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十八話 トールス家と仲良くなったよ

朝、皆で食事処で食事をしているんだ。

遠くの山々の緑が、空の青さと相俟って、綺麗だね

今日は、まだ予定が決まっていないから、エルザ姉とエリス姉はアメリアを観光したいと言ってたね。母さんは、いいわね、って賛同していたよ。


僕は、一人で旅をしている時に、五歳になったんだ。だから、キンバリーが、アメリアでは、五歳になった子供の多くが洗礼に行くと言っていたのを思い出して、今、僕たちはアメリアにいるから、父さん母さんに聞いて見たよ。

『父さん母さん、僕は洗礼に行かなくても良いの?多くの子供が行くんでしょ。』


父さんと母さんは、顔を見合せてから、母さんが、

『グレンは、洗礼に行きたいの?洗礼という儀式は、西方神宝教会が行っていてね。信者はアシリアとサバだけね。他の地域にはあまり居ないのよ。母さんのファンタン家は、商売の神様シンと海の神様ネプを祀っているわ。でも、その神様達は、西方神宝教会のように、その神様だけを信仰する事、その教義を厳格に守る事、と云う神様では無いのよ。母さんはアメリアで生まれたけど、祀っている神様が違うから、洗礼に行ってないわ。』と、教えてくれたよ。


父さんも、声を小さくして、

『父さんは、洗礼を受けたよ。ウォーター家は多少の付き合いはしていたからね。洗礼はね、司教という人が、神水を飲んだ子供達の額に手を翳すんだ。そして、その内の一人か二人は別室に連れて行かれて、それで、終わりだったよ。その連れて行かれた子供を見てから、父さんの父さんを見たんだ。そしたら、あの子たちは、教会で神の傍に仕えるかも知れないって、父さんの父さんが冷たく言っていたのを、覚えているよ。』

『父さんの父さんも、それ程教会に深く関わる事はなかったよ。寄付は、多少はしていたけどね。ただ、父さんの父さんが亡くなると、熱心な信者だった父さんの父さんの為に、土地を教会に寄進したほうが良いと、司祭という人々が、勧めに、よく来たよ。寄進をすると、父さんと父さんの子孫が末代まで繁栄するとか言ってたね。父さんは、そんな事を言ってくる司祭が信用出来なくなってね。付き合いを段々に断つようにしたんだ。』と、苦々しげに、説明してくれたんだ。


『もし、グレンが行きたいのであれば誰れかに頼んであげるけど、父さんと母さんは勧めないけど・・・。どうするかい?』と、父さん。


『ううん、ただ、訊いてみただけだから、洗礼を受けたい訳じゃないんだ。』

父さん母さんがほっとしているよ。そんなに良くないのかな?


すると、館の人が、近付いて来るね。見た事のある人だね。受付の前に対応してくれた方だよ。

父さん母さんに、館主が挨拶をさせて頂きたい、と話をしているよ。

父さん母さんは、後程、受付に伺う、と返事をしたね。部屋で話をしないのは、僕に、係わりを持たせない為だね。


父さん母さんは食事の後に、受付に向かったよ。エルザ姉とエリス姉に何か言ってからね。

僕は、部屋に戻ってから、二人に聞いたよ。

『何を言われたの?』って。

そしたら、なるべく僕に、大人を近付けさせないようにだって。

随分、心配させてしまったよ。


父さん母さんが戻って来たよ。

二人とも御機嫌だね。

『パレス館の館主と嫡男の方が挨拶に来たわ。ファンタンの代理をパレス館に依頼したら、その嫡男の方がとても、喜んでくれたわ。ファンタンの代理をさせて頂けるのは宿としても、格が上がるから、とても嬉しいって。』


『それと、トールスの長男の方も別に来ていて、パレスの館主が紹介してくれたわ。父親と弟の事を詫びていたわ。トールス家の先代様は、とても立派な方だったのよ。その先代様からの詫び状を持って来られていたわ。』と母が話すよ。


『先代様が当主のしている事を知って、激怒されたらしいわ。当主に、儂が苦労して作り上げた館を潰すつもりか、普通に商売が出来ないのか、ってね。もし、隠居しないなら、絶縁するって言ったらしいわ。それと、馬鹿な孫は表に出すな、ってね。』と、母さんは厳しい顔だね。


『文で、先代様が、その孫のした事を詫びられていたわ。で、先代様が言うには、このままだと、潰すしかないが、潰しても良いとも思ったが、それでは、出来の良い孫はともかく、雇い人には、大変に申し訳ないから、潰さない為にはファンタン家にお願いするしかない。身勝手な言い分であるのは重々承知しているが、お力添えをお願い申し上げたい。具体的には、出来の良い孫からお話しをさせて頂く。是非に、お聞き届け頂きたい。と書いてあったわ。』と、母さんが僕を見たよ。


『グレンはどう思う。グレンの言うとおりにするわ。』と母さんが言うよ。

父さんは黙って、僕を見ているよ。


『父さん母さん、僕はトールス家が潰れていいとは、一度も思わなかったよ。他の店を苛めていたから、そんな事はお止め下さい、と言うつもりだったんだ。ファンタン家の名前がそこまで影響するとは考えなかったから・・・。だから、出来れば潰れないように援助してあげてほしいんだ・・・』

