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ユグドラシル大陸戦記 天翔る碧眼の竜騎士  作者: 風花 香
第一章 戦乱への序曲

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二十ニ カナン軍の猛攻

 ニヴルヘイム大陸とヴィーグリーズ大陸を隔てる大河川。それは遥か昔から、北から中原への侵攻を妨げる自然の要害である。

 しかし今、その川を縦断する船団が朝霧の奥から現れようとしていた。常識を覆す、南から北へ。マナリアの沿岸都市に上陸したのは、国王を襲撃された怒りに燃えるカナン兵たちだ。


「進めえぇぇぇぇ! 悪逆皇帝ネフェリシスに報いを与えろ!」


「なっ!? カナン王国軍だと? ま、待て貴様等、乱心したか!? 突然このような侵略行為を!!」


 この地を守備する部隊長が先頭を突き進むレオンに静止の声を上げた。それに対する返答はレオンの問答無用に振るわれた、落雷のような袈裟斬りだった。静止をかけた守備隊長は断末魔の叫びを上げる。


「貴様等外道と一緒にするな。宣戦布告の書状なら今頃ネフェリシスの元に届いているだろう。俺達の煮え滾る怒りはもう一時たりとも我慢がならんのだ!」


 レオンの言葉に鬨の声を上げて応えるカナンの精鋭二〇〇〇は、抵抗する兵士達を皆殺しにしながら突き進む。

 目指すは皇帝ネフェリシスが座する帝都、ヴァルハラ。

 怒れるカナン軍は一丸となり怒涛の如く北上するのだった。


 

 一方その頃、帝都ヴァルハラの居城にてネフェリシスはカナン王国からの宣戦布告の書状を読み上げていた。


 病的なまでに青白い肌。口唇には黒光りするルージュが塗られ、細い肢体に長く艶やかな黒髪を蓄えたその中性的な容貌は美しくもあり、同時に恐ろしくもあった。

 さながら物語に出てくる魔王が現世に現れたかのような、そんな風体。

 書状を手にする靭やかな指の先も同じく真っ黒なマニキュアが塗られており、切れ長な二つの目がレオンから届けられた怒りの文字の羅列を冷徹に追っている。


「カナンが動いたか……。ふっ、立て続けに英雄を喪う事になろうとは……憐れだな」


 ネフェリシスにとってカナンの猛攻など取るに足らぬもの。決死のカナン軍は、既にネフェリシスの罠に掛かっていた。



 北上するカナン軍は左右を丘に挟まれた隘路(あいろ)に差し掛かっていた。守り易く攻め難い地形、レオンは瞬時にそこが敵の狩場である事を察知する。


「伏兵があるかもしれぬ。用心せよ」


 勇猛で知られるレオンは注意を促すと、恐れる事なく先頭を突き進んだ。大将であるレオンのその姿は軍全体に勇気を与え、高い士気を保ったままカナン軍は隘路内に侵入した。


 半ばまでカナン軍が進軍した時だった。レオンの読み通り、左右の丘にマナリアの伏兵が現れる。

 高所から雨のように降り注ぐ矢。しかし今のカナン軍はそれしきの事は意に介さない。


「怯むな! ここが奴等の狩場の(あぎと)である事など承知の上! 敢えて噛ませた腕を引き抜くな。食い千切られたくなければそのまま喉元を突き破れ! 俺に続け、カナンの英雄レオンはここにいるぞ!」


 味方を鼓舞し、叫びながら突き進むレオンは隘路の出口を塞ぐように防陣を組むマナリア兵に襲い掛かった。気迫に圧されるマナリア軍と、大将レオンに引っ張られたカナン軍とでは士気の高さ、勢いに雲泥の差がある。

 防陣に(ひび)を入れるとそこから一気に切り裂き、カナン軍はマナリアの狩場を見事突破した。


 敵の策を打ち破り、意気揚々と歓声を上げるカナン軍だったがその行軍が止まった。それは先頭を行くレオンが足を止めたからに他ならない。


 レオンの目に飛び込んで来た光景、それは隘路の先に広がる広大な平原。そしてそこに布陣するマナリアの大軍勢だった。


「ここが本当の狩場だよぉ。カナンの弱卒ども、幕だねぇ」


 皇帝ネフェリシスの改革により、新たに一新された軍団制度。

 カナン軍の眼前に展開するは、新設された第八軍団。率いるはマナリア軍内において狂犬の異名で知られるペドロサ・レオカディオ。

 

 周到に用意された罠。既に半包囲された状況に陥り、退路にも蓋をされてしまった。


「元帥、何を立ち止まる事がありましょう!」

「マナリアの外道が幾万人立ち塞がろうと、我等はネフェリシスの喉元に喰らい付くまで止まりませんぞ!」


 だが、ザッハークの呪術により、怒りに支配されているカナン軍には関係ない。敬愛する王を非道な手段で殺そうとした敵に、背中を見せる気は毛頭なかった。


 カナンの軍中でただ一人冷静でいられる魔道士も、この状況に半ば呆れていた。

 これ程までに士気が旺盛な相手と戦うのは危険というもの。不退転の覚悟と将兵一丸となって目的に突き進むこのカナン軍はかなりの強敵であろう。

 ザッハークにより冷静さを欠いたとはいえ、死をも恐れぬこの軍団は恐るべき突破力を生むはず。

 

「だからこその包囲殲滅か」

 小さくない犠牲を払ったとて、ここで相手の精鋭を壊滅。そしてカナンの雄、レオン・バッハシュタインを討ち取れば戦果としては十分過ぎるというもの。

 ゴッタ伯に扮した魔道士は、見晴台に登りレオンの様子を注視した。


「正面の敵を抜く! 俺達の怒りの炎でマナリアを焼き尽くせ!」

「ハハハハハッ! 活きがいいねぇ!! 嬉しい、嬉しいなぁッ!!」


 残忍な笑みを浮かべて、ペドロサは向かってくるカナン軍に突撃する。一騎当千の猛者ペドロサは得物の薙刀を馬上から百花繚乱の如く振り回し、カナン兵を次々に斬り殺していく。


 対するレオンも迫り来るマナリア兵を斬り伏せながら猛進していく。そんな二人が戦場で相見えるのは必然であった。


「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ヒャッハァァァァー!!!!」


 レオンの咆哮とペドロサの狂笑が交わったと同時に、互いの得物が激しくぶつかり合い橙色の火花が散った。


「ヒャハハハッ! 弱小国の分際で天下のマナリアに喧嘩を売るなんて相当イカれてるねぇ! でも好きだよぉ、そういうバカはさぁ!」


「イカレ具合で言えば俺達など貴様の足元にも及ばない。だが怒りの丈ならば貴様如き焼き尽くして余りあるぞ!」


 馬の胴を蹴り再び距離を詰めるレオン。それに嬉々として応えるペドロサ。二人の間に再び激しい剣戟の嵐が繰り広げられた。

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