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ユグドラシル大陸戦記 天翔る碧眼の竜騎士  作者: 風花 香
第一章 戦乱への序曲

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十四 魔道帝国マナリア

 マナリア帝国――。


 この世界ユグドラシルにおいて、中原を含む中央の大陸をヴィーグリーズ大陸と呼ぶ。

 そのヴィーグリーズ大陸の北部域、豊かな穀倉地帯が広がる一帯を中原と呼び、そしてその北を流れる大河川を越えた先の大地をニヴルヘイム大陸と呼ぶ。

 未開の地も多いニヴルヘイム大陸だが、総面積でいえば、数十の国が割拠するヴィーグリーズ大陸とほぼ同等という広大さ。そして、その広大な北の大地をほぼ一手に治める大帝国こそが魔道帝国マナリアである。


 莫大な財力に豊富な資源、卓越した工業技術に無敵の軍事力、そして超先進的な魔道研究を推し進めるこの国は、ユグドラシル大陸史において最大版図を築き上げた大帝国。

 しかし数年前まで、この国の内情は悲惨なものであった。帝都圏に近い地域こそ、綺羅びやかな都の輝きに満ちていたが、地方では権力に幅を利かせた貴族たちが私利私欲の為に領民に重税を課し、民たちの生活は荒れ果てていた。

 更には先代皇帝は暗黒教団を名乗る輩と懇意となり、国の未来を慮ることをせず、大帝国の内部は他国から想像されるような理想郷とは程遠いものだったのだ。


「そんな最悪な国の貧民街で私は生まれたの。親の顔も名前も知らない、生まれて直ぐに私は棄てられた。だけど、私はある人に救われた。その人の名前はアナスタシア・メルクーリ。弱冠二十歳にして帝国最強の魔道士と云われた女性(ひと)



◇◆◇◆◇◆



「この国は狂ってる。世界を見渡したってこの国ほど資金も資源も潤沢で、技術が進んでる国はないっていうのに、数え切れない程の人が飢えや寒さに苦しんでる。なんでだかわかる? プリスカ」

「一部の権力者が私利私欲の為に悪逆の限りを尽くしてるから」

「正解! プリスカは賢いね、まだ五歳なのに」

「アナ様が毎日のように言ってるから覚えちゃったよ」

「あははッ、そっかそっか。でもね、プリスカ。それを覚えたのならこれも覚えておいて。偉い人っていうのは本当なら弱い人たちを助けてあげなければいけない、この国の腐った権力者のようであっては決してならないの」


 からからと笑ったアナスタシアだったが、その言葉はプリスカを子供扱いしない真剣さを湛えていた。プリスカもまたアナスタシアの意を汲み、くりりとした瞳で見つめ返してコクコクと頷く。


「魔法の研究が盛んに行われている国なんて普通はない。何故ならその為には莫大な資金を投じる必要があるから。それに費やすお金があるくらいなら、赤ちゃんの為のミルクを支給したほうがいい。貧民街の領民達を助けてあげた方がいい」


 悲痛な面持ちでそこまで言ったアナスタシアは、自身を見つめ上げるプリスカの頭にポンと手を置いてくしゃくしゃと撫でた。

 そして優しい微笑みをプリスカに向ける。


「だからね、プリスカ。私は偉くないしお金だって持ってないけど、この特別な力を弱い人達を助ける為に使いたいの。それで救われる人が一人でも増えるなら私は魔道士になって良かったと思える」

「はい! アナ様は立派だと思います!」



◇◆◇◆◇◆◇◆


「おいおい、なんだよ。その人格者の師匠を殺さなきゃならねえ理由が見えねえぞ?」

「最後まで話を聞いてね、ムキムキのおじさん」


 眉を潜め野太い声で疑問を投げたグフタスに、プリスカはまだ話は終わっていないと釘を差す。


「二年前にマナリアで大事件が起こったのは知ってる?」

「もちろん、世界を震撼させたマナリア事変だな」


「そう、二年前マナリアの前皇帝が急死したの。それに端を発し、マナリア帝国の新皇帝ネフェリシスと弟シュヴァルツが袂を分かち、対立するに至った一連の騒動」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 前皇帝の突然の崩御。にも関わらずマナリア国内に大きな混乱はみられなかった。

 稀代の英雄と名高いマナリアの第一皇子、ネフェリシス・ヴァルトは直ぐさま皇帝に即位すると、乱れ切った国内の政治体系の立て直しに着手し、汚職を重ねる各地の領主を処断。自らの息の掛かった者達を新たな領主に据え、軍部を再統制し、中央集権による直接統治の形を整えた。


 戸籍の整理、各地の治水工事、浮浪者への仕事の斡旋、貧困層への助成制度等々。

 瞬く間に国内の問題を解決するその圧倒的政治手腕に、マナリア国内の治安はみるみる良化し、領民達はネフェリシスを皇帝と敬うどころか神と崇める程に心酔したという。


 しかし、ネフェリシスは決して善政を敷くだけの聖王ではなかった。寧ろ途轍もない野望を抱く恐るべき帝王だったのだ。

 裏でネフェルシスは前皇帝が懇意にしていた暗黒教団との繋がりを益々強め、教団の傀儡だった前皇帝と違いその組織を傘下に収める事に成功していた。

 

 そしてマナリアに従属していたとしても一切の容赦は無く、ネフェリシスの改革に異議を唱えようものなら、由緒ある諸侯といえど処断された。


 自らの覇道に立ち塞がるものは容赦しない。それが例え血を分けた兄弟だとしても。

 第二皇子のシュヴァルツ・ヴァルトは、忠実な臣として兄の覇業を支えていたが、ネフェリシスはその弟すらも抹殺しようとした。

 狡猾かつ周到に用意された罠によってシュヴァルツは絶体絶命の窮地に陥ったが、ある男の助力もあり、間一髪のところで難を逃れることができたのだ。


 そしてシュヴァルツはこの事件の直前に養子となっていたニヴルヘイム地方西部の大領主、ゼーベック家の当主の座につき、シュヴァリック地方と呼ばれる西部域一帯の国人と連合を組んでその盟主となった。

 

 シュヴァルツを取り逃がした事は想定外であったかに思われたが、その後シュヴァルツがマナリア包囲網を結成しようと、反ネフェルシス派の諸侯に呼び掛けた事がネフェリシスに自国防衛の大義名分を与える結果となり、彼等は電撃的な侵攻を受けるに至った。


 全てはネフェリシスの掌の上の出来事。

 離反した者に対する苛烈な処遇は他国への見せしめとなり、マナリア包囲網は実現しなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「とまあ、前置きが長くなっちゃったけど、マナリアの軍事行動はとても容認できるものじゃない。そのマナリアに、あの悪魔の国に」


 プリスカが一度口をぐっと真一文字に結ぶ。


「魂を売ったのよ。あの魔女(アナスタシア)は……」

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