十五話 海賊さんと話をしたよ
ファンタン島から離れたよ。
いきなり、船を止めてみたよ。白い波がたったね。
今度は、蛇行してみたよ。白い波も斜めに流れてる。海賊船は右往左往、操船に、必死だね。
教えて貰った、海賊の居る小島に着いたよ。小さな島だね。大型船は寄せられないね。
でも、小島の近く迄は、行けたね。
海賊の親玉さんらしき人も、桟橋に居るよ。女の人も、多く居るんだね。
海賊の親玉さんに話し掛けたよ。拡声器でね。
『海賊の親玉さん、話をしませんか?嫌なら嫌で構いませんが。』と、声を張ったよ。
『何の話だ?』と応じてくれたよ。
『誰に頼まれたか、分かっていますよ。大人しく、ここから、出て行ってくれませんか。』と、僕は叫んたよ。
『誰に頼まれたかはともかく、出て行くつもりはねえんだよ。』と、笑ってる。
『では、仕方有りませんね。今から軽い波をおこします。次には、大きな波ですよ。船を転覆させますよ。島も波が被りますよ。全てが流されますよ。ゆっくり考える時間はないですよ。急いで考えて下さいね。』と、伝えたよ。
僕は船を回したよ。それを見た海賊は、皆がびっくり固まったよ。僕は船を浮かせて落としたよ。白い波はゆっくり広がったよ。幾つも、幾つもね。
『待て、待て。分かったから待て・・・話をしよう・・・』と、海賊の親玉が手を振って、言われたよ。
『うん?どうしようかな・・・誰に頼まれましたか?』と、聞いてみたよ。
『ケイロスの領主とナント商会だ・・・』
『なるほど。それで、直ぐに、出て行ってくれますか?』
『ああ、出て行く。急いでな。それでいいか?』
『はい、それで結構です。よろしくお願いしますね。』と、僕は言ったよ。
『では忠告をお一つ。僕らからしたら、あなた様は生き証人です。狙う道理は有りません。しかし、その方々にしたら、死人に口無し。それが都合がよろしいかと。ですから、その方々から狙われますよ。この様な島に居るより、大陸のほうが安全ですよ。クックックッ。』と、教えて上げたよ。
海賊の親玉さん、青褪めていたよ。
『海賊の親玉さん、これで帰りますね。お願いしますね。』と、僕は船を回して、ファンタン島に戻るよ。
・・・簡単に終わって良かった・・・
ファンタンの港では、まだ荷を皆で分けていたよ。
船をゆっくり、ゆっくり桟橋につけたよ。
桟橋には母さんが居たよ。
母さんは僕を待ってくれていたんだね。
船が桟橋に着くと、母さんは、直ぐに船に上がって来たよ。
『グレン。何かされなかった?痛い所はない?』と母さんは心配そうな顔で、僕の体を見て、触ったよ。
『大丈夫、母さん。何もされてないよ。』と、僕は手を振ったよ。
安心した母さんは、今度は怖い顔で訊くよ。
『海賊はどうしたの?』
『うん、島から出て行くって、約束してくれたよ。』
『海賊で、死んだ人はいたの?』
『母さん。誰も、死んでないよ。僕だって人を殺める事なんてしたくないし、した事もないし、しないよ。』
『そうね。そうね。』
それを聞いた母さんは、とても、とても喜んで、抱いてくれたのさ。
・・・母さんの困った顔は、僕が人を殺めたりすると思ったのかな・・・
『グレン。グレンは船を仕舞えるの?』と、母さんはじっと僕を見ているよ。
僕は、伏し目がちに母さんを見て、答えたよ。
『うん、仕舞えるよ・・・』
『そう、母さんより、すごいのね。』母さんは、僕を見て言ったよ。
僕は目を上げたよ。
『母さんも、仕舞えるの?』
『ええ、グレン程ではないけどね。だから、父さんと仕入れに行くのよ。』
『じゃ、僕の能力は、母さんのお陰だね。』と、僕の心が躍ったよ。
僕はとても嬉しくて、母さんを見たよ。
母さんは笑ってくれたよ。
『グレンは頭もいいのね。』と、母さんがまた言ったよ。
『・・・頭が良いか、分からないけど、大人のように考えられるんだよ。』と、僕は目を伏せたよ。
・・・母さん、子供が、頭がいいなんて、おかしいと思わないの・・・
母さんは笑って、頭を、撫でてくれたよ。
『グレン、母さん父さんは嬉しいわよ。でも、他の人はどう思うかわからないから、気をつけるのよ。あまり出さないようにね。』
母さんの顔は優しいよ。僕は母さんの顔を見て安心したよ。
『船はどうするの?』と母さんは、僕に聞いたよ。
『うん、僕が持っているより、島の人が上手く、使えると思うんだ。だからジョン爺にでも上げようかなと思うんだ。母さんはどう思う?母さんに任せてもいい?』と応えたよ。
