十三話 父さんを見つけたよ
朝が来たよ。
僕はね、街道の先の高台から見ていることにしたんだよ。
中々に護送馬車は、来ないよね。もう、捕まる人は居ないかな。
そろそろ、昼時だよね。馬車は仕舞っているからね、地面に転がる五歳の僕には辛いんだよ。
馬車の音だね、あの音は。粗末な作りの護送馬車。ゆっくり、ゆっくり動いてる。これなら僕でも追えるんだ。
その護送馬車は、山側に向かって行くよ。随分と長い時間、移動したよ。灰色の荒れ地と白い砂利石が続く中をね。
もう、そろそろ、日が暮れるね。
遠くで、石を叩く音がするよ。
ここは鉱山なんだね。何が採れるんだろう。気になるね。道の先は、柵で止められている。
深夜に柵を越えて行ったよ。小さな山を越えて向こう側。テントが沢山並んでる。小屋もあるんだね。護送馬車も三台並んでる。
またまた、朝が来たよ。
僕は柵の傍らに、護送馬車、待って居るんだよ。
朝早く、一台の護送馬車が、来たんだよ。検問所まで戻るんだね。
護送員は二人だね。僕を見て、驚いて、馬車から降りて来たんだよ。
・・・ごめんなさい、あなた達は悪いわけではないですが、恨むなら、馬鹿な領主を恨んでね・・・
護送員の後ろに現れた、キンバリーとメアリー、一人づつ拘束したよ。しっかり縛って、目を塞ぐ。
護送馬車の向きを変えて、向かうよ採鉱場。
採鉱場に着いたよ。僕は馬車を降りて、キンバリーとメアリーを連れて歩いたよ。採鉱場は平坦で、石がごろごろしているね。
足枷をした人達が並んで、石を砕いている人と、砕いた石を運んでいる人がいるんだね。
その作業をしている人達に、僕は大声を上げたよ。
『グレンだよ。父さーん、迎えに来たよ。居るなら、手を振ってよ。父さーん。』
僕の声を聞いた作業の人達が驚いているよ。
採鉱場の管理人が、四人、剣を握って、僕に近づいて来たよ。
『お前らはなんだ?』と、一人が怒っているよ。
『父さんが此処に居るって聞いたから、迎えに来たんです。』と僕は言う。
『何を言ってるんだ、ここは犯罪者しか居ないんだ。帰れ。』と、また言ったよ。
『此処にいる人達は商人と聞きましたよ。父さんが居たら連れて帰ります。』と僕は睨んでやったよ。
管理人がいきなり剣を振るうよ。でもね、メアリーが偃月刀で払ってくれたよ。更に一回しして、石突きで腹に一撃して、気絶させたよ。
キンバリーは鞭を使って、剣を握った管理人の手を打つよ、一人、二人、三人。三人は剣を落としたよ。更に、メアリーが腹を払って気絶させていったよ。急いで、管理人達の目を塞ぎ、縛ったよ。先程の二人と合わせて、近くに座らせたよ。
『グレン、ここだ!父さんだ。ここだぞ。』
父さんの声だ。父さんが手を振っているね。
僕は父さんを見つけると、駆け寄ったよ。父さんは僕を抱いてくれたよ。
『父さん、探したんだよ。それも一人でだよ。やっと、会えたよ。良かったよ。生きていて・・・』と、僕は泣くつもりは無かったのに、涙が出て、泣けたよ。
『済まなかったな、でも、良く来れたな・・・』と、背中を擦ってくれたよ。
『父さん、怪我とか病気とか大丈夫?とても心配したんだよ。』と、僕は涙を拭ったよ。
今度は、父さんは僕の頭を撫でてくれたよ。久々で嬉しかったよ。
父さんの護衛の人達が、足枷の鍵を、管理人から取ってきたよ。順番に捕まっていた人の足枷を外していったよ。
足枷を外して貰った人の中には、管理人の人を殴ろとした人も、何人かいたよ、僕は管理人さんの前に立ちはだかったよ。その人達は、僕を睨んで、僕も叩こうとしたんだ。
でもね、メアリーが動くと、
『くそっ。』と言って、遠ざかって行ったよ。
その人たちは他の人たちを、偉そうに、護送馬車に振り分けていたよ。そして、僕達に話もせず、僕達を残して護送馬車で行ってしまったよ。
・・・人って、こんな時に本性が出るんだね。あんな人には気をつけないとね・・・
護衛の人達も唖然と、していたね
残ったのは、僕と父さん、父さんの護衛四人の六人とキンバリーとメアリー、そして管理人の六人だよ。
『皆んな、勝手に行ってしまったな、感謝も無いよな、グレン。』と、父さんが少し怒っているよ。
『父さん。僕は五歳だよ。みんなの面倒なんて見れないよ。だからね、勝手に行ってくれて良かったよ。それで、責任も無くなったしね。クックックッ』と、父さんに応えたよ。父さんも、護衛の人も納得していないね。顔が怖いよ。
父さんは気を取り直すと言ったよ。
『あはは、確かにそうだな。でも、馬車が無いぞ。歩いて行くのは大変だぞ。』
