十話 ゴルシア領主に会いに、行ったよ
男は入口脇の部屋に僕達を入れると、鍵を掛けたよ。
『おい、お前ら何しに来たのだ。』と、男がいきなり、喚き出したよ。無礼な男だね。
・・・この人、馬鹿なのか・・・
『この方の母様を返して頂きに上がりましたが・・・』と僕は行ったよ。
『うん?お前は誰だ?』と、男が聞くよ。
『先ほど、衛士様にお話を致しましたが、お聞き及びでは御座いませぬか?』
『聞いて居らぬから聞くのだ。』
『では衛士様からお聞き下さいませ。どこの何方か、分らぬ方に、お話は出来ませぬ。』
『小僧が、生意気な、良いから話せ!さもなければ、痛い目に合わすぞ。』
『痛いのは、困りますね。抵抗いたしますよ。』
扉の取っ手を開こうとする音、扉を叩く音が続けてするよ。
『開けろ。何故鍵を掛けておる?』と、声も聞こえるよ。
男は慌てて鍵を開けて、扉を開けると、頭を下げたよ。
『ガンツ。どういうことだ?』と入って来た方が、無礼な男を睨んでいるよ。
『領主様。領主様がお会いする程の者共では有りませぬ。私が問い質して起きます故、お戻りを。』と無礼な男が、頭を下げたまま、しれっと話すよ。
『そうか、ガンツ。儂の許可なく、儂の客に無礼を働くとは。理由を聞いてやる。ヘンリー、ガンツを連れて来い、逃がすな。』と領主様と呼ばれた方が言われたよ。
それを聞いたガンツと言われた男が、青褪めているよ。
・・・やはり、馬鹿だったね・・・
『大変失礼した。儂はゴルシア領主のユーリーである。部屋を替えよう。付いて参られよ。』と。
領主様が先に歩かれて行く。僕ら四人が次に続き、最後に衛士様達とガンツと呼ばれた男が続いたよ。
立派な扉の前に着くと、ヘンリーと呼ばれた方が扉を開けると、領主様が入っていき、みなが続いたよ。
この部屋は豪華だね。先程の部屋が尋問室なら、この部屋は客間だね。一人座っていた女性が立ち上がったよ。お姉さんが掛け寄って、抱き合ってる。良かったね。
『さて、座って話をしよう。』と、領主様が椅子に座ったよ。僕とお姉さん、御婦人も座ったよ。キンバリーとメアリーは僕の後で警護だね。衛士の人達も警護だよ。
『さて、ご子息。何とお呼びすれば宜しいか?』と、聞かれるよ。
『はい。坊で構いませぬ。』と、にっこりするよ。
『うん?・・・ではその様に。坊殿、わざわざお越し頂き、済まぬな。少々、お待ちを。何せ、儂の処に、話しが上がっておらぬでな。』と言われたよ。
『まずガンツ。御婦人を呼んだのは何故じゃ?』と、睨まれる。
『名前はいらぬ。話せ』
『はい。ある方が、この女が焼く鶏肉に香辛料が使われていると、尚且つ、卸されている形跡も無いし、価格も適正では無い故、調べて欲しい・・・』と、ガンツか言ったよ。
『ほう?ガンツ、何故受けた?それは組合の問題であろう。我が関知することでは無いわ。金でも貰ったか?』
『いえ・・・その様な事はありませぬ。領内の安穏の為でございます・・・』
『そうか・・・我もそれを願っておるぞ・・・ヘンリー連れて行け。』
ガンツは項垂れながら、連れて行かれたよ。
『であるが、坊殿。これはこれで、困った事になってしもうた。最初に、断っておれば、問題にもならなんだが、受けてしもうてはな。結論を出さねばならぬ。如何いたそうかの・・・』と、僕を見られるよ。
僕はキンバリーに助言を貰ったよ。
『ご領主様。調理場をお貸し頂けますか?それと料理長の方にも御判断頂ければと思います。結論をお見せ致しましょう。』
『結論とな?』とご領主様が首を傾げたよ。
皆で、調理場に行ったよ。
『キンバリー、お願い。』
キンバリーが香辛料と薬味七種の壺、昨日買っていた鶏肉、そして、昨日買っていた焼鳥を出して、テーブルにおいてくれたよ。領主様は不思議そうにそれを見ていたよ。
でも、何も言われなかったね。
『これは、昨日、こちらの方の屋台で買った焼鳥で一日漬けて焼いた鶏肉でございます。で、これは生の鶏肉二枚。これに、一枚はこの香辛料をまぶし、もう一枚は、この薬味を比率で混ぜ合わせ、まぶして、焼いて貰います。勿論、こちらの方にいつもの手順にてでございます。』
『で、この薬味を、それぞれ、更にだします。香辛料ではなく薬味である事を、ご確認いただきます。』
領主様と料理長が確認してくれたよ。
『では、いつもの通り、お焼きいただけますか。』と、僕は、お姉さんにお願いしたよ。
お姉さんは二つの肉に、それぞれ香辛料と薬味をまぶして、焼いてくれたよ。
・・・うん、いい薫りだな・・・
『で、二つを食べ比べて頂き、ご感想をお願いできますか。また、念の為、一日漬けて置いて、焼いた鶏肉との違いも比べて下さいませ。』と、皆に説明したよ。
『確かに一日漬けた物はしっかり染みておりますが、この二つの味は変わりませぬな。』と料理長が言ってくれたよ。
『確かに』と領主もだね。