『そうね。確かにね。では、母さんがジョン爺と話すわ。』
『うん、そうしてね。僕は五歳だからね。面倒な事は嫌なんだ。』
母さんは僕を抱いて笑ったよ。
船は、船の色を塗り直して、ジョン爺たちが共同で使うことになったよ。利益の五分を送ってくれる事になったよ。やはり、母さんは商売人だね。改めて、思ったよ。
母さんの島の実家に来たよ。
母さんは、
『代々の御先祖様が住んでいた家だから、大切にしているのよ。』と、教えてくれたよ。
『グレンもお願いね。』と、頼まれたよ。
敷地も広く、綺麗な庭だね。庭や部屋から、青い海も一望出来るね。建物も平屋だけど、広いんだね。
母さんの、両親がいないのは知っていたけど、手入れが行き届いていたよ。。
女性の護衛の二人も一緒に来たよ。。驚いたのは護衛の人は二人共、親族の女性なんだよ。母さんよりも若いんだね。今見ても、エルザさんと母さんは似ているよね。
親族で思い出したよ。
アメリアでの出来事を母さんに話したよ。母さんは、父さんの親族は居るかもしれないけど、あった事は無い、と言ってたよ。
『グレン。家と店は売ったんだよね。在庫はどうしたの?』と、聞かれたよ。
『うん、勿論、お金を含めて、在庫品や家具や道具、母さん、父さんの着る物も、家に有った物、全部、持って来たよ。』と、小声で話したよ。
母さんはにっこり笑って僕の頭を撫でてくれたよ。
大切な物があるのかな。
『母さん。お金は渡すね。』と言ってみたよ。
『・・・半分、もらうわね。小さいお金もね。』と、少し考えた母さんは、言ったよ。
母さんと、手を握って、移す事を思ったよ。
・・・うん、初めてだけど、出来たよ・・・
母さんは、半分のお金の額の多さに驚いていたね。
『父さんにお金は渡したの?お父さんはお金を持っていなかったのよ。』
『うん、金版五枚を渡そうとしたんだよ。そうしたらね。重いから、金貨二枚でいいよ、って。』
母さんは苦笑だね。
母さんは、半年近くも島に居たから、目的は済んだって。だから、父さんに早く会いたいって。
僕と母さんは、フーリンゲンの宿、父さんの所に戻る事にしたよ。
護衛の青い髪のエリスさんと、僕が母さんと間違えそうになった、金の髪のエルザさんも一緒にいくよ。雇人がいないから、替わりに手伝って貰うと言ってたよ。ちなみに、父さんも金髪だよ。
ちなみに、エルザさん、エリスさんが、おばさんみたいだから、さん付けで呼ばないで姉と呼んでと言うのでエルザ姉、エリス姉と呼ぶ事にしたよ。
船は、漁師さんの、小型の船に乗せて貰うことになったよ。小型の船は揺れるんだね。僕は気持ち悪くなったよ。母さんと二人は平気なんだね。
母さんには、楽をしなければ、そのうちに、慣れるから、と言われたよ。
・・・早く、着かないかなあ・・・
フーリンゲンの港についたよ。母さんは感謝を言って、お礼を渡していたよ。漁師さんも、そんなつもりではないからと、言っていたけど、喜んでくれたよ。
宿までのんびり歩いていったよ。僕の気分も良くなったんだ。
宿の部屋に行くと、父さんは驚いていたけど、直ぐに、母さんと抱き合って、無事を喜んでいたよ。本当に良かったよ。
父さんと母さんは、落ち着くと、今後の事を話していたね。なにせ、僕がアメリアの家と店を売ってきたからね。
それを聞いた父さんは、特に、何も言わずに笑っていたよ。
僕は、島で、母さんと話をしたんだ。父さんと母さんがいるから、もう、五歳でいいよねって。だから、話には加わらないんだ。
エリス姉とエルザ姉も、後から加わって、何か決めたみたいだね。
父さんと母さんはフーリンゲンの街で、家と店を探し始めたよ。父さんは、ファンタンの名前はフーランではとても由緒ある家の名だから、フーリンゲンに住むことにした、と言ってたよ。
フーリンゲンはやはり港で知られている街だよね。
だから、僕は、食事の時に、船の操作や、漁を学ぼうかなと、言ったんだ。
そしたら、父さんがね、
『父さんは剣しか使えないし、それも大した事ないけど、母さんはとても強いから、安心しているんだよ。だからグレンにも、身を守る為にも剣を学んで欲しいな。』って言うんだよ。
で、僕は母さんを見たんだ。母さんは肩を竦めていたね。
多分、母さんは、能力を使うから強いんだ、と思ったよ。
・・・後で、母さんに聞いてみよう・・・
十五話 完




