四 邂逅
鉱山の固い岩盤を登り切ると、ビアンカの目の前に陥穽の如く窪地が広がった。そしてその窪地の中心に余りにも異質な、しかし想像していた姿に近い生物がいるのをビアンカは見た。
「翼の生えた鰐? あれは、まさか……ドラゴン!?」
同じくして岩肌の山頂に現れた人間を翼竜の母竜も目の当たりにする。
剣を引っ提げ、双眸の片側が蒼光を放っている、あれは人間の娘だ。見られたからには殺すしかない。しかし、火炎吐息を吐いて自らの身体が保つか……。
考える暇はない。母竜が高熱の火炎吐息を蓄えた。が、ある驚愕の事実に気がつきギョロリとした目を見開いた。
『何たる奇跡。これこそ正に竜神ラシリスの思し召しに違いない。人間の娘よ、清き魂を貰い受ける。悪く思うな』
ビアンカは眼下のドラゴンから殺意と高熱の気配が向けられた事を察知し身を躱そうとした。しかし向けられたそれらがビアンカを襲う事はなく、代わりに辺り一面を眩い光が照らした。発光しているのはドラゴン自身であり、朝日を目の前で浴びたかのような眩ゆさに、ビアンカは瞼を固く閉じ瞳を守る事しかできない。
ほんのニ、三秒の後、辺りは静まり返った暗闇へと戻る。ゆっくりと瞼を開いたビアンカの視界に、今し方までいたはずの巨竜の姿はなく、忽然と姿を消してしまっていた。
「あれは」
しかし巨竜がいた窪地に小さな、翼竜と思しき生き物が横たわっている。
岩肌を降り、目の前で確認するとその小さな翼竜はすやすやと寝息を立てていた。
恐らくまだ赤ん坊、危険な気配は感じられない。
「可愛い……」
思わず呟くビアンカ。すると、瞼と瞬膜がしゅるりと開き、巨竜の鋭い眼光とは異なる純粋無垢な光を宿した瞳がビアンカを捉える。小さくとも未知の生物だ。ビアンカに緊張が走るが、ひょこっと起き上がった翼竜は首を傾げてビアンカを見つめると、首を差し出し甘えるような仕草をしたのだ。これには流石のビアンカも戸惑ったが、母性を求めるその純粋な様子に、ふと緊張を解いた。戸惑いつつもビアンカは、その頭を優しく撫でた。
さっき見た巨竜がこの子の母親なのだろうか? だとしたら一体どこに消えてしまっまのか。あの瞬間、確かに私を殺さんとする殺気を感じた。でもあの眩い光が放たれた時は別の感覚……。
とにかく差し当たってあの巨竜が居なくなってしまい、この子をこのまま放っておけば死んでしまうかもしれない。ならば連れ帰るしかないが。
「だけど、困りましたね。この子を連れ帰るには人の目につかないようにしなくては」
独りごちるビアンカは思案した。流石にこの翼竜の姿を見られては騒ぎになってしまう。一先ず秘密裏に連れ帰りラファエルの判断を仰ぎたいところだ。
考えるビアンカの横顔をつぶらな瞳でじぃっと見つめる翼竜がキュルッと鳴いた。
「ラファエル様との約束を違えてしまいますが、致し方ありません」
手を伸ばしもう一度鼻先を撫でると、目を細めた翼竜は嬉しそうに翼を広げ羽ばたかせた。翼開長した大きさは既に三メルト近くありそうだった。




