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十一話 初めて治療をしたよ

ベルン領に入ったよ。領都ベルマルは港街なんだよ。海が見えるかな。海は見たことがないよ。本で読んだだけだよ。


平地が続いているね。荒地だね。街道も荒れているよ。目の前は遥か遠くまで見渡せるね。青い空と黃色い荒野だね。

日中なのに、他の馬車を見ないね。父さん母さんも、ここはゆっくり通るだろうね。僕は馬車を浮かせて、進んでいるよ。

のんびりだね。最近の移動は昼間だね。何も起きないと良いな。


・・・うん?前方に砂煙が上がっているな、盗賊か?隠れる場所が無いな・・・

前方より多数の馬に乗った人が来るよ。僕は馬車を街道の脇に停めたよ。キンバリーとメアリーを出しておくよ。


多くの馬に乗った人に囲まれたね。盗賊というより衛士に近いのかな。

代表の人が馬を僕の馬車に寄せて来たよ。僕は窓から顔を出して、代表の人の顔を見たよ。


『うん?この馬車の主は坊か?』と、不思議そうな顔で僕を見るよ。

『はい。私が主でございます。』と、応えたよ。

『しかし、この馬車はファンタン商会の馬車ではないのか?』

『はい、ぼくは、ファンタン家の嫡男でグレンと申します。両親が戻らないので、その消息を求めて、ベネッタ迄行く途中です。』

『そうか・・・』と、何か考えている様子だよ。


『畏れ入りますが、何れの方で御座いましょうか?』と僕は聞いたよ。 

『ああ、済まんな。儂はベルン本家のバリアスである。ファンタンのご当主とは良い関係じゃ。』

『父とで御座いますか・・・それは、それは。』

何と言っていいのか分からなかったよ。本当に良い関係なのかも分からないしね。少し、警戒したよ。


『で、これからどうされる予定かな?』と、バリアス様が聞かれたよ。

『はい。父の予定ではベルンの領都、ベルマルを通って、フーラン領へ向かったと思われます。で、僕もその通りに行こうと思っております。が、何か問題がありましょうか?』と応えたよ。


『確かに、ファンタン殿はベルマルに入られた。それは間違いない。』

『実は、ベルンは本家と分家で、争っている。しかし、街道の通過には支障がなかった。商会の方々は、それぞれに通行料を出してくれていたからな。が、一ヶ月前だ。突如、分家の傭兵がこの先で砦を築き、通行の阻害を始めた。分家には苦情を入れた。商会が通行出来なければ、極めて深刻な問題となる。それで良いのか?、と。』


『しかし、分家には関係無いと突っぱねられた。では勝手にこちらで排除すると申したが、好きにしろと言うのでな、何度か攻めたのだが、砦の獣使いが強うてな。砦の排除が出来ん。で、今はこの先が通行出来んのだ。他の商会にはベリアに回って貰っておる。』と、済まなさそうに言われるよ。


それで監視して居るんだね。でもね、それは困るんだな。ベリアを回ると、ベルマルとフーリンゲンを通らず、直接ケイロンに抜ける事になるんだよ。時間が取られるのも、心配だよね。


僕はじっと考えていたよ。

『それと、子息殿。・・・薬草の持ち合わせはないだろうか・・・有ればであるが、ご融通頂けぬか?傷に苦しんている者が多数居る故にな。儂らが持つ薬草では効かんのでな・・・』と、辛そうに言われたよ。


そう、ファンタン家は薬草も扱うから、訊かれたんだね。

『多少、薬草の持ち合わせは有りますが、傷と症状を見せて頂きませんと、何とも言えないのですが・・・』と応えたよ。

・・・しくしく、また、巻き込まれたよ・・・


ベルン本家の方々の馬の後ろに付いて行ったよ。そこは、街道から少し外れた砦が見える場所だよ。多くのテントが張ってあるんだね。


『ここは、砦からの攻撃はないのですか?』と移動の最中に聞いて見たよ。

『うん、砦からの攻撃は無い。守るだけのようだな。理由が分からんが・・・』

・・・うん?遮断だけ?・・・街道の通過をさせないとは、何故かな?