と、話を聞いて、とても悲しくなったし、した事に後悔もしたんだ。涙も出そうになったよ。


『うん、グレンがそう云う気持ならそうするわ。』と母さんが微笑んでくれたよ。

『潰れないようにしてあげられるかな。』と僕は父さんと母さんを見たよ。

『ええ、当面の資金と塩と香辛料を出して上げれば、ファンタンが援助していると広まるわ。そうすれば、客も安心して戻るわ。』と母さんが言うよ。

父さんは、満足そうに、頷いているよ。


『ファンタンの名前って凄いんだね。』と僕が言うと、

『そうよ。扱う商品が、香辛料、塩、砂糖、薬草、薬味だから、影響が大きいのよ。グレンも気を付けるのよ。』と母に言われたよ。


父さんと母さんは午後から再び、トールス家の長男の方と話をしたよ。

それ程時間も掛からず戻って来たね。

で、その長男の方の希望通りの援助をして上げたって。

長男の方は、大層感謝して戻っていったと、母さんが話してくれたよ。


『グレンが貰った迷惑料は返したからね。』って、母さんが笑っていたよ。

僕も、心の内では、やり過ぎだったかなって、後悔していたから、母さんのしてくれた事はとても嬉しかったよ。


そして、弟は店に残さず、独立させたほうが良いと忠告したって。僕もあの人は、長男の方の害にしかならないと思ったよ。

長男の方も、ご忠告感謝します、戻ったら祖父に相談します、と言っていたって。


僕は、アメリアに来て、もう一つ気になっていた事があるんだ。誰が、父さん母さんの店を買ったのかって。売れた価格が相場の二倍なんだよね。


母さんに島でお金を渡したら、半分のお金が、何でこんなに多いのと驚かれたよ。


母さんは商人だから、家にある資金や在庫の数量、それに、色々な商品の相場はしっかり頭に入れているって。家と店が売れる値段も分かると言ってたよ。


僕が話した内容から、今あるお金も分かるんだって。今、僕達が持っているお金は、母さんが考えていたお金の額からはとても多いんだって。店をもう一軒売ったぐらいだって。

それで、母さんに、店の売却証明を見せたよ。購入者は秘匿されていたけど、売却価格は載っているよ。

母さんはそれを見て、とても驚いていたよ。普通の二倍の価格だって。


『ねえ、父さん母さん。前の店にも行ってみない。誰が買われたか、会ってみたいんだ。相場の倍で買ってくれたんだよね、お礼を言わないとね。』

『そうね。母さんも興味あるわ。』と、乗り気だね、母さん。

父さんも頷いてくれたよ。


前の店へはパレス館からは馬車で行く距離だね。僕の馬車は目立つから、パレス館で馬車を借りたよ。街の中を見て回りながら、元の店の前に止めて、様子を覗いたよ。

僕達は、色々あったから、いきなり行く程、不用心では無くなったよ。


店で働く人達を見て、何処かで見た人達だと思ったよ。

『母さん、島で、後見に来た親族の話をしたよね。あの四人の人に似てるんだ。いや、あの人達だ。』

『そうなの、グレン間違いはないの?。』と母さんが訊くよ。

『うん。キンバリーもメアリーも会っているからね。何なら確かめてみればいいよ。でも、間違い無いよ。あの時の四人だよ。組合の人も連れて来て、文句言ってたよ。組合の人も覚えているかな・・・』


『あなた。・・・あなたの親族の人に会った事が無いのだけど、あの人達はあなたの親族なのかしら?』と、母さんが父さんに、ちょっと冷たく訊くよ。

『いやいや、私に、ウォーターの親族と呼べる者はいないよ。父母も祖父母も、兄弟はいなかったからね・・・』と父さんは困惑しているよ。


『店名も無いし、売っている商品も統一がないわね。何か、うちと似てない?』と母さんの目尻が上がったよ。

『父さん母さん、行こう。関わりになると碌な事が無いと思うよ。』と母さんを見たよ。


『うん?・・・グレン何か知っているでしょう。話しなさい。』と、察しの良い母さんの顔が怖いです。

『気付かれる前に、離れたほうがいいよ。部屋に戻ったら話すからね。』と、母さんに上目遣いで言ったよ。

変わらず、母さんは不満そうだよ。

父さんはいつもの苦笑いだね。


エルザ姉とエリス姉の希望を聞きながら、アメリアの街を見て廻り、多くの店にも入ったよ。

そして、パレス館に戻ったよ。


部屋に戻ると母さんが目で催促したよ。

で、僕は、溜め息をついてから話したよ。

『父さん母さん。あの人達は、商業組合の職員の方と揉めた後に、パール商会の建物に入っていったよ。だからね、あの店はパール商会が運営していると思うんだ。』

母さんの顔が怒っているよ。

でも、僕は続けたよ。


『でもね、二、三日の内に閉めると思うよ。だって、パレス館で、ファンタンの店が開くんだよ。そしたら誰も買いに行かないよね。』と、僕は微笑んだよ。


その話しを聞き終わった母さん、

『うん。グレンの言う通りね。見なかった事にしておきましょう。』と、笑ってくれたよ。

父さんも微笑んでいるよ。


もう、用事は済んだから、長く居ても碌な事には成らないから、明日早めに出ようという事になったよ。


父さん母さんはパレス館の館主とその長男の方に挨拶を済ませていたね。


朝に、父さんの目立たない茶色の馬車でアメリアの街を出たよ。なるべく、気が付かれ無いように、馬車を走らせたよ。

他家の領都に着く毎に、父さんは、衛士さんに領家へ、商業組合に商会宛てのお詫びや挨拶の文を届けていたね。


十八話 完








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