七 忍び寄る災いの魔手
中原、ギルディア王国。
王都繁華街の路地裏にて。
「大変だ! ひ、人が死んでるぞ!」
「こいつぁ、王妃様でねぇか!? 一体なんでこんなお姿に!!」
◆
中原、ソト王国。
王都近郊の森にて。
「王子、狩りもそこそこにもう城へ戻らねば。日が暮れてしまいますぞ。……王子?」
茂みの奥に横たわる王子の首には深い裂傷。血は殆ど流れ尽くしていた。
「お、おお、王子ッ!!」
◆
中原、サーガイア王国。
王都サーガイア城内、中庭。
「宰相閣下。こちらにおわしと伺い推参致しましたが、手前に何か?」
現れたのはサーガイア王国の筆頭将軍。噴水の縁に腰を下ろす宰相に歩み寄る。しかし宰相の目が怪しく光ると、突然にゅるりと空間を切り取ったかのように懐を侵略された。
直後、迸る銀閃が将軍の腹部を一文字に切り裂く。
「ぐふッ!」
将軍は訳がわからなかった。なぜ宰相が自分を襲うのか、武の心得無き宰相の一太刀が、なぜこんなにも鋭いのか。
そして、膝から崩れ落ちる自らの視線の先、噴水の奥で事切れているのは、目の前にいる宰相その人ではないのか。
巡る思考の答えは何一つ出ないまま、振るわれた追撃の一刀に、将軍の意識は暗転した。
◆
中原、カナン王国。
国王、ジークフリート・バッハシュタインの私室。
深夜、一人政務処理を行っていたジークフリートは一つ大きく伸びをした。少し外の風に当たろうかと、バルコニーに近付いた時。
王となる以前、武勇で鳴らした歴戦の直感が、機微な変化に警鐘を鳴らす。
慎重にバルコニーへ繋がる大窓を僅かに覗くように開けると、まさにその隙間を透明なクリアナイフが風を切り裂き飛来した。
「ぐおっ! な、何者ッ」
頬をざっくりと切り裂かれ、鮮血を滴らせながらも、ジークフリートは臆することなくバルコニーを睨みつける。
そこに現れたもの。それは転落防止用の腰壁を外側から超えてきた黒装束の影者シャドウだった。
ジークフリートが僅かに狼狽したその隙を突く様に、影者シャドウはアメジストに煌めくナイフを手に襲い掛かった。
「おのれッ、痴れ者めが!!」
ジークフリートは迎撃の剣を振るった。
◆
中原各国で発生した要人襲撃事件。
犯人の正体をつかむ事ができなかった各国は、一様にこの事件を秘匿にし、情報の漏洩を防ごうとした。黒幕は同じ中原に割拠する何処かの国ではないか、と疑心暗鬼に陥った為だ。
ヴェリア王国とカナン王国の間で勃発した『十年戦争』の記憶も新しく、中原各国の胸中は決して一枚岩と呼べるものではなかった。
中原に不穏な空気が蔓延する。無論それは、ヴェリア王国も例外ではなかった。