テントの傍に馬車を停めたよ。皆がテントから出て、僕を見ているね。

テントからの方々の雰囲気が暗いよね。絶望の底って感じの表情だね。僕に何も出来無かったらと思うと、とても辛いよね。


テントの一つに連れて行かれたよ。大きなテントだね。

僕は、革の鞄をぶら下げて、鞄を背負ったキンバリーと、二人で行ったよ。メアリーは馬を連れてテントを離れさせたよ。僕の馬には、触ってもらいたく無いからね。


テントの中には、若い男の子が寝ていたよ。熱と痛みで苦しそうだね。大量の汗をかいているよ。

テントの中の皆も鎮痛な顔だよ。


包帯を外して、傷を見たよ。傷の周りが緑に腫れ上がっているよ。

・・・うん?これは、難しい本で読んだな、植物毒だったかな・・・


『キンバリー、緑の本を出してくれるかい。』と、キンバリーに、本を出させるよ。

僕は、本を広げて、植物毒の欄を読んだよ。

・・・うん、やはり植物毒だね。棘が残っているのか、それを抜くのが困難・・・もし抜けたら消毒でよいのか・・・糸を使うか・・・糸で触って抜いてみるよ・・・


『キンバリー、消毒液をお願い。それと絹糸だね。それか腕に触れていてね』

キンバリーに触れて糸を固くし、傷口から刺して入れて行く。棘に触れる、棘が動かせる、引っ張りだせた。

『キンバリー、水で洗って消毒だよ。』


うん?バリアス様が驚いているよ。

『バリアス様。植物の棘でこざいます。その毒でございますね。棘が抜けましたので、消毒で毒が消えると思います。他にも居られますか?』と聞いたよ。

『大変済まないのだが・・・あと、十人程おるが、頼めるか?』

『はい、キンバリーも頼むね。』


一晩経ったよ。

棘を抜くのは、結構疲れたな。

僕は、テントから離した馬車で寝ていたよ。テントより快適だからね。

それに、馬には、水と飼葉を上げないとね。他の人には任せられないよ。気が付かれたら困るからね。


テントの方々が明るくなったよ。僕を見ると、口々に感謝してくれたよ。僕も皆が元気になったのを見れて、とても嬉しいよ。


バリアス様は、最初に治療した男の子の傍から離れなかったみたいだね。悲しそうな顔で、ずっと、治療も見ていたね。ご子息様かな。

熱も痛みも緩和され、意識も戻ったんだってね。大層喜んでいたらしいよ。


バリアス様が馬車まで来たよ。

『グレン殿。このご恩は一生忘れぬ。本当に有難う。もう、半分諦めていたから・・・』と、僕の手を取って、とても喜んでくれたよ。

一人息子なんだって、だから、もし、亡くなる様な事になったら、連れて来た事が、悔んでも、悔んでも、悔やみ切れないところだったって言われて、泣かれたよ。

やはり、どこの親も、自分の子供は大切なんだね。


『で、明日、砦を全力で落とそうと思う。せめて、グレン殿には通って貰いたいからな。』とバリアス様が、力を込めて言われるよ。

『バリアス様。昼間に攻めてはなりませぬ。おそらく、植物使いもおりましょう。本来、この地に、あの植物は生えませぬ。ですから、深夜にお攻めなされませ。深夜であれば獣使いも、植物使いも、使えませぬ。』

『しかし、夜には魔物が現れよう・・・』


『バリアス様。東方の深山幽谷ならいざ知らず、この百年、西方二十家で、魔物を見た者は居りませぬ。』と、じっとバリアス様を見たよ。

『そ、そうか・・・』と、バリアス様の顔に戸惑いが見られるよ。

『はい。僕もアメリアよりの移動に、夕刻から朝方の時も在りましたが、魔物も獣にも遭遇したことは在りませぬ。何なら、砦の夜の攻めにご同道いたしましょうか?』と微笑んだよ。


『では、深夜に攻めるといたそうか・・・』と、嫌そうだったよ。バリアス様も、夜は怖いのかな。

『はい。必ず、落とせますよ。』と、言って上げたよ。


深夜だよ。

砦を囲み、門を壊し、侵入したよ。二十名程居たよ。砦に居た者達は驚いていたよ。我々を魔物使いと思ったのか、誰も抵抗しなかったよ。獣使いは五名も居たよ。バリアス様達は、驚いていたね。獣使いがね、五人も集まる事は中々ないんだって。狼が十頭いたよ。離して上げたよ。


そして、植物使いも一人見つけたよ。隠れていたね。やはり、バンチュウラを鉢に植えていたよ。バンチュウラの蔓に有る、その棘に毒が有るんだよ。バンチュウラは燃やしていたよ。


バリアス様は、砦の者を尋問すると言っていたよ。バリアス様の顔が怖かったよ。

だから、僕はバリアス様に、辞去の挨拶をしたんだ。

無抵抗な人を虐げるのは、するのも、見るのも、係るのも嫌だよ。

卑怯かもしれないけど・・・五歳だからね。

直ぐに砦をでたよ。バリアス様は了解してくれ、砦から見送ってくれたよ。

・・・ご子息様、早く良くなってね・・・


十一話 完











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