『大丈夫だよ、父さん。僕等はファンタン家だよ。僕が、あんな粗末な馬車に父さんや護衛の人を乗せると思うの。家の馬車を呼ぶね、キンバリー、頼むよ。』
キンバリーが笛を吹く。
僕の馬車が、山の向こう側、柵の方から駆けてきた。
『これは、家の馬車かな?』と、父さんが驚いている。
『うん、僕が乗るのに作って貰ったんだ。でもね、父さんのと一緒だから、乗り心地は良いよ。』
『そうか、そうか』と、父さんがまた、頭を撫でてくれたよ。
護衛の方達も驚いていたけど、安堵すると、喜んでくれたよ。
『日が落ちたら、管理人の縛めを緩めて、出発するけど、それまで、食べたり、飲んだり、風呂にも入るといいよ。今、用意するね。』
『しかし、グレン。夜は危ないぞ。』と、父さんが言うよ。
『僕は、夜も移動していたよ。一度も危ない目に会った事は無かったよ。昼間の方が大層、危ないよ。』
父さんは、不思議そうに僕を見たが、何も言わなかったね。
深夜前に採鉱場を出たよ。勿論、管理人さん達の縛りを緩めて上げたよ。
馬車の中、護衛の人達は寝ているよ。具合いは大丈夫かな。だから、僕は、馬車を浮かせて進んだよ。父さんは驚いた顔で、僕の顔を見たけど、何も言わなかったよ。
ケイロスの検問所まで、何事も無く到着したよ。
検問所は荒れていたね。門は壊れていたし・・・衛士も居なくなっていたね。
『ね、何も無かったでしょう。』と、父さんに言うよ。
『本当だな、グレンの言う通りだね。』と、笑ってくれたよ。
そろそろ、夜が明けそうだね。
僕達は、そのままフーラン領のフーリンゲンの常宿に向かったよ。昼前にはフーリンゲンの常宿に着いたよ。
宿は快く、泊めてくれたよ。
宿で落ち着くと、父さんと護衛者さん達が話し合っていたよ。これからどうするかをだね。私達はアメリアには帰らないと思うから、ここで契約を終了してもいいし、このまま、雇用しても構わないと、父さんは告げたよ。護衛者さん達はアメリアに戻りたいと言われたので、契約料と更に半年分、迷惑料を支払って上げたよ。とても感謝してくれたね。
護衛者さん達は、二泊し、体調を戻すと、アメリアに戻って行ったよ。父さんも三か月の労働で少し、体が弱っているようだね。僕には言わないけれど、体が上手く動いていないようだよ。
・・・父さん、無理をせずに療養してね。母さんの事は任せてね・・・
『グレン、新たに護衛を雇うかい?』と、父さんに聞かれたよ。
『父さん、僕には、色々秘密があるからね。人を雇うのは止めておきたいんだ。何せ、キンバリーとメアリーもいるからね。』
『そ、そうだな。』と、父さんは、その後は、何も言わなかったよ。
『ねえ、父さん?何故、母さんだけ、船で行ったの?』
僕は聞いたよ。
『父さんは船に乗ると、酷い病気になってしまうんだ。
だから、たまに、母さんは先祖様の地の島に帰るんだけど、一緒に行けないんだよ。』
・・・母さんの先祖様の地が島だと言うのを、初めてきいたな、それより、船酔いは病気か?と、僕の頭に浮かぶ・・・
『父さん。取り敢えず、受付で、船が出ているか聞いてくるね。母さんのご先祖様の島は、何て言うの?』
『うん?シャンタン島だよ。グレンは知らなかったのかい?』
『初めて聞いたよ。島と同じ名前なんだね。』と、僕は返したよ。
『グレンは何でも知っているから、シャンタン島も知っていると思ったよ。』と、父さんが頭を掻いているよ。
『父さん、僕は五歳だよ。知らない事は沢山あるんだよ。』
父さんは、
『あはは・・・』と、笑ったよ
宿の受付に行ったよ。受付は、経験豊かそうな女性だね。
『お姉さん、少し、聞きたいのですが、宜しいですか?』
『はい。何でしょうか?』と、にっこりされたよ。
『僕はグレン・ファンタンと申します。母が乗るベネッタに行く、船便に乗りたいのですが、今度はいつ、出航するのでしょうか?』
『今は、ある島が海賊に占拠されていて、定期船は運行を取り止めているんです。』と困った顔で、お姉さんが言われたよ。
『では、ファンタン島に行くにはどうしたら良いのでしょうか?』と、僕は聞く。
『ファンタン島は海賊とは係わりがないので、船を出してくれるかも知れないですが、漁師さんか、船主さんに直接頼んで見るしかないですね。』
『そうですか、では、島までの地図とか海流、それに深度の地図とか有りますか。』
お姉さんは不思議そうな顔をされるが、
『それは、船長さんか、船長経験者の方の秘密になっていますよ。』と、教えてくれたよ。
十三話 完




