十ニ 魔法少女プリスカ
暗闇の室内に踏み込んだラファエル達は現場の惨状に息を呑む。部屋中に散乱した家具や料理、更には血の海に倒れる侵入者と思しき者が三人。その近くにもう一人倒れ伏している人物が……。
「フランクッ!!」
「ベルツ! うっ、これは……」
グフタスがフランクの傷と血溜まりを見て呻く。
床に広がる真っ赤な水溜りは、フランクが死の淵に瀕している事をまざまざと物語っている。
「イザーク! 医者を連れて来い! 急げ、オラッ!」
「はい!」
意識がある内に伝えねばならないことがある。フランクは薄れゆく意識を懸命に繋ぎ止め、ぼやける視界にラファエルを捉えた。
「たい……ちょう……。すまねぇ、一人、逃した……」
「いいッ! そんな事はいいから喋るな。直ぐに医者が来る、気をしっかり持て」
「奴等は、只の盗っ人なんかじゃねえ……、恐らくは外国からの刺客。げほッ!」
「わかったから黙るんだ。あとの対応は私に任せていい。だから絶対に死んではならんぞ」
「へっ、誰に言ってんスか? 俺はフランク・ベルツっすよ」
血に塗れた唇をニッと歪めてフランクは気丈に振る舞うが、一刻の猶予もないのは明白だった。
フランクの呼吸が弱々しくなっているのが明らかにわかる。医者を呼びに行ったイザークが戻るまで保つか予断を許さない。
その時、階下から足音が響いたかと思うと遅れていたビアンカが室内に入ってきた。
「ああ、ベルツ騎兵隊長!」
ビアンカはフランクの姿を見て悲痛な声を上げた。一目見てフランクが危険な状態だとわかったのだろう。
薄っすらと目を開けたフランクが僅かに口角を上げ「よぉ……ビアンカぁ。無事でよかったぜ」と呟いた。まるでビアンカに心配させまいとするように。
「安心しなさい、ビアンカ。この男がそう簡単に死ぬものか」
ラファエルもビアンカを勇気付ける為というよりは、自らに言い聞かせているようだ。
しかし、既に普段のフランクに見られる飄々とした態度も軽快な軽口も聞かれない。静かに目を閉じて、消え入りそうな呼吸をゆっくり繰り返すのみである。
これまでに戦場で数え切れない程の死を目の当たりにしてきたビアンカは、フランクが助からない事を悟ってしまった。
途端に零れ落ちる涙。
「ベルツ……隊長」
「ねえねえ、その人助けてあげるから私のお願い聞いてくれない?」
突然、割れた窓から降ってきた声に一同弾かれたように顔を向けた。
「わわ、そんなに注目されると照れちゃうなぁ。えと、助ける代わりに話を聞いてくれる?」
そこにはローブを纏った少女がふわふわと浮遊しており、その不可思議さに全員が息を呑む。
少女の視線がフランクに向くと「ありゃりゃ、交渉の前にその男前さんを助けなきゃだね」と、とてとてと側に駆け寄った。
何をするのか見守っていると、フランクの傷にそっと触れた少女の手が白く眩い光を放つ。
それは何か凄まじい力を宿している事を感じさせ、光が収まった頃には蒼白だったフランクの顔に赤味が戻っていた。
「はい! これでもう大丈夫。ちょっと血が流れ過ぎちゃったみたいだけど、安静にしてれば元気になるよ。この男前さん凄い生命力だね」
「何じゃ……こりゃ……奇跡か?」グフタスは呆然と呟いた。
「君は一体……」ラファエルの問いに少女はにっこりと微笑む。
「ああ、自己紹介しないとだよね。私はプリスカ、魔法少女プリスカちゃんよ」
少女は可愛らしくウインクして聞き慣れない言葉、魔法少女と名乗ったのだった。