『しかし、薬味も安くは有りませんぞ。これでは、香辛料より高価になりませんかな?』と料理長に言われたよ。
『はい。ですから、大量に作っても香辛料に替わることはできませぬ。しかし、薬味を精製するにあたり、薬味として使えない部分は出てしまいます。それを使えば、少量であれば、手数だけで作ることが出来ます。それは自家用として、我らは作っておりますが・・・』
『成る程、そう云う事であるか・・・』と、領主は言われたよ。
『はい、本来、問題に成ることでは有りませぬ。それを問題になされ、騒がれました事は由々しき事。また、この方々に対して不要な偏見、嫉妬、悪意を受けられるであろう事は、真に問題であります。如何に保証をなされるか気になる処でありますが・・・』と、僕は領主を見つめたよ。
『確かに、そうであるな・・・』
『今後、我が家からの供給は難しく成ります故、是非、その方々からの供給をお願いしたく、ご深慮、賜りますようお願い申し上げます。』と、言っておいたよ。
ユーリー様に、お姉さんとその母様の送りを頼んだよ。笑って引き受けてくれたよ。これで僕もベルンに行けるんだね。
僕はベルンとの領界に向かったよ。
平坦だね。田畑が続くよ。次はベルン家の領地だね。今度こそ、何も無く通過したいよね。ゴルシアの領主様には両親の一行が、ベルン家領に入った事は確認して貰ったよ。
ーーーーーー ゴルシア領主ユーリー ーーーーーー
『ガットリー。ヘンリーは何か言ってきたか?』
『ほぼ、間違いはないかと、他にも色々有りそうだと。』と執事長が言う。
『そうか。しかし、ズーレン商会は何をしたかったのだろうな?』と我。
『おそらく、ファンタン家の当主が不明な事を知り、潰しに掛ったのかもしれませぬ。』と執事長が言う。
『うん?仲は良くないのか?』
『はい。組合長派、反対派、中立派と三派に分かれているようでございます。』
『ほう・・・ファンタン商会はどちらか?』
『ファンタン商会は中立派で、ズーレン商会は組合長派らしゅうございます。』
『ふーん。』
侍女が入ってくる。
『領主様、ズーレン商会の会頭がお会いしたいと参っておりますが。如何致しましょうか?』と。
『ズーレン商会か・・・うん、半刻ほど待てと、言っておいてくれ。』と我。
『仕方ないが、行くか・・・ガットリーも来い、』
『はっ。』
侍女が客間の扉を開けてくれる。
ズーレン商会の会頭が立って、頭を下げている。
『ズーレン、どうした?何か用か?』と我が聞く。
『領主様。突然の訪問にお会い頂きありがとう御座います。』
『うん、座ろう。で、なんじゃ?』
ガットリーは後ろに立っている。
『はい、ファンタン商会の事でございます。』とズーレンがいう。
・・・馬鹿が名を出しおって・・・
『ズーレン。商会同士の事だ。口は出さぬ。分かるであろう。組合の中でやれ。』
『それより、ガンツに随分金を出しているそうじゃな。』
『そ、それは・・・』
『よい。そちの金じゃ。我がどうこう、言う事ではない。が、我には、香辛料を出せ。そうじゃの・・・売却量の五分じゃ。頼むぞ。』と、我はズーレンを見る。
『は、はっ!』と、ズーレンは汗を拭いている。
『で、だ。レンティアの王妃から至急の文が来た。ファンタンに手を出すなとな。解るか?』と我。
『それは、レンティアがファンタンを助けると言う事でありましょうか?』
『違うぞ、ズーレン。我もレンティアも自分の領地以外に興味など無い。商会が争い、どれが勝とうが負けようが、どうでも良い。しかしなぁ・・・』
『それが領地に係わってくるとなると・・・ズーレンお前でも潰すぞ。たかが商会、たかが香辛料、自分で取りに行けば良いことよ。何ならベネッタにも兵を出すぞ。』と笑う。
『はぁー。』とズーレン。
・・・本気にしておらんな・・・
『しかし、レンティアが我に言うと云うことは、ゴルシア領で何かあると、レンティアにも関係してくる事を危惧しておるのよ。だから、放っておけとな。』
『良いな、ズーレン。ファンタンがどうであろうと構うなよ。今回は目を瞑った。しかし、次は無いぞ。』と、笑っておいた。
・・・こやつはどう出るか、舐めておるだろうな・・・
『か、畏まりました』と、ズーレン。
我は、ガットリーとともに部屋に戻った。
『ガットリー、どう思う?』
『暫く、衛士を送り込んだほうがよろしいかと。』
『そうだな。暫く囲んでおくか。』
・・・しかし、驚いた。あの王妃が手紙を寄越すとはな・・・レンティアも何かあったかもしれぬな、調べておくか・・・
『ガットリー、レンティアもな。』
『はい。』
ーーーーーー ズーレン ーーーーーー
・・・ちっ、昨日は領主に脅されたわ。領主め、覚えておれよ、我等を舐めるとどうなるか、思い知らせてやるわ・・・
『ズ、ズーレン様。衛士が、衛士が囲んでおりますが
・・・』
『な、何?』
ーーーーーーーーーーーー
十話 完




