンタン商会は、信用・信頼に値しないと判断を致しました。商人が信用、信頼を裏切る、これは真に致命的なのです。そんな商人と付き合う事は、付き合った商人も信用されなくなりますから、付き合わない、これは当然の帰結です。』
三つの商会の人が下を向いたね。
『ふむ、ファンタン殿。これも情報の精査からか。』とスタナ様が聞かれたよ。
『スタナ様、商人にとっての信用は誠に大事でございます。間違えれば、身に返って参ります。故に、しっかり事実を確認を致しております。三商会の方々も、心当たりはあるはずです。自分から言いはしないでしょうし、認める事もございませんでしょう。ただ、皇太子を怒らせている事は、想像できましょう。それが血の粛清となるかは何とも、でございますが。』
『組合の商会への背信、皇太子の怒りの事由はパール商会への再販である事は申しておきましょう。
我ら組合の理念は、公正に適正にであります。再販者には販売をせず、自ら、消費者へ一定の純度で、一定の価格で販売する。が約定であります。それを破られては組合の存在価値は有りません。』
『三商会はササビー帝国の皇太子側より香辛料を譲り受け、直接販売したのですが、純度が多少低く、使われる方より不満が出たのでしょう。価格を下げて不満を凌いだ。ところが、他の純正の使用者からも、一定の価格なのにという不満が出て、これまた下げる。それで、一定の価格が下がったように思われたのでしょう。これが噂となって広がる。しかし、これは組合の協定に違反する。そこへ、パール商会が純正も入れてくれれば、帝国産を引き取ると謂われ、売却した。それで香辛料が不足し、価格が上がった。更にそれを隠す為と香辛料の買付けを行なう為に、塩の買占めをパール商会と組んで別の地で行なった。と、こんな顛末であります。』
そこで、各商会や領家の方々からざわめきが起きたよ。三商会を睨んでいる方が多いね。
三つの商会の方々は、慌てて、会場を出て行かれたよ。
『パール商会とはアメリアに本拠を置いてはおりますが、仕入は見えるのですが、販売が行われている形跡が確認出来ません。中々に実態の不明な商会と、商業組合で囁かれておりました。』
『しかし、最近になり、アメリアにカンジナビアの商人が定期的に訪れていた事、ササビーの商人が何かの調査に現れていたことが分かり、商業組合の更なる調査で、パール商会はカンジナビア帝国の代理人と断じています。皆様ご存知とは思われますが、ササビー帝国とカンジナビア帝国の関係は、とても、宜しくないことはご存知かと。』
『皇太子はケイロスへの進行の道を作る、その目的で香辛料を売ったのでしょう。しかし、ササビーの商品をカンジナビアに流すような馬鹿者がおるとは思いもしなかったでしょう。皇太子の赤い目が、怒りで、益々赤くなられたであろう事は、空恐ろしい気が致します。』と、父さん。
『ファンタン殿、話は違うが、皇太子が赤い目と言われたが、赤い目について、何かご存知か?』と、スタナ様が訊かれたよ。
『私が、昔、父より聞いた事がございます。それは、知恵憑きとも鬼の子とも、魔物の子と呼ばれた、ある能力を持った者達の一部に赤い目が現れる事があると。この世に生まれる者は全て魔力とか能力を持って生れますが、それは五歳に成らねば発芽しないと言われております。しかし、その者達は生まれて目が見えるようになると、直ぐに、能力を示めし、非常に優れた発想・知識、見識を有すると。本来であれば、喜ばれ、大切にされるはずなのですが。その子達は、精神は幼子と同じなのです。普通に両親が大切に育てれば、能力のある大人に育つと聞きました。しかし、親がいなくなったり、殺されたりしたなどの時の、親に纏わる深い悲しみにより、目が赤くなると、そして、その目故に、忌み嫌われるようになった。と聞き及んでおります。』
『そうか。』と、スタナ様が頷かれるよ
『私は、これで失礼する。』と、声が聞こえたよ。アシリア様だね。慌てて出て行かれたよ。
・・・パール商会に懸念があるのかな、それとも赤い目かな・・・
二十話 完
校正 辛料組合 → 香辛料組合




